トレバー・バウアーに独占インタビュー2025

バウアーが形成した「ピッチデザイン」の原点と本質 データを数字の羅列で終わらせないために学ぶべきことは?

丹羽政善

実際にボールを使って説明するバウアー 【スポーツナビ】

 前回、トレバー・バウアー(DeNA)よりも年上の選手は、彼に助言を求めることはほとんどない、という本人の言葉を紹介したが、例外もある。

 3月の開幕シリーズで来日したブレーク・トライネン(ドジャース)。ピッチングニンジャと一緒に彼を取材していて、「スライダーのグリップを見せてくれる?」と聞くと、その握りを見せながら曲がり幅をどう調節するのか教えてくれたが、そのときにこう教えてくれた。

「親指の位置を変えることでどう変化するのか、違いを教えてくれたのはバウアーだ」

 2人は2021年、ドジャースでチームメートだった。トライネンはバウアーからスライダーの握り、原理を教わり、それがその後、安定した決め球になった。

「彼が、自分のキャリアを救ってくれた」

 彼はその年、72試合に登板し、防御率1.99。多くのカテゴリーでキャリアベストをマークした。

ピッチデザインの原点

 握り、手首の角度、アームアングル。それぞれの組み合わせでボールがどう動くのか。データとハイスピードカメラを使って突き詰め、“ピッチデザイン”という、新分野を形成したのがバウアー。前回、彼が11年のオフに5年後、10年後の自分の姿を意識して、すべきことを整理したというエピソードを紹介したが、そのレポートの中に、「ピッチデザイン」という項目があり、理想の軌道の球を投げるためのアイデアがすでに記されていた。

 メジャーリーグで、STATCAST(メジャーリーグ独自のデータ解析ツール)のデータが公開されるようになったのは15年からだが、彼はそれ以前の段階で、トラックマン(軍事用のレーダー技術を応用した弾道測定器)を自費購入し、どうデータを活用すべきか、取り組みを模索していたのだ。

 原点は高校時代まで遡る。物理の先生が非常にユニークで、高校生だったバウアーは物理現象の原理を聞きまくったという。「自分には友達もいなかった(笑)。だから、休み時間もずっと勉強していた。特に物理は先生が面白かったからのめり込んだ」。意図したボールを投げられるかどうかは別として、どんな力が作用して、ボールは変化するのか。高校時代に基礎知識を身につけた。

 その変化には、ボールの縫い目が大きく影響していることも、ここ4〜5年で証明されるまでになった。日本でも東京工業大学の青木尊之教授が、スパコンを使って空力解析を行い、大谷翔平(ドジャース)のスイーパーが、浮き上がっていると打者が錯覚するメカニズムを解明したが、日本のボールとメジャーリーグのボールの違いからも、それを知ることができる。

 バウアーが映像の中でも解説しているが、2年前に来日した当初、バウアーは、「2シームが曲がらない」と首を捻った。日米のボールを比べてみると、一番狭いところの縫い目の幅が0.5ミリも日本の方が広かった。それが、同じ握り方、同じ投げ方で投げても、変化量が異なる原因――つまり、縫い目が軌道に影響を与えている証拠に他ならなかった。

 よって彼は2シームを封印。いまはスプリットで試行錯誤する。もう少し奥行きを出したいが、「まだ、答えが出ていない」そうだ。「まだどうなるとどんな動きになるのか、把握しきれていない」。

 現時点でも使える球だが、理想の軌道で落とすことができない。それは山本由伸(ドジャース)がメジャーに移籍した昨年、スプリットの制球に苦労したのと、逆の現象とも言える。ボールの違いは、滑りやすいとか、そういうことだけではない。佐々木朗希(ドジャース)のフォークの回転が、サイドスピンからトップスピンになったのも、ボールの影響が考えられる。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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