現地記者の日本人選手ラ・リーガ奮戦記(月2回更新)

エル・クラシコで起こった謎のジャッジの数々 R・マドリー寄りを印象付けるVARルームの会話とは?

山本美智子

ヤマルの活躍もあって今季最後のエル・クラシコを制し、2シーズンぶりのリーグ制覇に王手をかけたバルサだが、R・マドリー寄りのジャッジには苦しめられた 【Photo by Gongora/NurPhoto via Getty Images】

 スペイン在住がすでに25年以上に及ぶ日本人ライターによる、月2回の連載コラム。レアル・ソシエダで3年目のシーズンを迎えた久保建英と、今シーズンからマジョルカでプレーする浅野拓磨の動向を中心に、文化的・歴史的な背景も踏まえながら“ラ・リーガの今”をお届けする。第13回目のテーマは、5月11日(現地時間、以下同)に行われたエル・クラシコ。バルサが4-3で宿敵R・マドリーを下し、リーグ優勝に大きく近づいた伝統の一戦で主役になったのは、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)だった。

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有名なXアカウントの評価は「0点」

 ラ・リーガ第35節のエル・クラシコは、首位バルセロナが2位レアル・マドリーを4-3で下して勝ち点差を「7」に広げ、リーグ優勝に大きく近づいた。一方で敗れた昨季王者のR・マドリーは、2024-25シーズンを無冠で終えることがほぼ決定している。

 今季からバルサを率いるハンジ・フリックは、4度あったエル・クラシコ(リーグ戦2試合とスペイン・スーパーカップ、スペイン国王杯決勝)のすべてに勝利。これは15年前にペップ・グアルディオラが成し遂げた5連勝に次ぐ偉業で、来季にはその記録に追いつき、更新する可能性もある。

 ここでは激しい撃ち合いとなった試合を振り返りつつ、今回のエル・クラシコで浮き彫りになった問題について言及したいと思う。

 ちなみに、クラシコとは「古典的な」「伝統的な」という意味の形容詞だ。サッカー界ではR・マドリーとバルサが戦う試合のことを「エル・クラシコ」と呼ぶ。そう呼ばれるだけあって長い歴史があり、両者の初顔合わせは今から123年前の1902年5月13日にまでさかのぼる。

 また、そのサポーターの数はソーシャルメディアのフォロワー数だけで見てもR・マドリーが4億1000万人超えで、サッカークラブの中では世界一。2位がバルサの3億6000万人で、これに2億1000万人のマンチェスター・ユナイテッドが続く(国際スポーツ研究センターのデータ/2024年6月5日時点)。つまりエル・クラシコは、少なくとも7億7000万人もの人々が関心を持つビッグイベントということになる。

 そんな試合で、今回再びVARが主役になったのは、実に嘆かわしいことだ。主審を務めたエルナンデス・エルナンデスとVARとの連携もひどく、VARのジャッジを採点する有名なXアカウント『Archivo VAR』(VARファイル)が「0点」と評価するほど最悪だった。

ハンドと分かる映像は主審に提示されず

F・トーレスのシュートを左腕に当てて止めたチュアメニ。ハンドを明確に捉えた映像が、なぜVARルームから主審のもとに届かなかったのか 【Photo by David Ramos/Getty Images】

 エル・クラシコ終了後も、スペイン国内のあらゆるスポーツ番組がジャッジについて議論を繰り広げている。

 14分にキリアン・エムバペがR・マドリーの2点目を決める前、フェデリコ・バルベルデによるラミン・ヤマルへのファウルがあったにもかかわわらず、VARが介入することなくゴールを認めたこと。79分にアウレリアン・チュアメニの明白なハンドを見逃し、イエローカードすら提示しなかったこと(イエローならこの日の2枚目で退場だった)。そして、ダメ押しの5点目となるはずだったアディショナルタイムのフェルミン・ロペスの見事なゴールを、その前にハンドがあったとして取り消したこと。

 こうした数々のミスジャッジの大きな問題は、そのすべてがR・マドリー側に有利に働いたということだった。

 現在のラ・リーガでは、VARルームで判定が行われた際の会話の音声ファイルが一般に公開される。驚いたのは、エリア内でフェラン・トーレスが放ったシュートをチュアメニが腕で止めたにもかかわらず、主審がバルサにPKを与えなかったことではない。

「ゴール方向に向かって(そのシーンを)映し出したカメラがないんだ」。そう言って、VARルームから明らかにハンドと分かる映像が主審に提示されなかったことだ。実際、オンフィールドレビューで主審が見ていたのは、ゴールマウスの後方からの映像だった。その間、一般の視聴者はチュアメニが左腕でF・トーレスのシュートを止めた動きを、5つもの異なるアングルの映像で確認していた。世界中の視聴者が目撃したそのハンドを、試合を裁いたVARと主審だけが見ていなかったということになる。

 もっとも、スペイン紙『スポルト』は、その5つのアングルの映像はVARルームに届いていたと伝えている。そのうちゴール正面から捉えた3つの映像を、なぜ主審に見せなかったのか。謎は深まるばかりだ。

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著者プロフィール

スペイン在住は四半世紀超え。1998年から通信員として情報発信を始め、スペインサッカーに関する取材、執筆、翻訳の仕事に従事してきた。2002年と06年のW杯、04年と08年のEUROなど国際大会も現地で取材。12年からFCバルセロナの公式サイト、ソーシャルメディアを担当する

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