プロ野球開幕1カ月診断

小笠原道大がセ・リーグ開幕から1カ月を徹底分析 今の順位は想定内?抜け出すチームはあるのか?

前田恵

上位をうかがう力を秘めているDeNAと広島

4月27日の広島戦で8回2安打1失点、10奪三振と好投し日本復帰後初勝利をあげたバウアー(写真右) 【写真は共同】

――昨季3位から下剋上の日本一を果たしたDeNAは、出だしで少しつまずいた感がありますね。

 頂点を極めた後に、陥りやすい状況ですよね。4月初めに四番のオースティン選手が(下半身のコンディション不良で)欠場したとたん、チームが上位から姿を消しました。いかに四番が大切か、ということでしょう。“四番経験者”は多いけれども、彼らが四番に入ったときの負担も大きい。オースティン選手が四番に入っていたとき、牧秀悟選手が二番を打っていました。そのときと、三森大貴選手や蝦名達夫選手が二番に入った打線とでは、攻撃のパターンが変わります。牧選手のリズムも変わってくるでしょうし、宮﨑敏郎選手も五番固定だから良かった部分もあったでしょう。

――エラーの数も、リーグワーストです。

 エラーは元から多かったんですよ(昨季は96失策で、12球団ワースト)。基本的に打撃重視のチーム作りをしているので、打線が爆発すれば、それだけでチームが回る。ところが打線がおとなしくなると……ということですね。“日替わり打線”は昨今の流行りでもありますが、いいか悪いかは別として、打線を固定できていない影響も多少なりは順位に影響していると思います。

――投手陣が良くなってきただけに、もったいないですね。

 投手陣は頑張っているので、今の成績は誤算でしょう。バウアー投手もなかなか勝てなかったですしね。ただケイ投手、ジャクソン投手が健闘しています。2人とも昨季のCSから、ストライクゾーンに力のある球を投げられるようになってきた。四球の多さも、今季は克服しています。あとは、中継ぎ陣の精度でしょうか。昨季も同じような数字だったと記憶していますが、それでも打線と噛み合うことで、もう少し勝ちを拾っていたはずです。

――そういうときは、どんなことがチームとして良い方向に進むきっかけになるのでしょうか。

 いろいろな方法はあると思いますが、チームとしてなんらかの戦術を用い、ちょっと選手を動かしてみることも一つ。あるいは起爆剤になる選手が出てくることも、きっかけになります。とはいえ、まだまだ序盤戦。去年CSで勝って日本一になった力を秘めているわけですから、この数カ月で盛り返してくるのではないでしょうか。

カープの次世代を担う投打の若手有望株、森翔平(写真左)と小園海斗(写真右) 【写真は共同】

――さて今季、あまり前評判の高くなかった広島が序盤、首位にも立ちました。

 評論家の予想順位を下げた大きな要因は、「九里亜蓮投手が(FAで)抜けた」ことでした。しかし広島は、チーム作りの仕方が常に投手陣中心。打撃陣が悪くても、投手陣は豊富なチームカラーです。だから、九里投手が抜けたあとには、しっかり森翔平投手が出てくる。これは大きいと思います。

――それに加えて、序盤はチーム打率がセ・リーグ2位でした。

 投手陣がいいので、野手が打つか打たないか、という話になってくる。坂倉将吾選手を欠いても(4月29日に一軍復帰)、みんながカバーし合い、つないで動いて、伝統の広島野球らしさを出していると思います。そこへ黄金期のように長打力が加われば、さらに強くなりますよ。なんといっても、このチームは二遊間を中心に守備がいいですから。

――矢野雅哉選手がショートに定着し、昨年のゴールデン・グラブ賞でさらに自信をつけましたね。

 矢野選手の存在は大きいと思います。小園海斗選手のショートが悪いのではなく、一つの考え方として小園選手のバッティングをより生かすための「サード・小園」。それには「ショート・矢野」の存在があったわけで、これが良い方向に回りました。

――結果、小園選手は序盤戦、首位打者を争う位置に。

 しかも末包昇大選手が、たぐいまれな勝負強さで四番を務めている。選手がみな若いので、昨季の経験と、そこからの勉強の積み重ねやチーム内の連携の良さが、今の状況につながっているのだと思います。新井貴浩監督らしさも随所に出ているんじゃないかな。

チームの顔不在も奮闘するヤクルトと中日

小笠原氏が注目するルーキー・荘司宏太は4月27日、球団新人記録となるデビューから9試合連続無失点を達成した 【写真は共同】

――ヤクルトは4月11日に“一日天下”がありましたが、そこからまた順位を落としていますね。

「一番・塩見泰隆」「四番・村上宗隆」という打線のポイント2枚が不在の状況下では、頑張っているのではないでしょうか。サンタナ選手、オスナ選手、赤羽由紘選手……。移籍の茂木栄五郎選手もサード・村上選手の穴を埋め、これだけ仕事をしていれば上出来だと思います。ただヤクルトは、投手陣が厳しいですね。

――奥川恭伸投手、高橋奎二投手が序盤に抹消、抑え候補だった新外国人のバウマン投手も合流まで時間を要しました。

 まずは残った先発投手陣がなんとか5回まで投げて、試合を作る態勢を整えながら、接戦をものにしていくしかないですね。中継ぎ陣の負担が大きくなるので、そこは数を増やして、疲労が溜まらないように回していく。先だってルーキーの荘司宏太投手を画面越しに見ましたが、投げっぷりがよく、面白いなと思いましたよ。

4月29日の阪神戦、今季本拠地初となる第2号本塁打を放った細川成也 【写真は共同】

――最後に、昨年最下位の中日が奮闘しています。

 上がり目しかないですからね(笑)。四番に座っていた石川昂弥選手の二軍落ちは、ちょっと厳しい言い方をすれば、「この一人に労力をかけていられない」ということ。ペナントレースを戦っていく中、いつまでも彼だけにフォーカスしていると、チームがチームとして機能しなくなってしまいます。四番を代えてから、打線の巡りが良くなりました。

――代わりに四番に座った細川成也選手も依然、調子が上がってきませんが……。

 細川選手はまだ四番としての経験値も少ないのでね。かといって、彼を六番にするわけにもいかないでしょう。細川選手の後ろにしっかり打てるバッターがいれば、ストライクで勝負せざるを得なくなるので、少し楽になるはずです。あとは細川選手の考え方次第ですから、去年の経験を生かして奮起してほしいですね。ボスラー、中田翔両選手がもうひと踏ん張りして打線を支えてくれれば、ほかも落ち着いてくるのではないかと思います。

――ペナントレース前の小笠原さんの順位予想からすると、今の状況はどうですか?

 想定内です。この時点で6位でも、9月に首位争いをしているチームは過去、いくらでもありました。試合数が少ないから、3連敗しただけで一気に順位が動いてしまう。どんな状況であれ、まだまだ悲観する必要もないし、逆に言えば課題を噴出するのが今で良かったのかもしれません。まだまだ立て直す時間はあるので、どのチームも、どの選手にも期待して見ていきたいですね。

(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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