松山マスターズ制覇の礎になった8年前の悔し涙 難コース開催の全米プロもV狙える理由

塩畑大輔

ガス欠にならない体を作ろう

2021年のマスターズを制した松山英樹。2017年、全米プロで味わった悔しさがメジャー初制覇につながった 【Photo by Augusta National via Getty Images】

「メジャーチャンピオンとしての自分の姿が、はっきりと見えていたんでしょうね」

 しみじみと、かみしめるように、杉澤さんは語る。

「ゴルフを始めてから、ずっとメジャーで勝つ自分の輪郭を描いてきて、あのシーズンはついにそこに魂を吹き込んで、血を通わせるところまで行っていた。だからこそ、泣けて泣けてしかたなかったのかなと、私はあのとき感じました」

 破竹の勢いだった松山はこの日を境に、ツアー戦での勝利から遠ざかることになる。
 雌伏のときは、実に4年近くにわたることになった。

 その間、杉澤さんはPGAツアー戦の会場で、松山陣営と話をする機会があった。

「印象的だったのは、松山プロと飯田光輝トレーナーとのやりとりです。ツアー戦の最中なのにかなりのトレーニングをこなしていて『メジャーで5日間を戦える身体をつくろう』※と言っていました」

※5日間を戦える余力がないとサンデーバックナインで競り切れないという意

「飯田トレーナーは確かあの全米プロのあとに『英樹を勝たせてあげることができなかった』とコメントしていたと記憶しています。どんなに過酷な環境であろうと、サンデーバックナインでガス欠を起こさない身体をつくってあげたい。そう考えていらっしゃるのかなと、私は思いました」

 2021年。松山はマスターズでアジア勢初のメジャー制覇を達成した。
 過酷なサンデーバックナインで、5打のリードが1打にまで縮まったが、最後までガス欠にならずに戦い切った。

 杉澤さんはうなずく。

「あのマスターズ制覇の礎は、間違いなく全米プロでの惜敗で築かれたものです」

今年の全米プロが開催されるクエイルホロー・クラブ。松山との相性の良さは証明されている 【Photo by Ross Kinnaird/Getty Images】

 屈指の難コース、クエイルホロー・クラブで、全米プロ選手権が再び開催される。

「私が思うに、クエイルホローは松山プロに合っています」

 杉澤さんはそう断言する。

「グリーンマイルと呼ばれる上がり3ホールの難しさがいつも話題になりますが、それ以前の15ホールも決して簡単ではなく、一息つける場所がまったくありません。砲台状になったグリーンがほとんどで、狙いをちょっとでも外すと、20~30ヤードくらい転がり落ちてしまう」

 もちろん、砲台グリーンなので手前から転がし上げることもできない。では、転がり落ちない安全なところに、と狙うと今度は下りの長くて難しいパットが必ず残るようになっている。

「パーが取りにくいセッティングになるメジャーの中でも、特にパーセーブしにくいコース。しっかりと戦略を立ててそれに徹することができるゴルフIQやメンタリティが問われますが、その点において松山プロは世界のトップオブトップです」

 相性の良さは2017年大会ですでに証明されている。
 加えて、メジャーのサンデーバックナインを戦い抜く体力が備わったことは、優勝したマスターズでも明らかになった。

「松山プロの次なる目標はやはり、キャリアグランドスラムになると思います。それが狙える現役選手は数少ないですが、確実にその中に入っている。その第一歩として、次にどこのメジャーを獲ることができるか。今回は大きなチャンスになりうると、私は思っています」

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著者プロフィール

1977年4月2日茨城県笠間市生まれ。2002年に新卒で日刊スポーツ新聞社に入社。サッカーの浦和レッズや日本代表、男子ゴルフ、埼玉西武ライオンズなどの担当記者を務める。2017年にLINE NEWSに移籍し、トップページの編成やオリジナルコンテンツ企画を担当。note、グノシーをへて、2024年7月からU-NEXTに所属。

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