鍵山優真と坂本花織、それぞれの世界国別対抗戦 “日本のエース”という重責に向き合う

沢田聡子

ミラノ五輪を見据え、ショートの構成を上げた鍵山優真 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「“エース”というのはあくまで肩書」と鍵山

 2026年ミラノ・コルティナ五輪プレシーズンの最終戦である世界国別対抗戦(4月17~20日、東京体育館)で、日本は銀メダルを獲得。シングルでは、男女のエースである鍵山優真と坂本花織が、それぞれの思いを持って戦った。

 世界選手権(3月、アメリカ・ボストン)で銅メダルを獲得した鍵山は、ショートプログラムでは優勝したイリア・マリニン(アメリカ)に迫る2位発進だったが、フリーで崩れてしまい総合3位となった。その後、カナダで来季ショートの振付を行い、大会開幕の4日前に帰国。初出場となる国別対抗戦に臨んだ。

 前日練習後にメディア対応した鍵山は、翌日のショートではジャンプ構成を上げることを明らかにした。世界選手権まではサルコウだった単発の4回転ジャンプの種類を、より難度が高いフリップに変更するという。既にフリーでは組み込んでいる4回転フリップだが、ショートでは挑戦のジャンプになる。

「来シーズンの構成も4回転フリップを入れる予定になっているので、次の五輪シーズンに向けて、いいチャレンジになるかと思います」

 そう語った鍵山は、世界選手権の後に思い切り挑戦できる試合がある利点について問われると「そうですね、モヤモヤした気持ちで終わるのもちょっと嫌だったので」と答えた。

「国別はすごく楽しみだったし嬉しかったし、来シーズンに向けてチャレンジもできるということなので。楽しみながらも、自分も五輪シーズンに向けて新しい構成にチャレンジして、自信をつかんでいきたいです」

 17日のショートでは、予告通り4回転フリップに挑んだが、3回転になり転倒。しかし、他の要素はすべて加点がつく出来栄えで、得点は93.73、順位は4位だった。

「6分間練習で、一回もフリップを降りられなかったので……これを聞いた人がどういうふうに捉えるかはちょっと分からないですけど、僕はもうフリップ以外を頑張ろうと思っていた。ミスをしているフリップだけに意識を持っていかれすぎて、他のエレメンツがおろそかになってしまってはいけないので、『とにかく今できることをしっかりとまとめて頑張ろう』と思っていました」

 フリーへの意気込みを問われると、「もう失うものが何もないので」と答える。

「とにかく最初から最後まで全力で楽しみたいと思いますし、自分自身に勝ちたいと思っているので。せっかくのこの国別対抗戦という舞台を、楽しまなきゃ損だと思う。そこは忘れずに、しっかりと一つひとつのエレメンツを練習で調整して頑張っていきたいです」

 来季は高難度の4回転ルッツ投入も視野に入れるフリーには「4回転フリップまでのジャンプをしっかりと跳んでおかなくては意味がない」という姿勢で臨んだが、厳しい内容になってしまった。冒頭の4回転フリップ、続く4回転サルコウで転倒。3本目の4回転となるトウループでも、着氷が乱れた。その後の要素は大きなミスなくまとめたものの、スコアは本来の力とは程遠い168.93で、5位となった。

 ミックスゾーンでこの大会の収穫について尋ねられた鍵山は「それは落ち着いて考えないといけないところ」と、自らに問い直すように口にした。

「『来シーズンに自分がどういうパフォーマンスをしたいか』ということについて、もう一回目標を立て直さなきゃいけないというのも、今シーズン通してすごく実感しているので。来シーズンは、今シーズンのように悔しい思いをたくさんしないように。トレーニングの仕方をしっかりと見つめ直して、また一から頑張っていきたいです」

「来シーズンゼロからのような気持ちで初心に帰って、何もかも忘れて純粋にスケートができたらいいなと思います」

 北京五輪銀メダリストの鍵山は、世界選手権のメダルも計4つ(銀3・銅1)持つ実力者だ。世界トップクラスのスケーターである鍵山が、世界選手権のフリーから今大会まで苦しめられている不振の原因は、「日本のエース」という立場がもたらす重圧であるようにもみえる。

 フリーから一夜明けて取材に応じた鍵山は、「日本のエース」という称号について語った。

「『エースと呼ばれるようになったからには、気を引き締めて頑張ろう』と思えるような言葉だった。でも、自分の中でそれが無意識に『エースだから頑張らなきゃ』という、どんどん違う方向に向いていたのかなと感じる。“エース”というのはあくまで肩書なので、そういうことはあまり意識しすぎずに、自分がどういう目標を持ち、それに対してどうやって進んでいくかということを、常に忘れずにやっていきたいです」

 男子のエースである自分がどうあるべきかを模索する鍵山は、女子のエースである坂本への尊敬を口にした。

「今回坂本選手は、キャプテンとしてすごくハードなスケジュールをこなしている中でも疲れを見せない姿勢が素晴らしいなと思った。僕もそういう『人としても素晴らしいな』と思えるような人になりたいです」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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