鍵山優真と坂本花織、それぞれの世界国別対抗戦 “日本のエース”という重責に向き合う

沢田聡子

最後の国別対抗戦「めちゃくちゃ楽しかった」と坂本

疲労を乗り越え、最後となるフリー「シカゴ」を滑り切った坂本花織 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 坂本は世界選手権では4連覇は逃したものの、ショート5位からフリーで追い上げて銀メダルを獲得している。国別対抗戦の前日練習後には、ピークを合わせた世界選手権後であることから「なかなか調整が難しい大会」としながらも、「案外体もまだ試合モード」と述べた。

 坂本は今大会の日本チームを、複数回出場の選手と初出場の選手が半分半分であるということで「完熟フレッシュジャパン」と名づけている。

「今大会は4回目ということで、やっぱり今までの経験もたくさん助けてくれるだろうし。その経験を新しくフレッシュ側が受け止めて、汲み取って、次に生かしてくれたらいいなという感じがします」

 翌日のショート、坂本は3回転フリップ―3回転トウループの間にターンが入るミスがあり、得点は75.54で1位のアリサ・リウ(アメリカ)と僅差の2位となった。ミックスゾーンでの坂本は、「思い切っていけば多分いけました」とミスを少し悔いている様子もみせた。

「皆この疲労感の中、よく頑張ったなと思います」とチームメイトを讃えた坂本は、自らの疲労感について問われると、明るく言い放った。

「もう疲労感通り越してます(笑)。限界突破!」

 一日おいた19日、最終種目となる女子フリーを前にした坂本は「女子が始まる前から、『(日本は)2位かな』っていうのは正直あった」という。しかし、チームメイトの千葉百音と「とにかく最後まで滑り切ろう」と誓い合い、更衣室で気勢を上げて臨んだ。

 今シーズン最後となるフリー『シカゴ』では小さなミスがいくつかあったものの、耐えて145.00というスコアを獲得し、3位に入った。

「みんなが“これでもか”っていうぐらい応援してくれたので、それがすごく力になりました」
「『これが、気合いで乗り切った演技です』っていう演技でした」

 フリー後にそう振り返った坂本は、国別対抗戦はこれが最後かと問われ、「そうですね、2年後は絶対出ないです」と笑った。

「めちゃくちゃ楽しかったです。今年は、特に楽しかったかな。もちろん大変で、『やっぱり大変だな』とふとした瞬間に思うこともあったんですけど、リンクに来たら『やっぱり楽しいわ』ってなりました」

 坂本は、ミラノ五輪のプレシーズンである今季を振り返った。

「今シーズンが始まる前から、今シーズンと来シーズンは2シーズンで一つと言っていたので、ここで折り返し地点かな。この前半で課題をたくさん残して終われたのも、次の1年に向けての課題になったのかなと思うので。試行錯誤をたくさんしたシーズンだった。それはそれで本当に良かった」

 坂本は、集大成と位置づけるミラノ五輪シーズンを前に、楽しみながら戦う姿を後輩たちに示した。

「この中にオリンピックの団体戦を今後経験する選手ももちろんいると思いますし。『この団体戦の経験が、オリンピックの時に生かされたらいいな』とすごく思いました。やっぱり自分自身、団体戦というのは滅多にできないので、こうやって大事なシーズンの直前に経験できたことは、すごく良かったなと思っています」

 日本のシングルには、男女ともに栄光の歴史がある。団体戦である今大会では、現在エースと呼ばれる鍵山と坂本が、それぞれ真摯にその重責を果たそうとする姿があった。

2/2ページ

著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント