クロップ時代の「熱情」から「安定とバランス」へ 1年目でリバプールを独走優勝に導いたスロット監督の知性
リバプールの勝利の象徴となった遠藤
しかし遠藤は出る試合、出る試合で、その短いプレー時間に自分の全てを燃焼させるような100%のパフォーマンスを披露した。選手たちに疲れが見える試合終盤に起用されて、このベテランMFの動きだけが異常なほどはつらつとして見えた。
そんな遠藤について、昨年10月5日に行われたクリスタルパレス戦後の会見で46歳オランダ人指揮官に筆者が直接、「遠藤の素晴らしいパフォーマンスをどう評価するか?」と尋ねた。
するとスロットは、「あれほどのビッグプレーヤーで、代表主将でもある選手が、試合終了間際に入ったとしても、全力を尽くす。それは私がこのチームについて非常にポジティブに感じることの1つだ。私は他のチームで“俺を5分しか使わないのか?”という気持ちが表れたプレーを見たことがある。しかし、ワタのプレーを見ると、(相手)ボールへの対応だけでなく、セカンドボールの奪取にも意欲的だ。それはチームの団結力について多くを物語っていると思う。わずか7分しかプレーしていないのに(遠藤はこの試合で7分間プレー)、あのようなパフォーマンスを見せたということは、彼の人間性の素晴らしさと同時に、チームの団結力も物語っている」と語って、遠藤を絶賛した。
そんなふうに新監督が褒めた日本代表主将のパフォーマンスは、当然のように熱いリバプール・サポーターにも伝わった。優勝を決めたトットナム戦でも、遠藤がタッチライン際に現れた瞬間、テレビ画面を通じて遠藤のチャントがアンフィールドに鳴り響いているのが聞こえてきた。
前節のレスター戦では1-0とリードして後半アディショナルタイムに突入すると、出場もしていないのに、アウェー席を埋めた超過激なサポーターたちが遠藤のチャントを歌った。それは遠藤が、出場する全試合でリードを守る素晴らしい全力プレーを積み重ねた成果だった。
2024-25シーズン、遠藤はリバプールの勝利の象徴になった。勝っても負けても、サポーターは試合の最後にアンセム『You’ll Never Walk Alone』を歌うが、勝ったときは常に遠藤のチャントも歌い、勝利を祝うのだ。
プレミアリーグの取材を始めて今季が24シーズン目だが、守備的なMFでこのような勝利のシンボルとなった選手は日本人に限らず、これまで見たことがない。
遠藤自身は、そんな縁の下の力持ちになりきった今季を「リバプールだから」と語った。他のクラブだったらバックアッパーに甘んじることはないという意思を感じたのと同時に、リバプールに対する敬意と愛着がはっきりと表れた発言だったと思う。
レギュラーの座を求めて移籍するという話もちらほらと伝えられる遠藤だが、先日、契約を2年延長した主将のファン・ダイクは「試合を勝ちきるには彼の経験が非常に重要だ。あと2年はいてほしい」と語り、ちゃっかりと自分の在籍中の残留を望んだ。このように残留を求める声は多く、プレミアリーグの歴史に残るようなクローザーとなった日本代表主将が、その役割をリバプールで続ける可能性もあるのではないか。今季終了後の32歳MFの去就に注目したい。
三笘はプレーの幅をまた広げた印象
三笘のゴールが飛び出したのは、終始引いていたウェストハムに後半38分にまさかの2ゴール目を許して、1-2と逆転された6分後のことだった。正規の試合時間が終わりかけていた後半44分、27歳日本代表MFがゴール前に入ってマークを外し、ヘディングで同点弾を決めた。
「いや、もうボールが来ることだけ願っていました。素晴らしいアシストと、チームとしてあそこまで持ってきてくれたんで。チームのゴールだと思います」
確かにチームのゴールだった。1点を追いかける試合終盤も終盤、三笘はベテランFWダニー・ウェルベックと2トップを担った。しかも右サイド寄りのセンターフォーワード。定位置の左ウイングとはかなり違うポジションだった。
「戦術的に入れ替わったところもありましたし、チームとしての狙いが決まりました。僕が右(ウイング)にいくはずでしたけど、(アシストをしたブラヤン・)グルダが仕掛けるところがあったんで、真ん中にいたほうがいいかなと思いました」と三笘は語った。
あの位置にいて、頭で押し込んだゴールを見て、三笘がプレーの幅をまた広げたという印象を受けた。
この後、後半アディショナルタイムの2分にカルロス・バレバがものすごい25メートル弾を決めて、ブライトンが劇的な逆転勝ちを飾ったが、それも三笘の同点弾が礎となったからだ。
しかし、それにつけても三笘がスーパーサブとして登場したときのゴール奪取率はえぐい! もちろん、1点を追いかける展開でチームが前のめりになっていたこともあったが、ブライトンがこのインテンシティを保って残り4試合を戦い、三笘が2試合連続でゴールを決めた勢いを持ち込めれば、大台である10得点に到達できると信じる。
試合後、昨季の後半戦を棒に振った故障箇所である腰を押さえていたのは気になった。けれども「大丈夫だと思います」と三笘本人が語った言葉を信じて、リバプールの優勝が決まった後のプレミアリーグで、2戦連続ゴールで火がついた日本代表MFの活躍を最後までしっかり追いかけていこうと思っている。
(企画・編集/YOJI-GEN)