“氷上のエンターテイナー”友野一希、五輪シーズンへ新ショートを初披露 プログラムに込めた戦略と思い

沢田聡子

「できる動きを全部詰め込んだ」新ショートで存在感を発揮する友野一希 【写真:麻生えり】

ダンサブルな新ショートでは片手側転にも挑戦

 2026ミラノ・コルティナ五輪シーズンが始まる7月1日まで、約2カ月。友野一希は早くも来季へ向けてスタートを切った。

 4月26日、KOSÉ新横浜スケートセンターで行われた「プリンスアイスワールド2025-2026 PIW THE MUSICAL~The Best of BROADWAY~ 横浜公演」の初回で、友野は来季の新ショートプログラム『That’s It(I’m Crazy)』を初披露した。AppleのCM起用曲を使う、アップテンポでダンサブルな演目だ。昨季初めて振付を依頼した世界的振付師、シェイ=リーン・ボーン氏が手がけている。

 ショー前半の終盤、友野は胸元に青の飾りがついた黒地の衣装をまとって登場。トリプルアクセルに挑み、バレエジャンプを跳び、片手側転にもチャレンジした。友野ならではの踊り心満載の新プログラムで、湧き起こったスタンディングオベーションに、友野は笑顔で応えている。

 公演後の囲み取材では、片手側転を取り入れた経緯について質問があった。友野は、ボーン氏との振り付け作業でいろいろな動きを試す中、「側転できる?」と提案されたと明かした。

「正直、最初全然できなくて、今もまだちょっと足が伸び切ってなかったりとか…演技の後半でかなり足にきているところなので、若干『怖いな』と思う部分はあるんですけど。できる動きを全部詰め込んだみたいなプログラムで、側転もその一つ。『できるんだったら入れちゃおうぜ』みたいな感じで、いいところで入れてもらったんですけど、側転もかなり練習しないと。練習で、けっこう滑って転んだりするので。

 でも側転は入れたことがなかったので、そういう新しい動きが入っていて。滑る以外の要素というか、ちょっとアクロバティックな動きが入っているのも魅力だと思う。もうちょっと、綺麗にできたらなと。公演を通して、成長できたらと思います」

 観る者を楽しませる魅力で“氷上のエンターテイナー”と呼ばれる友野一希は、フィギュアスケート・男子シングルの日本スケート連盟の強化選手では最年長となる26歳。2017-18シーズンにシニアに上がってから常に日本のトップクラスで戦い続け、世界選手権にも3回出場し2018年5位、2022・23年6位と好成績を残している。繰り上げ出場した国際大会で常に結果を出してきたことから“代打の神様”とも呼ばれていたが、2023年世界選手権には正代表として臨んだ。

 2018年平昌五輪、2022年北京五輪の代表選考でも候補の一人だったが、出場には至らなかった。集大成と位置づける、ミラノ五輪シーズンへの思いは人一倍強い。才気を生かして取り組んでいたメディア関連の仕事も来季を前にいったん区切りをつけ、覚悟を持って臨んでいる。

 強い思いで迎える来季のフリーには、昨季滑った『Halston』(ミーシャ・ジー氏振付)を再び選んだ。静かなピアノ曲のフリーに対し、ショートはビートの効いたダンスナンバーだ。真逆といえるショートとフリーの選択に、自らの表現を出し尽くそうとする友野の意志が感じられる。

 ボーン氏から多数送られてきたショートの候補曲を友野自身が聞き比べ、選んだのが『That’s It(I’m Crazy)』だったという。

「オリンピックに向かう中で、本当に曲はいろいろ迷ったんですけど…新しい要素もありつつ、特に日本人スケーターの中で、ショートで一番存在感を出せるようなプログラム作りをしたいなと考えていて。自分にしかできない、自分の魅力が詰まった、さらに技術が点数にしっかりつながるような、バランスのとれた『代表作となるようなショートプログラムに』という思いがあったので。

 すごくいいプログラムを振り付けしていただけたなと思いますし、このプログラムを自分の代表作にできるように。フリーもそうですけど、このプリンス(アイスワールド)から、一つひとつしっかり気持ちを込めて滑っていきたいなと思います」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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