B1中地区連覇・三遠は「地域の誇り」になれるのか? 大野HCの苦闘と生まれつつあるカルチャー

大島和人

三遠は4月23日の横浜BC戦で2季連続の中地区制覇を決めた 【(C) B.LEAGUE】

 三遠ネオフェニックスがレギュラーシーズン4試合を残して、2シーズン連続となるB1の中地区制覇を決めた。大野篤史ヘッドコーチ(HC)は千葉ジェッツの黄金時代を築いた名将だが、新天地でも偉大なチームを作り出しつつある。就任初年度(2022-23シーズン)は23勝37敗の負け越しでチャンピオンシップ(CS)進出を逃したが、昨季と今季はBリーグ全体にインパクトを与える戦いを見せている。

 今季(2024−25シーズン)はアルバルク東京が東地区から、名古屋ダイヤモンドドルフィンズが西地区から、中地区に移ってきた。そんな「最激戦区」で、三遠は12月14日の越谷アルファーズ戦から22連勝を飾るなど、圧巻の戦いを続けていた。

 三遠のスタイルはデータを見れば一目瞭然だ。攻撃のペースが早く、得点力(1試合平均91.2得点=全体1位)が圧倒的に高い。リバウンドは琉球ゴールデンキングスに次ぐ2位、3ポイント(3P)シュートの成功数は宇都宮ブレックスに次ぐ2位で、これも彼らの強みだ。

 老獪さや手堅さ、パワーは感じないが、躍動感と爽快感は唯一無二と言っていい。鋭い守備やリバウンドで「ポゼッション」を増やし、自分たちがボールを得たら素早く攻め切る。速さに加えて効率も併せ持っている。それは今季の三遠が見せたモノだった。

逆転勝利の立役者はルーキー

22歳の根本大(写真左)が存在感を示した 【(C) B.LEAGUE】

 ただ3月後半からその勢いが落ちていた。特に「あと1勝で中地区優勝決定」のファイティングイーグルス名古屋戦(4月16日83●89)からは3連敗を喫している。今季の10 敗のうち、6敗は3月22日以降だ。

 FE名古屋戦は主力外国籍選手を出場停止で欠いていたし、19日と20日に連敗したシーホース三河はCS出場が濃厚な強豪という事情はある。とはいえこの減速で、全体1位を宇都宮ブレックスに譲っていた。

 4月23日の横浜ビー・コルセアーズ戦も、試合の大半でリードされる展開だった。第3クォーター残り3分20秒に相手の3Pシュートが決まった時点で、46-58と12点のビハインド。なかなか埋めるのが難しい点差となっていた。

 三遠はそこから食い下がり、第4クォーターに入って逆転する。試合の流れを引き寄せたのが根本大、大浦颯太のガード陣だった。

 第4クォーター残り6分21秒、大野HCは津屋一球を下げて、新人ポイントガードの根本をコートに送り出した。スコアは65-65のタイで、まだ三遠の優位と言える状況ではなかった。指揮官は振り返る。

「打開できる人間が誰かというときに、(佐々木)隆成もちょっと身体が重そうにも見えたし、ここで打ち切ってくれるのは(大浦)颯太かなと。もうひとりはハンドラーとしてというより、ボールの出所を消したかった。(根本)大がパスを止めて、つないでくれました。ディフェンスからミスを誘発して、颯太が打ち切ってくれた。そこで自分たちの勢いが取れたと思います」

 記者会見の冒頭でも「自分たちの流れを持ってきてくれたのは、ルーキーの大」と新人PGを絶賛していた。

 根本は投入直後にスティールを決める。根本がドライブから持ち込んだシュートは決まらなかったが、リバウンドからデイビッド・ヌワバが叩き込んでチームを勢いづかせた。さらに大浦が3Pシュートを立て続けに決め、残り4分20秒にも大浦がスティールからレイアップに持ち込んで75-65の10点差。三遠はプレッシャーディフェンスと速攻で畳みかけ、わずか2分で10点のリードを得た。

大野HCが引き上げた佐々木と大浦

大浦は佐々木とともに日本代表候補にも入っている 【(C) B.LEAGUE】

 大浦は述べる。

「試合の途中で篤さん(大野篤史HC)からも(相手に)プレッシャーをかけようという話がチームにありました。自分や根本がまずプレッシャーをかけたところで、少しずつチームが重たい雰囲気から変わろうとしていけた。それをきっかけに自分たちのバスケットが何だったのか、少し取り戻せたのかなと思います」

 佐々木隆成と大浦は日本代表候補にも選出されているポイントガードで、三遠のスタイルを攻守に体現している二人だ。もっとも佐々木はB2熊本ヴォルターズからの移籍で、大浦も秋田ノーザンハピネッツ時代には今ほどの輝きを見せていなかった。

 横浜BC戦も含めて存在感を見せているルーキー根本も、関東を代表する強豪の一つ白鴎大出身だが、決して「エリート」ではない。

 大野HCは人材の発掘と、強みの引き出し方が抜群に上手い。昨季(2023-24シーズン)の序盤戦、佐々木が台頭し始めていた時期に、大野HCはこんなことを語っていた。

「(各選手が)コートに出てパフォーマンスをして何かを感じる前に『自分はこういう選手』という固定概念みたいなのが本当に強かった。例えば佐々木隆成だったら(自分を)ロールプレーヤーだと思っていて、ボールを離したがっていたんです。なので最後にお前がボールを持つ、お前が打つんだと(伝えた)。富樫勇樹のメンタリティじゃないですけど、自分がゲームを決める責任を持てるくらいになれるという話はしています」

大野HCが作り上げたカルチャー

メイテンは「いぶし銀」的存在で、インサイドの柱 【(C) B.LEAGUE】

 大野HCの強みは発展途上の日本人選手だけでなく、外国籍選手からもリスペクトを得られるところだ。

 3シーズンをともにしているヤンテ・メイテンはこう語っていた。

「まずプレーヤーのことを深く理解できているコーチだと感じています。選手がそれぞれの能力を発揮できる、または選手が心地よくプレーできる使い方をしてくれます。さらにディフェンスをしっかり読んで、自分の判断でプレーしていいという、ちょっとした自由を与えてくれるコーチです。間違った読みをしたときは指摘をされますが、そこでいいプレーができれば自由度が上がります。他のコーチは個々の『読み』を許さず選手を制限しがちですが、大野さんは選手が主体的になって何を選ぶかを選択させてくれる。そこが成功の秘訣だと感じています」

 三遠の選手は自由を与えられても、自分でなくチームのためのプレーを選択する。その背景をメイテンはこう説明する。

「選手をリクルートするときに、セルフィッシュではない選手を選んでいるというのもあるでしょう。チーム文化に基づいて、みんながプレーできているところもあると感じています。本当に選手みんなの仲がいいですし、それがコート上でも現れていますね。みんなが『いい人』というところが、チームの文化と混ざって、融合していい状態を生み出していると思います」

 2季連続中地区制覇の立役者は、誰をおいてもそのカルチャーを作った大野HCだろう。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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