河村勇輝・独占インタビュー NBA挑戦1年目のシーズンを「60点」と辛めに自己採点した根拠とは?

杉浦大介

流麗なパスワークで多くのファンを魅了した河村だが、NBA挑戦1年目のパフォーマンスには決して満足していないという。手にした収穫と直面した課題とは? 【杉浦大介】

 河村勇輝のNBA挑戦1年目のシーズンが終わった。メンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約(基本は下部リーグにあたるGリーグの選手ながら、期間限定でNBAへの出場も可能)を結び、Gリーグのメンフィス・ハッスルではまずまずの結果を残した一方で、NBAでは出番が限られたシーズンを、本人はどう評価しているのだろうか。NY在住のスポーツライター、杉浦大介氏がメンフィスで河村を直撃した。

この1年で成長したのは適応能力

 メンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約を結んだ河村勇輝が、アメリカでの1年目を戦い終えた。

 昨年10月25日(現地時間、以下同)、敵地でのヒューストン・ロケッツ戦で初出場を果たし、日本人史上4人目のNBAプレーヤーになった河村。NBAでは22試合に出場して貴重な経験を積み、Gリーグでは平均12.7得点(FG成功率38.3パーセント、3P成功率36.5パーセント)、8.4アシストをマークしてオールスターにも選ばれた。

 NBAで最も小柄(173センチ)ながら、流麗なパスワークで多くのハイライトシーンを生み出して人気選手になるなど、アメリカの地に確かな足跡を残している。

 とはいえ、NBAでは平均4.2分のプレータイムで同1.6得点(3P成功率30.4パーセント)、0.9アシストにとどまり、プレーオフに進出したチームで大きな戦力になったわけではないという現実もある。

 4月25日、メンフィスの河村のもとを訪ね、2024-25シーズンをじっくりと振り返ってもらった。自らを客観的に捉えられる聡明さが23歳のPGの長所でもある。その言葉からは、間違いなくポジティブな一歩を踏み出したという手応えとともに、“世界最高峰のバスケットボールリーグ”で生き残っていくための課題を、しっかりと認識していることも伝わってきた。


──NBAで22戦、Gリーグで31戦に出場した今シーズンを、「いいシーズンだった」と振り返ることはできますか?

 アメリカに来る前、今シーズンはGリーグで1年間プレーして、来シーズンに2ウェイ契約が取れたらいいなと考えていました。それが思っていたよりも早くNBAのコートに立てましたし、アメリカでの1年目から2ウェイ契約を取れたことは良かったと思います。ただ、NBAのレベルの高さを痛感するシーズンでもあったので、満足はしていません。NBAでやっていくためには何が必要なのか、課題が分かったシーズンでした。

──NBAでも通用すると感じた点は?

 昔から強みにしていたスピードは、アメリカでも生かせると思いました。あと、グリズリーズからも評価してもらえたのはパス、アシストの能力。そこもNBAで十分通用するかなと感じています。

──Gリーグでの平均8.4アシストという数字は、ある程度納得できていますか?

 もっとできたかなという気持ちも正直あります。特にシーズン終盤、Gリーグでの役割が変わり、シューターとしての仕事をより任せられるようになったんです。それ以降、長所であるアシストはなかなかうまくいかないところもありました。ただ、NBAでやっていくためには、コーチに求められたことを瞬時に判断し、その期待に高い水準で応えていくことが必要。求められた役割にアジャストする力も高めなければなりません。それもシーズンを通じて徐々にできるようになっていったとは思います。

──つまりアメリカでのこの1年で成長した部分を挙げるなら、さまざまな状況への適応能力ということになるのでしょうか?

 その通りです。まだまだ十分ではないにせよ、求められたときにしっかりと適応する力は身に付いてきているのかなと感じています。あとは3ポイントシュートの精度ですね。それこそがNBAに入って以降、必ずクリアしなければいけない課題でもありました。終盤になるにつれて3ポイントの感覚、タッチは良くなっていったと思います。

悔しさを味わうためにアメリカに来た

グリズリーズで多くの出場機会を得られなかった理由の1つに、ディフェンス面の課題を挙げた河村。そこをクリアした先に、NBAでの本契約があるはずだ 【Photo by Justin Ford/Getty Images】

──課題は大きく、3ポイントとディフェンスのレベルアップだったのかなというのは見ていても感じられました。3ポイントが向上しているとすれば、あとはやはりディフェンスでしょうか?

 グリズリーズであまり試合に出られなかったのは、ディフェンス面の課題がクリアできていないからだと思っていました。自分は高さがない分、アドバンテージを取られることもあります。それをさせないような努力、ディフェンスでの力の見せ方というのはもっと学ばなければいけません。そこをクリアしていかないと、目標であるNBAでの本契約はなかなか難しいと思っています。

──大きくて、速くて、強いNBAの選手たちに守備面で対抗するには、具体的に何をすべきなのでしょうか?

 先ほども話した通り、自分の長所は速さ、速い(プレーの)中での強さです。だからオールコートでプレッシャーをかけ、相手のPGに気持ち良くボールを運ばせないように、そこで少しでもオフェンスのリズムを崩すようなディフェンスをしなければいけません。試合に出たら毎ポゼッションでそれをやらなければいけないと思っています。あとはハーフコートになったときに、ミスマッチをつかれることがあるので、そこではフィジカルに当たり、簡単にアドバンテージを取られないような強いディフェンスが必要ですね。

──3ポイントに話を戻すと、基準になるのは成功率40パーセント以上でしょうか?

 40パーセント以上はかなり素晴らしいシューターが残す数字です。僕は身体が大きいわけではないので、やはり40パーセントを1つの目標にしていかなければと思います。それだけの成功率を持っている選手は相手にも一目置かれますし、そうなれば自分の強みであるドライブがより効果的に生きてくるでしょうね。

──ポジティブなこともたくさんありましたが、今シーズンはNBAでプレーできない時間が多かったのも事実です。これまでのキャリアでは常に主力級の立場だった河村選手にとって、これほど試合に出られなかったのは初めての経験だったのではありませんか?

 はい、その通りですね。

──その点で、気持ちの持って行き方に難しさがあったのでは?

 もちろん戦力として考えられていないというか、チームの勝利に貢献できない悔しさというのはベンチから試合を見ていて常に感じていました。もどかしさ、悔しさというのはすごくありました。でもこの経験は、日本にいてはできなかった。こういった経験をするために、僕はアメリカに来たんです。自分が目指してきた世界最高峰のNBAというリーグで、プレータイムを確保するのは簡単なことではないと実感していますし、だからこそ目指すべき価値のあるリーグなんだとあらためて思っています。

──今シーズンの自分に点数を付けるとしたら、100点満点で何点でしょう?

 うーん、60点くらいですかね。

──NBAに到達した時点ですでに歴史に名前を刻んだわけですから、少し辛めの自己採点ではありませんか?

 辛いですか?(笑)。いや、60点くらいですよ。NBAでは試合に出られていないので、もっといい点数を付けられるほど自分に満足はしていませんし、同時にもっとできると信じています。60点から70点、80点、90点に持っていくまでが、相当に大変な道のりなんでしょうね。まずは本契約が直近の目標です。NBAでもいつかローテーションプレーヤーになり、シーズンが終わったときに少しでもいい点数を自分にあげられるようにしたいです。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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