予期せぬ決着に「涙」も WD名古屋・水町泰杜が“世界の大エース”から得た言葉と経験

田中夕子

世界的プレイヤーのニミル・アブデルアジズ(左)とWD名古屋でプレーする水町泰杜 【写真提供:SV.LEAGUE】

 セットカウント1対2で迎えた第4セット、21対24。

 それでも、水町泰杜は信じていた。絶対に勝てる。ここから逆転できる。決して願いではなく、確信できる理由があった。ウルフドッグス名古屋のサーバーがニミル・アブデルアジズだからだ。

「僕は絶対追いつけると思っていました。このチームは、ニミルを信じてやってきた。そういうチームだったから、信じていました」

 水町だけでなく、トスを上げる深津英臣も「間違いなく世界ナンバーワンのオポジット」と称するニミルは、3点差を追うサントリーサンバーズ大阪のマッチポイント、絶体絶命の場面でも魅せた。

 バックアタックと錯覚するほど強烈なジャンプサーブで崩し、2本続けてミスを誘い23対24。そして、サービスエースで24対24。まさに世界の大エース、という姿を最高の場面でこれ以上ない形で見せつけた。

 とはいえ対するサントリーも怯みはしない。ニミルのサーブを髙橋藍のスパイクで切り返して24対25。続く1点はサーブミスで25対25となったが、どちらが先に抜け出すのか。ファンも、選手も、メディアも、会場にいるすべての人たちが眼前で繰り広げられる凄まじい試合がどんなフィナーレを迎えるのか。高揚感が増していく中、試合は想像もしない結末を迎えた。

レッドカードから予期せぬ決着

 名古屋はティネ・ウルナウトのスパイクでワンタッチがあったとチャレンジを要求。大型ビジョンに映し出された動画でははっきりとワンタッチが確認された。26点目が名古屋に加わるも、直後に主審がレッドカードを手にし、名古屋へと向けられた。その結果、サントリーに1点が加わり、サーブ権も移行。観客だけでなく正直に言えば記者席にいた筆者も、何が起きたのかわからない、という状況のまま試合は再開された。

 明らかに苛立ちを露わにしたニミルのバックアタックがサイドラインを割り、26対27。続けてアレクサンデル・シリフカのスパイクで28点目を獲ったサントリーが3対1で勝利し、決勝(ファイナル)進出を決めた。

 白熱した試合が、予期せぬ決着で幕を閉じる。

 ニミルのサーブや名古屋の猛追に耐え抜いたサントリーの選手が、勝利の喜びと安堵に涙を浮かべる姿は、この試合がどれほどの激闘であったかを示していた。同時に名古屋の選手たちが「何が起きたのか」と言わんばかりの姿で呆然と立ち尽くす姿に、健闘を称える拍手が送られるとともに観客席からすすり泣きも聞こえた。

 そして、水町も泣いていた。

失意の水町にニミルがかけた言葉

二ミル(左)は水町(右)にとってお手本となる存在だ 【写真提供:SV.LEAGUE】

 その水町を、ニミルが抱き寄せ、言葉を交わす。目を赤くしたままミックスゾーンに現れると、あふれる涙をタオルで拭いながら水町は必死に言葉を絞り出した。

「最後、ああいう形で僕が感情的になったせいで、このチームを終わらせてしまった。それでも、ニミルは前を向かせてくれた。もっともっと、このチームでバレーをしたいと思っていたので。悔いはそれだけです」

 あの場面で何が起きていたのか。水町はこう言った。

「いつもはタッチマーク(ブロックに対してタッチをしていた場所)が出たら、絶対に丸がつくのに、あの時はついていなかった。明らかにタッチをしていたのに…。でも、そこで感情的になった僕が悪いです」

 試合翌日に詳細がSVリーグからリリースされた報告書によれば、名古屋の選手は投影された映像を確認する際、ワンタッチの箇所に丸印がなかったため、ノータッチと判断されたと抗議した。報告書には「映像に丸印があると誤解していた」と書かれていたが、実際にそれまで何度もあったチャレンジの場面では、ブロックタッチの箇所が丸印で示されていた。

 白熱した試合の最重要な局面で丸印がなければ「タッチしている」と抗議する。ゲームキャプテン以外の抗議や質問が認められていないことがルールとして定められていることを理解していても、あの局面でのレッドカードを冷静に受け止める余裕はおそらくない。だがその抗議に対し2枚のレッドカードが出され、その1枚が水町に向けられたものだったからこそ、水町は沈痛な表情で「僕がこのチームを終わらせてしまった」と涙した。

 そして、ニミルからかけられた言葉を明かし、またあふれる涙を拭う。

「お前のせいじゃない。レッドカードが出されたのは俺の1枚だ。お前のせいじゃないから、気にするな」

 そういう人なんです、と繰り返し、水町がタオルで顔を覆う。

「ニミルがこのチームに与えてくれたものはすごくデカくて。僕自身も尊敬する選手ですし、初めて“かっこいいな”って素直に思える選手でした」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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