守備、試合の“詰め”に苦しむ町田 「勝利の方程式」はなぜ通用しなくなったのか?

大島和人

町田は西村拓真(左)のゴールで前半に先制。しかし勝ち切れなかった 【(C)J.LEAGUE】

 FC町田ゼルビアが5月11日の清水エスパルス戦を2-2で引き分け、連敗を「2」で食い止めた。ただし二度にわたって勝ち越しながら、そのたびに追いつかれた展開は後味のいいものではない。直近の7試合を振り返ると合計勝ち点は「4」にとどまり、3連敗と2連敗が一つずつある。ケガ人が相次いでいることは確かに不調の一要因だが、そもそもチームの「スタンダード」「ベース」に揺らぎが見て取れる。

 昨季の町田はアディショナルタイムに一度も失点していない。しかしこの7試合はアディショナルタイムに3度失点し、そのうちの2つは相手の決勝ゴールだった。清水戦の同点弾も84分と終盤で、試合の詰めが強みから課題になっている。1点差で勝ち切る、守り切る展開に自信を持っていたチームの「方程式」が通用していない。

 他にも守備で新たな課題が浮上している。昨季の前半戦は一度もクロスからの失点を喫しなかったチームが、今季はクロスから4度もゴールを破られている。昨季の町田はJ1最少失点だったが、ここまで16試合で18失点を喫し、J1の12位と「ほどほど」のレベルに落ちている。

「大枠」は狙い通りだった清水戦

 もっとも清水戦が悪い内容だったわけではない。相馬勇紀、中山雄太とチームの柱を欠く中、アウェイで勝ち点1を確保した。5月3日の鹿島アントラーズ戦(0●1)や7日の京都サンガ戦(1●2)に比べると前線や中盤の守備がハマり、相手陣でボールの「いい動かし方」をする場面も多かった。

 67分に林幸多郎が決めた2点目は「ウイングバックがゴール前に飛び込む」という町田の取り組んでいるテーマが実った部分でもある。

 黒田剛監督は試合後にこうコメントしている。

「ゴール前に信じて走り、詰めるーー。それでボールサイドに人が寄り、(相手が)ボールウォッチャーになる状況が生まれる効果があると思います。死角に対してパワーを持って入っていけば、いい形でボールがこぼれて、チャンスが生まれることにもつながります。両ウイングバックがそういった形を作ることにミーティングや練習でも取り組んでいて、追いつかれた後にその形で勝ち越せたのは良かったです」

 前寛之はこう口にする。

「試合を通してバイタルエリア、自分たちのセンターバック(CB)とボランチの間を使われないように心がけました。大枠は攻撃も守備も狙いたい形が出たと思います」

 下田北斗はこう振り返る。

「前半から守備の部分は結構ハメられましたし、攻撃もいつもより自分たちがボールを持つシーンが、まだまだ足りないですけど増えています。どちらかと言ったら主導権を握れたゲームだったと思いますが、どうしても失点の場面ですね。クロスからの失点と、PKもイージーな対応があったと思うので、そういうところは勝ち切るために無くしていかないといけません」

クロスから失点で勝ち切れず

清水の同点ゴールはクロスから生まれた 【(C)J.LEAGUE】

 84分にドウグラス・タンキに決められた同点ゴールは、彼がCBの前に飛び込み、クロスに合わせて決めたものだった。ただし清水が崩した形ではなく、町田DFの枚数も揃っていた。起こしてはいけない「事故」だった。

 町田はエリア内の守備、クロス対応に強い「こだわり」のあるチームだ。黒田監督は人とボールに対する身体の向き、味方や相手との距離感といったシンプルな原則を徹底し、青森山田高時代からそれを結果につなげてきた。2023年、24年とも町田はキャンプの練習試合、序盤戦と勝利を重ねた。チーム作りがまだ深まっていない中でも、守備が原則通りにプレーし、隙を作らず戦えていたからだ。

 今季はそこに揺らぎがあり、清水戦の2失点目はまさにその典型だった。タンキのマークについていた昌子源は、試合後にこうコメントして自らを責めていた。

「今日も最後の最後で、本当にチームに迷惑を掛けた。このチームのキャプテンをやっている以上は、ああいうところでチームの助けにならないといけない。このままだったら町田のキャプテンとしての存在意義がない」

 もっとも「個人のミスだった」で終わらせていい事象には思えない。仙頭啓矢はこう口にする。

「中の選手だけでなく、チーム全体としての問題だと思います。そこへ至る過程にしっかり目を向けていかないといけません。最後にやられてしまっているところにフォーカスされがちですけど、クロスを上げさせないのもそうですし、個人個人がそれぞれ自分に矢印を向けてやっていくことが大事かなと思います」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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