「投手・大谷翔平」の現在地をデータで解析 「どんな質の球を投げるのか?」復帰後の目指す姿が見えてきた
“データでまだ出ていない”とは?
キャッチボールでもときにラプソード(球速、回転数、回転方向、縦横の変化量などを計測できるデバイス。打球初速、打球角度、飛距離の計測も可能)を使用して、軌道データを確認するほどの大谷。かつて、スイーパーについて、こう話したことがある。
「何種類かパターンがあるんですけど、一番ベーシックなスイーパーに関しては、データでまだ出ていない。おそらく僕がこうじゃないかな、こういうスイーパーが打てないんじゃないかな、というものを一応、持ってはいる」
“データでまだ出ていない”とは、どういうことか?
どんな球種でも、球速、回転数、変化量、回転方向など、各軌道データが平均値に近ければ近いほど、打者の脳に軌道がインプットされているので、捉えられやすい。打者は、ボールを見て振っているわけではない。軌道を予測してバットを出しているからだ。逆に、平均値から外れていれば、予測ができない。大谷が口にした“データでまだ出ていない”とは、そうした平均値から外れ、打者が予測できないような軌道を指す。
それがまさに“ピッチデザイン”の基本概念でもあり、その言葉を生み出したトレバー・バウアー(DeNA)も先日のインタビューでこう話した。
「バッターにどうボールが見えているか。打者の予測をいかに裏切るような球を投げられるかどうか。打者の中でここにくるなと思ったところにボールがくれば打たれる」
大谷もその言葉の意味を理解しているので、キャッチボールでさえ、軌道を意識しているのだろう。
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最新アプリで大谷の投球を計測すると…
今回、大谷の4シームの軌道データを、今年のメジャーリーグ平均(4月21日現在)、2023年の大谷の数値と比較してみた。
当然ながら、現時点で公になっているデータはないので、大谷がブルペンで投げているときに、日本のベンチャー企業「ノーウェア」が開発した「SmartScout」というアプリを使って計測した。
「SmartScout」は、スマートフォン1台で、ボールの軌道データ(球速、回転効率、回転数、縦横の変化量、ジャイロ成分)が計測可能なアプリ。先日、グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社、ニッセイ・キャピタル株式会社といった投資会社だけでなく、ロッテの西野勇士、ヤクルトの木澤尚文らが、「ノーウェア」に投資していることが明らかになった。
気になる精度だが、ノーウェアは、流体力学シミュレーション研究の第一人者で、スパコンを使ってフォークボールが落ちる謎を解明し、大谷のスイーパーに関しても、相手が“浮いている”と錯覚する回転軸の角度などを数値化した現東京科学大名誉教授の青木尊之氏のサポートを受けて独自の空気抵抗のアルゴリズムを開発しており、他社との比較(球速、縦変化、横変化、回転効率、回転方向、回転数、ジャイロ角度)でも、ほとんど差が見られない。球速など1キロ未満。(表1)。メジャーリーグではレンジャーズが、日本ではロッテがすでに導入を決めたことが、図らずも精度の高さを裏付ける。彼らは当然、他社の機器と同時に計測し、比較検証を行ったはずなのだから。
シーズンに入ってからも、ドジャー・スタジアムのブルペンでは距離がありすぎて測定不可能。敵地でもアクセスが限られるので苦労したが、それでもフィラデルフィアでは、大谷の背後――数メートル上の客席から計測することができた。すると、興味深い数値が得られた。