元中日チーフスカウト・米村明が明かす獲得秘話 ドラ4で郡司、ドラ5で岡林を指名した理由
郡司のブレイクは監督の度量の問題だった?
1位の石川は高校生だから当然戦力になるまでに時間がかかる。橋本もボールは素晴らしいけれどコントロールに難があったからちょっと不安もある。そこで3位は大化けはしないかもしれないが、まず間違いがない選手を獲ろうということで、社会人3年目でベストナインにもなっていた安定感のある東芝の右腕・岡野祐一郎を獲った。「見映えはしませんけど5回まではしっかり試合を作るから獲ってみませんか?」そんなことを与田監督にも話して指名した。だが安全策で指名したはずなのにプロ通算4年で3勝7敗という記録で引退し、昨年からはスカウトとして経験を積んでいる。
このような流れを受けての4位は慶応大のキャッチャー郡司裕也を指名した。このときは木下拓哉もまだレギュラーではなかったから与田監督はキャッチャーを欲しがっていた。だが2位でロッテが東洋大の佐藤都志也、ソフトバンクが東海大の海野隆司を指名しており、評価の高かったキャッチャーはもう残っていなかった。「肩は普通ですけどバッティングは抜群でリードにも長けてます。木下で不満があるならあとは郡司しかいないですよ」と与田監督には話した。ちなみに郡司は某強豪社会人チームに内定しており、この時は4位縛りがあったからこれより下の順位では獲れなかった。それで4位で郡司を獲った。キャッチャーとしてダメでもバッティングは仙台育英時代から抜群だったから、打つ方でも生きる道はあると思っての指名だった。
だが郡司は満足に試合に出して貰えず、自慢の打撃では3年半でホームランは0本。4年目の途中に日本ハムにトレードされた。日本ハムでは直ぐに一軍でチャンスをもらい、昨年は12本のホームランを放った。守備位置もキャッチャーだけでなく、サード、ファーストなどでも使われ、今シーズンも欠かせぬ戦力として活躍している。郡司は使えばこれくらいの成績は残せる選手。与田監督にしろ、立浪監督にしろ、失敗を恐れるというか、我慢して使わないし、使い方にも柔軟性がなかった。あれだけ打てる郡司を打てないチームがなぜ使わなかったのだろうか?
郡司は頭が良い選手。だが指導者に従順ではないというか意地っ張りな面がある。だから上からあーせい、こーせいと言ったら背中を向けるようなところがあった。監督、コーチによっては「俺の事を拒絶している」と受け取られかねない。それを良しとするか否とするかは監督の度量の問題。その辺で与田監督も立浪監督も郡司の持っている良い部分を生かし切れなかったように思う。日本ハムで活躍しているのは新庄監督の度量の大きさもあると思う。新庄監督はドラフト下位から入って這い上がってきた経験があるし、メジャーでのプレー経験もある。野村克也さんの下でやってきただけあってその気にさせるのも上手い。そういう監督に巡り会えたことが郡司には大きかった。中日では芽が出なかったが、いま日本ハムで活躍していることが嬉しいし、郡司をプロの世界に招いた人間として、日本ハムには感謝している。
郡司と同じキャッチャーでは巨人が5位で星稜の山瀬慎之助を獲っている。山瀬は肩が抜群だったから中日も評価していたがバッティングがちょっと悪すぎた。でも巨人が指名したときはホッとしたというか「ありがとう」と思うところがあった。それはこの年の始めは星稜でバッテリーを組んでいた奥川恭伸(ヤクルト1位)に行く予定で、OBでもあるスカウトの音重鎮を貼り付かせていたから。ずっと1位は奥川でいく予定で考えていたのだ。それが石川が選抜で優勝して活躍して、高校ジャパンに入って大学生との試合では神宮球場で目の覚めるようなフェンス直撃の打球を飛ばした。あれを見て石川の評価が自分のなかでグーンと上がった。それで最終スカウト会議の席で音には「石川でいきたい」と謝った。星稜名誉監督の山下(智茂)さんには「奥川! 奥川! 言うてたやないか!」と怒られたが、奥川はうちがいかなくても3球団から1位指名されたから助かった。そんなこともあったから、山瀬もどこか指名してあげて欲しいなと思っていたところに巨人が指名した。だから「ありがとう」だったのだ。