スカウトが振り返る、下位指名から大化けした選手達(毎週火曜日更新)

元中日チーフスカウト・米村明が明かす獲得秘話 ドラ4で郡司、ドラ5で岡林を指名した理由

永松欣也

2019年のドラフト。中日は4位で郡司裕也、5位で岡林勇希を指名した 【写真は共同】

根尾1位指名の思惑、予定通りの上位指名

 私がチーフスカウトになったのが2018年の1月からだから、この年の下位指名選手から振り返りたいと思う。だがその前に上位指名の選手達も簡単に振り返っておきたいと思う。

 1位では4球団競合の末に、就任したばかりの与田監督が大阪桐蔭の根尾昂を引き当てた。さらに2位でも評価の高かった東洋大の梅津晃大を獲ることができ、3位でも日本選手権で150キロ投げて優勝した三菱重工名古屋の勝野昌慶が獲れた。勝野はこの順位で獲れるピッチャーではなかったが、この時は「肩が壊れていた」ことになっていたからこの順位で獲ることができた。そういった情報戦はどこの球団でもやっていたことだけれども。
 根尾の1位指名にはいろんな思惑があった。球団としては根尾の地元である飛騨高山地方での中日新聞の発行部数が他紙に負けていたから、なんとかこの地区のスターを指名したいという思いがあった。私はあの守備ではプロでは厳しいと思っていたし、同じ高校生のショートなら報徳学園の小園海斗(広島1位)の方を評価していたくらいだった。だが最後の夏、ショートのノックを見て「これなら鍛えればひょっとしてショートでメシが食えるかもしれないな」と思った。またこの頃は京田(陽太/現DeNA)のことが頭にあった。一年目に新人王を獲ってこの年が二年目だったが、やや伸び悩んでいたしちょっと天狗になっている部分があった。だから根尾を獲って京田のお尻に火をつけたいという思いも個人的にはあった。2020年に3位で土田龍空(近江高)を獲ったときもそう。京田を安心させないため、良いショートがいればどんどんぶつけていこうと思っていた。

 これだけ上位で予定通りに選手が獲れると、チーフスカウトの立場からするともうこの時点で十分成功だった。そこで4位で指名したのが関東一高の大型キャッチャー石橋康太だった。石橋のことは私ももちろん買っていたが、この年からアマスカウトディレクターになっていた元スカウト部長の中田宗男さんはもっと評価していて「2位じゃないと獲れないんじゃないか?」と言っていた。だから私も担当スカウトの八木智哉に「本当に2位じゃないと獲れないか、10回でも関東一高に行って調べてこい」と命じた。それで何度も何度も足を運ばせた。私は八木に「石橋は獲るなら4位。でもそれより上の順位では獲らない」と言った。3位では勝野を獲ることが決まっていたからだ。勝野は「肩がちょっと痛い」とまで言わせているのだから、それはもう絶対に獲る。だから石橋は4位でしか獲れない。八木も会議の度に関東一高に見に行って「それより上じゃなくても獲れます」と言い切ってくれた。1週間に2、3回は八木とは密に連絡をとりながら、どの球団が来ているか、来ていないかなどの確認もしていた。そうして予定通りに4位で獲ることができた。

 石橋を上位では獲ろうとしなかったのは、そもそもキャッチャーで上位指名というのは歴代指名選手を見ても分かるように特別な何かがある選手だけだから。高卒キャッチャーの代表的な上位指名選手で言えば、古くは伊東勤(所沢高→82年西武1位)、谷繁元信(江の川→88年大洋1位)、城島健司(別大付属→94年ダイエー)1位など。比較的新しい選手では炭谷銀仁朗(平安→05年西武1位)や、まだ活躍はできてないが甲子園で6本もホームラン打った中村奨成(広陵→17年広島1位)などの名前が挙がる。石橋は将来性はもちろんあったが、ドラフト時点で彼等と並ぶほどの特別な何かがあるのかと言われるとそうではなかった。

期待の正捕手候補・石橋が伸び悩んでいる原因

元中日チーフスカウト・米村明「(石橋の)性格はクソ真面目。真面目なのは良いが『クソ』がつくようでは...」 【写真は共同】

 高校時代の石橋は地肩が強かったしバッティングも人並み外れていた。プロに入って苦戦しているが、コーチ陣からあれこれ言われすぎておかしくなっているように見える。もっと自由にやらせていたら今頃はレギュラーとして中日のホームベースを守っていてもおかしくはなかった。私はそう思っている。バッティングフォームが縮こまって窮屈な打ち方をしていた時期があったから「何をまとまろうとしてんねん。お前にそれを求めてないよ」と本人に言ったこともあった。

 中日も絶対的なキャッチャーがいる訳でもない状況で石橋も今年が7年目。未だレギュラーになれていない状況が私はとても歯がゆい。性格はクソ真面目。真面目なのは良いが「クソ」がつくようではプロではダメだ。そういう選手はコーチのアドバイスを全部その通りにやったりしてしまうから。

 今年はドラフト4位で日本生命から同い年のキャッチャー石伊雄太が入ってきたが、開幕は石伊が一軍で石橋は二軍だった。だが、こういうときは誰にも何も言われないから石橋にとってはむしろチャンスでもある。逆にちょっと良くなってくると、コーチは「俺が! 俺が!」で色んなことを言ってくることが中日では多い。落合さんの監督時代は「コーチは選手が聞いてくるまで教えるな」と言っていたが、今はその逆で教えすぎているように思う。石伊と切磋琢磨して頑張って欲しいと思っている。

 5位で指名した山梨学院の垣越建伸は一軍に上がることなく昨年限りでユニフォームを脱いだ。こちらも担当スカウトは八木。一緒に夏の山梨大会を観に行って「15連続三振取ったら獲ってやるぞ」なんて話しながら観ていたら、15とまではいかなかったが9連続三振を取った。身長185センチの左腕からのボールは147キロくらいは出ていたと記憶している。「お前が見てくれと言うただけのことはある。これはいい。絶対に獲るから」とその場で八木に話したほどだった。プロで結果が出せなかったのは肩を痛めてしまったこともあるが、能力があるのに出し惜しみをしていたことにも原因があったと思っている。プロに入ってみたら周りのピッチャーが凄いから自分で自分を見失っていたようにも見えたし、元々コントロールもあって変化球も良かったからそっちの方に走ってしまった。ちなみに1位の根尾とは飛騨高山ボーイズでチームメイトだったが、これは指名してから知ったことで全くの偶然だった。

 6位で獲った大商大の外野手、滝野要は大学3年までに71本のヒットを打っていた選手だった。私が大商大に行ったときに「僕、プロで獲ってもらえませんか? 出身が四日市(三重県)なので」と言うから「まだ100本も打ってないのにプロに入れるわけないやないか。100本打ったら考えてやるわ」と言ったら、本当に100本(通算101本)打った。それでこの年が根尾、梅津、勝野と100点満点の上位指名ができていたから、与田監督に「指名が上手くいったので僕が欲しい選手を一人だけ獲らせてください」と話して、それでこの年の最後に滝野を獲った。

 上位で欲しい選手が予定通り獲れたらあとは楽。バランスは考えるけれど、補強ポイントではなくても担当スカウトが強く推している選手を獲ったりすることもできる。去年の指名もそう。私はシニアディレクターとして最後のドラフトだったが1位で狙っていた関西大の金丸夢斗が獲れたから、下位で面白い高校生ピッチャー2人、高橋幸佑(北照)と有馬恵叶(聖カタリナ学園高)を獲ることができた。ドラフトはやっぱり頭が決まるとその後の指名がスーッといくものだ。

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著者プロフィール

1976年、大分県速見郡生まれ。多くのスポーツサイトの企画・編集、ディレクターなどを経てフリーランスに。現在は少年野球、高校野球サイトのディレクターを務めながら書籍の企画・編集も行っている。主な書籍は『星野と落合のドラフト戦略』『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』など。

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