井上尚弥のラスベガス戦を前にさまざまな記録をチェック 更新を狙う世界戦通算KO勝利、トップ目前の世界記録は?

船橋真二郎

今年1月24日、井上尚弥(左)はキム・イェジュンに4回KO勝ち。世界戦通算KO勝利数は22となり、歴代世界1位のジョー・ルイスに並んだ 【© Lemino/SECOND CAREER】

 世界戦通算KO勝利数の単独トップなるか――。今年1月24日、キム・イェジュン(韓国)を4回KOで下し、世界戦通算22KOとした井上尚弥(大橋)。これで25連続防衛の大記録を打ち立てた伝説的世界ヘビー級王者ジョー・ルイス(アメリカ)が1937年6月から1948年6月にかけて記録した歴代最多KO勝利数に並んだ。

 5月4日(日本時間5月5日)、アメリカ・ラスベガスのT‐モバイルアリーナで臨む世界スーパーバンタム級4団体統一王座の4度目の防衛戦で、WBA1位のラモン・カルデナス(アメリカ)にKO勝ちすれば、井上がルイスの世界記録を約77年ぶりに更新することがカルデナス戦の発表記者会見でも話題になった。

「これ(記録)について、思うことはないですね。記録を狙って、試合をするわけではないので。自分のベストを尽くした結果、記録を更新できたらいいな、という気持ちもありますけど。それぐらいですね」(カルデナス戦の発表記者会見より)

 記録とは、井上が言うように目の前の1戦1戦を勝ち抜いた結果。もちろん階級も違うし、相手も違う、ラウンド数などの背景や時代も異なり、比較するのは難しいのだが、それでも記録を通して、それぞれの足跡が交差し、ボクシングという競技の長い歴史を感じられるのが素晴らしい。

 2004年にイチローがアメリカ・メジャーリーグのシーズン最多安打記録に84年ぶりに迫り、更新したとき、それまでの記録保持者だったジョージ・シスラーという往年の名選手に光が当たり、その偉大な足跡にあらためて敬意が表された。単純に抜いた、抜かれただけでなく、記録が語られる意義のひとつであると思う。

 いよいよ目前に迫ってきた井上のラスベガス戦を前にさまざまな世界記録や日本記録を整理した。記録という面から見ても注目の1年になりそうだ。

※『日本ボクシング年鑑』(日本ボクシングコミッション発行)の巻末に収録された「ボクシング百科全書」、『ボクシング・ビート』誌2024年1月号(P26-27)掲載の「世界戦通算勝利数」などを参考に、記録サイト『BoxRec』などで筆者が独自に調べ直したもの。
※『BoxRec』ではイギリス・ボクシング管理委員会(British Boxing Board of Control)がジョー・ルイスの1951年6月のリー・サヴォルド戦を世界ヘビー級タイトルマッチと認めているとしており、これを含めるとルイスの世界戦通算KOは「23」、世界戦通算勝利は「27」となることを付記しておく。

井上の世界単独トップなるか

【筆者作成】

 井上の世界記録がかかる世界戦通算KO勝利数だが、20KO以上は5人だけ。ヘビー級のルイスのほか、スーパーフェザー級からスーパーライト級まで3階級制覇のチャベスとミドル級のゴロフキン、ライトヘビー、クルーザー級のミハエルゾウスキーに軽量級の井上が割って入り、ついに抜き去ろうかというところまで来たのだからすごい。

 そうなると井上が2023年7月にスティーブン・フルトン(アメリカ)を通算20KO目となる8回TKOで下し、4階級制覇を果たすまで約22年、最軽量級のミニマム級からライトフライ級で19KOと軽量級トップの座を守り続けていたリカルド・ロペス(メキシコ)も称えられるべきだろう。ロペスは1990年10月、井上が所属する大橋ジム・大橋秀行会長を5回TKOで下し、WBC世界ミニマム級王座を奪取したことでも知られる。

 その後、ロペスは同ミニマム級王座の22連続防衛を果たし、2001年9月、2階級目のライトフライ級でスーパーバンタム級のゴメスが1982年12⽉につくった軽量級最多記録の18KOを約19年ぶりに破った。

 井上に次ぐアジア人2位は1984年から1991年にかけ、WBA世界スーパーフライ級王座を19連続防衛したカオサイ・ギャラクシー(タイ)の17KO。2022年6月、フィリピンの英雄ノニト・ドネアを鮮烈な2回TKOで返り討ちにし、井上がアジアのトップに立つことになるのだから象徴的である。現役では15KOでテレンス・クロフォード(アメリカ)が井上に続く。

日本記録は中谷潤人が上位に急接近中

ここまでWBC世界バンタム級王者の中谷潤人(右)は世界戦9戦全勝8KO。かつての井上と同じペースで上昇中 【Photo by Sarah Stier/Getty Images】

【筆者作成】

 世界戦通算KOの日本記録は、この3月13日にユーリ阿久井政悟(倉敷守安)を劇的な最終12回TKOで下し、ライトフライ級に続き、フライ級でも2団体の統一を成し遂げた寺地が内山を抜いて井岡と並んで2位タイに。井上の22KOは井岡、寺地の11KOの倍で他の追随を許さない状況にある。

 井岡と寺地の11KOは、現役では5月3日にスーパーミドル級の4団体王座統一戦に臨むサウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)、元4階級制覇王者のローマン・ゴンサレス(ニカラグア/帝拳)と並ぶ。井岡は5月11日、大田区総合体育館でWBA世界スーパーフライ級王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)との再戦に臨み、王座奪還を目指す。

 そして、世界戦9戦全勝8KOと上位に急接近しているのがWBC世界バンタム級王者の中谷だ。6月8日、IBF同級王者の西田凌佑(六島)との興味深い王座統一戦をKOでものにすれば、具志堅、山中と並んで5位タイとなる。

井上が迫る、もうひとつの世界記録とは?

世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥と井上を支える大橋秀行会長(右)、父・井上真吾トレーナー(左)(2025年1月24日) 【© Lemino/SECOND CAREER】

【筆者作成】


 世界戦連勝記録でも井上はトップ目前。26連勝で1位のルイスとメイウェザーまで2と迫る。カルデナス戦、9月のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)戦と12月のフェザー級でのニック・ボール(イギリス)戦、すべて計画どおりに進むと年内にも27連勝となり、連勝記録でも世界記録を更新することになる。

 ヘビー級のルイスが第2次世界大戦を挟んで打ち立てた25連続防衛は不滅の大記録。長い間、連続防衛記録はボクシングの世界王者のステータスを示すものだったが、近年は適正体重に合わせて階級を上げ、複数階級制覇を狙うことが主流となっているため、同一階級での連続防衛記録は生まれにくくなった。

 これを時代に合わせて世界戦連勝記録とすると世界5階級制覇王者のメイウェザーがルイスと並んで1位に浮上する。連続防衛記録の場合は引き分けでもカウントされる。世界戦連勝記録のほうがより厳しい?

【筆者作成】

 日本では井上の24連勝が他を寄せ付けないが、1976年から1980年にかけて具志堅がライトフライ級だけで達成した13連続防衛(王座奪取時を含めて14連勝)は40年以上も破られていない連続防衛記録の金字塔。WBA世界スーパーフライ級王座を6度防衛後にWBC王者パヤオ・プーンタラット(タイ)との“事実上の統一戦”を敢行し、WBA王座をはく奪された渡辺は12連勝となり、世界戦連勝記録では4位に入ってくる。

 逆にWBA世界スーパーフェザー級王座を11度防衛、連続防衛では3位の内山は5度目の防衛戦が不運な負傷引き分けでランク外。3位の山中の13連勝、5位の長谷川の11連勝は、いずれもWBC世界バンタム級王者としての記録。その伝統のベルトを受け継ぐ中谷が9連勝(3階級で記録)で2人を追いかけている。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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