守備、試合の“詰め”に苦しむ町田 「勝利の方程式」はなぜ通用しなくなったのか?

大島和人

なぜ原則の徹底が薄れているのか?

前寛之の復帰は町田にとって明るい材料だ 【(C)J.LEAGUE】

 他の選手にも「クロスからの失点」について質問をした。前はこう述べている。

「個人のところもあると思いますけど、最後に守り切る展開の、自分たちの整理はもっと進めないといけません。どう押し返していくのか、どうコンパクトにして相手を割り込ませないかという部分です。[5-4-1]で守っている以上、ああいう失点はチームとしていい状態とは言えません」

 林は少し首をかしげながら、こう語っていた。

「去年ほどやり切れていない……。その原因は分からないですけど、それではないかと思います」

 今のメンバー、システムで「やれる」ようになるまで擦り合わせとトレーニングをするーー。それも必要なプロセスだ。一方で今季の町田は「やること」が増えている。それは成長のために必要なプロセスなのだが、チームは「新しい取り組みの成果が出る前に課題が出る」状況に陥っている。

 2024年の町田は終盤戦に減速し、首位から落ちて最終的には3位でシーズンを終えた。2025年は布陣を[3-4-2-1]に変え、ロングボールやサイドに偏っていた攻撃は「つなぐ」「間を突く」といった要素も取り入れている。応用問題に取り組んでいる中で、「基本問題」が疎かになっているようにも思える。

 さらにいうと、今の町田には「CBに負担がかかっている」状況がある。前線や中盤の限定がしっかり機能することで最終ラインの負担は減るのだが、まずそこに甘さがある。

 もう一つはシンプルに「疲労」だ。菊池流帆の負傷もありイブラヒム・ドレシェヴィッチ、岡村大八、昌子の3枚は直近7試合にほぼフル出場している。特に第12節・湘南ベルマーレ戦(0●1)以降は中3日の5連戦が続いていて、身体的な消耗があっただろう。

 清水戦後の記者会見で次節(5月17日・柏レイソル戦)に向けた立て直しを問われた黒田監督はこう述べている。

「まずは蓄積した疲労を回復させることです。また多くの怪我人を抱えていますので、離脱している選手たちが1日でも早く回復するのを願っています。心や思考のケアをして、もう一度リフレッシュをして、再び選手たちが集合した際にはギアを入れ直し、今までの反省点を振り返った上で次のホームゲームに向けて、ベクトルを合わせていけるようにしたい」

「方程式」はどうなる?

黒田監督にとっても間違いなく大きな試練だ 【(C)J.LEAGUE】

 今季の失点傾向について、はっきりとした理由を指摘できていた選手はいなかった。そもそも理由は確実に複数あって、それを抽出し整理するところが決定的に重要なのだろう。

 町田のサッカー自体をシンプルにする、具体的には昨シーズン前半に戻す選択肢がないわけではない。とはいえ選手構成が違い、積み上げが実っている部分もある中で、それは残留争いに巻き込まれたような状況下の最終手段だ。

 清水戦の引き分けで町田は6勝3分け7敗の勝ち点21となり、首位・鹿島アントラーズと13ポイント差の暫定10位となった。最悪の状況かといえば違うが、優勝を目指す2025年の町田にとって物足りない数字だ。何より「この形ならば守り切れる」「この展開ならば勝ち切れる」という再現性が崩れたことはチームにとって大きな痛みだ。

 どの集団にも共通する話だが、自分たちのやり方に対する自信を無くしたら、「拠りどころ」を失ったら、チームは簡単にバラバラになる。何とか「方程式」を取り戻すのか、それとも新たな必勝パターンを掴み取るのかーー。町田は今そんな岐路にいる。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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