大先輩ナダルにカツを入れられたアルカラスが連覇? ダバディが独自の視点で全仏OPを展望

フローラン・ダバディ

“クレーの王者”から忠告を受けたアルカラスは、連覇をかけて1回戦で錦織圭と戦う 【写真:ロイター/アフロ】

ナダルの発言に込められた真意

 クレーシーズンのクライマックスである全仏オープンテニス、通称ローランギャロスが、5月25日に開幕します。大会開幕3日前、フランスで唯一の全国スポーツ紙『レキップ』の表紙を飾ったのは、太陽王と呼ばれたラファエル・ナダルでした。引退してから初めてのロング・インタビューで、開幕初日となる日曜日の夕方には、センターコートで彼のオマージュ・セレモニーも予定されています。

 引退後、率直な発言が目立つようになったラファは、同胞であり、自身の後継者と目されるカルロス・アルカラスを主人公に据えたNetflixのドキュメンタリーに対して批判を口にしました。「カルロスが損をしている。あれでは、まるでパーティー好きに見えるが、トップレベルのテニス選手にそんな余裕はない。あれは本当のことではない。私は彼をよく知っているし、とても真面目でハードワーカーだ」。一見するとアルカラスを擁護しているように聞こえますが、実際には、将来デビスカップでスペイン代表の監督になるかもしれないナダルが、むしろ若き逸材を注意しているのです。「今回は許すけれど、セカンド・チャンスはない。世界一を目指すのであれば、オンもオフも100%テニスに注力してほしい」という忠告でしたね。

 今年のローランギャロスの男子は混戦模様です。前哨戦のイタリアOPでは、そのアルカラスが出場停止明けのライバル、ヤニク・シナーを破りましたが、その一つ前のバルセロナOPではホルガー・ルーネに完敗しました。今回、アルカラスの初戦の相手は日本の鬼才、錦織圭です。直前のジュネーブOPで途中棄権し不安が残る錦織ですが、長らく数字の上ではクレーコートを自身の最も得意とするサーフェスとして誇ってきました。3回戦では、現在、世界一のビッグサーバーとも称される地元フランスのジョバンニ・ムペツイとの対戦が待ち受けている可能性もあります。アルカラスにとって、開幕から決して楽なドローとは言えません。(※編集部注:23日、錦織は腰痛のため大会欠場を発表。アルカラスは予選勝者のジュリオ・ゼッピエリと1回戦で対戦することになった)

 25個目のグランドスラム制覇を目指すノバク・ジョコビッチは、昨年夏のパリ五輪で、同じローランギャロスの舞台でアルカラスを破り、金メダルを獲得しました。しかしその後は調子の波があり、勝ち上がっても、ベスト8で“自信を失った”アレキサンダー・ズベレフと対戦する可能性が高そうです。

 ズベレフはかねてより次世代のテニス界を代表する一人と期待されてきた選手ですが、いまだグランドスラム優勝のタイトルには手が届いていません。冒頭で触れたインタビューで、ナダルは「精神面の問題だ」と指摘していました。かつて80年代のイワン・レンドルや、90年代前半のアンドレ・アガシも長くグランドスラムを制することができずに批判を浴びてきました。ズベレフもまた、優勝するまではその評価を問われ続けることになりそうです。

大坂なおみの1回戦に注目

大坂なおみは1回戦で世界10位のポーラ・バドサと激突。両者は初の顔合わせ 【写真:REX/アフロ】

 メンタルといえば、大坂なおみは今回の全仏OPにどう挑むのでしょうか。先日、フランス・ブルターニュ地方のかわいい街サン・マロで、下部大会ながら自身初となるクレーコートでの優勝を果たしました。元セレナ・ウイリアムズのコーチ、パトリック・モラトグルの指導のもと、赤土で戦うためのコツを少しずつ身につけている印象があります。

 そんな中で迎える大坂の1回戦は、男女を通じてこの日の最注目カードかもしれません。対戦相手は、調子が戻ってきた世界ランク10位(5月23日時点)のポーラ・バドサです。昨年、大阪はこのローランギャロスのセンターコートで、自身のキャリアでも屈指のベストマッチを展開し、大会本命だったイガ・シフィオンテクをあと一歩のところまで追い詰めました。その経験があるだけに、たとえ強敵が相手でも、恐れる必要はまったくありません。

 そのポーランドのエース、シフィオンテクは現在世界5位に後退し、自信を失っている様子も見られますが、順当にベスト8まで勝ち上がれば、前哨戦のイタリア・オープンで見事に優勝を飾った、“笑顔がトレードマーク”のジャスミン・パオリーニとの対戦が待っています。

 一方、優勝候補筆頭とされるアリーナ・サバレンカは、ベスト8で最も苦手とする中国のジェン・チンウェンとの対戦が予想され、不運なドローと言えるでしょう。ここも波乱の香りが漂います。

 女子のドローのボトムハーフでは、アメリカのココ・ガウフに注目が集まっていますが、実際のところまったく読めません。そもそもローランギャロスは番狂わせの多い大会であり、特に赤土で育った選手が力を発揮しやすい舞台。ハードコート育ちのアメリカ勢にとっては、苦戦が続くことも多いのです。

 そんな中、個人的に応援しているのが、若い頃から知っている内島萌夏選手。テニスIQが高く、緩急をつけてプレーできる彼女は、今年のマドリードOPで開花し、その実力が世界に知られるきっかけとなりました。ぜひ2週目まで勝ち残ってほしい選手です。

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著者プロフィール

1974年、パリ生まれ。フランス国立東洋言語文化学院日本語学科卒業後に渡日し、映画雑誌『プレミア日本版』編集部で働く中、サッカー日本代表監督フィリップ・トルシエ氏の通訳としても活躍。2004年からフジテレビ『すぽると!』キャスター、WOWOWのテニス番組ナビゲーターなどを務める。スポーツを通して各国の世相や歴史、文化をも伝えるスタイルで人気を博す。フランス語、日本語のほか7カ国語に精通。

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