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残り5試合、三笘薫の不退転の覚悟 自らのゴールも実らず完敗も「まだ諦めない!」

森昌利

故障明けの三笘は、4月19日のブレントフォード戦で後半20分から出場。チームは敗れ、来季の欧州戦出場は難しくなってきたが、日本人エースはまだ望みを捨てていない 【Photo by Vince Mignott/MB Media/Getty Images】

 4月19日(現地時間、以下同)のプレミアリーグ第33節、ブライトンは敵地でブレントフォードに2-4で敗れた。怪我の影響で前節欠場の三笘薫は、1-3の後半20分から出場。後半36分には自己記録を更新する今季8ゴール目を決めて追撃ムードを高めたが、その後チームは逆に1点を奪われて勝ち点を挙げられなかった。これで5試合連続勝ち星なし。上位との差はさらに広がり、欧州カップ戦の出場権獲得は難しい状況となった。それでも三笘は、「5試合あるのでまだ分からない。これからだと思います」と前だけを向いている。

まるで前節の失点シーンのビデオを見ているかのように…

「うーん……。まあ、カウンターもそうですし、セットピースもそうですし、いつもやられているところで失点しているところで、反省点が活かせていないところがありますし。負けて当然の内容かなと思います」

 最初に「うーん」と唸ったところにもフラストレーションを感じさせたが、アウェーで行われたブレントフォード戦直後の三笘薫の言葉には、この試合の2-4の敗戦に対する明らかな失望が浮かび上がっていた。

 プレミアリーグの順位表を見ると、勝ち点79の首位リバプールがポンと抜け出し、勝ち点66の2位アーセナルも勝ち点60の3位ノッティンガム・フォレストを少し引き離していて、上位2チームの順位は安泰に見える。しかし3位フォレストから4位ニューカッスル、5位マンチェスター・シティ、6位チェルシー、そして7位のアストン・ヴィラまでは、わずか3ポイント差のなかにひしめく大接戦。上位5チームまでに枠が拡大された来季の欧州チャンピオンズリーグ(CL)出場権を激しく争っている。

 一方、ブライトンはブレントフォード戦の敗北で勝ち点を48から積み上げられず、10位に沈む。まさに団子状態になっている、3~7位のいわば“欧州の山”から9ポイント差をつけられて、欧州CL出場権争いから脱落してしまった。これは直近5試合の成績が2分3敗で、最大15ポイントの勝ち点をわずか2ポイントしか積み重ねられなかったのが明確な原因だ。

 4月5日のクリスタルパレス戦で右足のかかとを負傷した三笘は、今季初のベンチ外となった前節のレスター戦で、2度もPKをもらって2度先行したにもかかわらず、2-2で引き分けた試合を何もできずに見守った。

 そしてブレントフォード戦では、試合後に27歳MFが苦虫を噛み潰したような表情で語ったように、相手の先制点と3点目はカウンターで奪われ、4点目を右サイドのフリーキック(三笘は「セットピース」と言ったが、英国ではセットプレーをそう呼ぶ)からヘディングで決められた。最後のダメ押し弾はまるでビデオを見ているかのように、レスター戦で2ポイントを削られた同点弾と同じような形だった。

三笘には珍しくチームメイトに厳しい注文も

後半36分、味方からスルーパスを引き出した三笘は、1点差に詰め寄る追撃弾。しかしチームはその後が続かず…… 【Photo by Richard Heathcote/Getty Images】

「いつもやられているところで失点している」――同じ失敗を繰り返して負けが続くと、人間は進歩を感じることができず、かなりへこんだ気持ちになるだろう。そんな“へこみ”はこの後、自身のゴールについて尋ねられて返した三笘のコメントにも表れていた。

 体を捻って、左足を交差させるようにして対角線上に流し込んだシュートに筆者は、三笘の“ここに流し込めば決まる”という意思を感じ、瞬時にしっかりとゴールのイメージができていた得点だったと感心した。利き足ではない左足で決めたこともポジティブだった。しかも三笘個人にとって、プレミアデビューシーズンの7ゴールを上回る自己記録更新の8ゴール目だった。

 ところが三笘は、「ワンタッチで決めてくださいというパスだったので、そのパスを称賛したいと思います」と話した。確かに相手の最終ラインを切り裂くような素晴らしいスルーパスであったが、自分のゴールより20歳の同僚ジャック・ヒンシェルウッドのアシストに価値があると言ったのだ。

 これもやはり、自分がゴールを決めたことより、チームの敗戦に心が傷んでいたからなのだろう。自分の新記録にスポットライトを当てる気にならないのだ。

 しかしそんな素っ気ない日本代表MFの反応にめげずに、「10人での戦いを強いられるなか、三笘君が1点差に迫るゴールを決めた後にはブライトンが攻勢になり、同点に追いつくムードもあったと思うが」と投げかけた。

 けれども三笘は、「もう1点(取りに)いこうという展開で、ああいうセットプレーの場面で集中しないといけないですし、相手が1人多いなかで自分たちの判断がどうだったのかというのを見つめ直さないといけないと思いますけど、それは結果論なのでもう仕方がないと思います」と話して、自軍の攻勢よりブレントフォードに再び2点差をつけられた後半アディショナルタイムのダメ押し弾を悔やんだ。

 この試合では、後半16分にエースストライカーのジョアン・ペドロがクリスティアン・ノアゴーに肘打ちをかまして一発退場となっていた。相手に立て続けに2点を奪われた直後でフラストレーションもあったと思うが、この退場によって敗戦が色濃くなり、ブレントフォードの楽勝を予感させた。

 けれどもその後、三笘がベンチから登場すると、ブライトンは2点のビハインドで10人での戦いを強いられながらも、そこから開き直って押し上げた。そして日本代表MFのゴールで2-3とすると、その後も驚異的な運動量で攻め続けた。そうした姿勢は非常にポジティブだったので、ブライトンの長所が出たその後半の時間帯は「次につなげるべきなのでは?」と素直に尋ねた。

 三笘はこの問いに「まあ、そうですね」と語り始めたが、「その展開のときに1点、2点と取れればいいですけど。前半からもっとアグレッシブにやっていかないといけないですし、まあ、一人ひとりのメンタル的なところもそうですし、プレーの判断のところで、前半からもっと勝つという意志を見せなければならないと思います」と続けて、珍しくチームメイトに厳しい注文をつけることも忘れなかった。

 これも長いシーズンの戦いが完結に向かう終盤戦だからだろうか。レギュラー3年目の中心選手としての提言であると同時に、1つの敗戦がチームの最終順位に激震のように影響することを知る三笘の焦燥も感じさせる言葉だった。

 けれども、欧州戦参戦の希望を根こそぎ奪うような敗戦の後でも、三笘は最後に「それでも、もう前を向いてやるしかない、5試合あるのでまだ分からない。これからだと思います」と言って、並々ならぬ決意をむき出しにして、西ロンドンのブレントフォードを去っていった。

 この不退転の決意が、残りの試合で三笘にゴールを量産させ、ブライトンの連勝を呼び込むことを切に祈る。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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