王者りくりゅう、多幸感を取り戻した後半戦 「挑戦できる楽しさ」を胸に五輪シーズンへ

沢田聡子

完璧なショートプログラムを披露したりくりゅう 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

「楽しく」挑んだ今季最終戦

“りくりゅう”が取り戻した、「楽しむ」姿勢。その大切さを確認するような、今季最終戦だった。

 世界選手権(3月)で2年ぶりの優勝を果たした三浦璃来/木原龍一は、日本チームをけん引する存在として、世界国別対抗戦(4月17~20日、東京体育館)に臨んだ。開幕前日の公式練習後、今大会に臨む心構えを問われた三浦は「まずは、怪我をしないこと」と笑顔で答えた。

「今シーズン最後なので、やっぱり『楽しく』をモットーにして。楽しく、怪我なく、笑顔で終われるように頑張りたいです」

 2人にとって、昨季は木原の腰椎分離症により出遅れたシーズンだった。前半のグランプリ(GP)シリーズ、2023年12月の全日本選手権は欠場。初戦は2024年2月の四大陸選手権までずれ込んだ。それでも四大陸選手権で銀メダル、世界選手権(24年3月)でも銀メダルを獲得。地力の高さを示した一方で、やはり不完全燃焼のシーズンだったことは否めない。

 この苦い経験から怪我をしないことを目標にして臨んだ今季は、GPシリーズからすべての試合に出場した。GP第1戦・スケートアメリカ(昨年10月)では優勝したが、第2戦・NHK杯(昨年11月)、GPファイナル(昨年12月)では準優勝。また全日本選手権(昨年12月)では貫録の演技で優勝したものの、2人にとっては思い通りの演技ではなかった。“りくりゅう”の魅力は演技にあふれる多幸感だが、高みを目指す思いが強まることで、皮肉にも持ち味である笑顔が消えていった。

 ブルーノ・マルコットコーチは2人がネガティブな方向に傾いているのを見抜き、「考え過ぎるな」という言葉をかけ続けていたが、本人たちが気づくまでには時間がかかった。報道によれば変化のきっかけとなったのは、全日本選手権のキスアンドクライで見せた表情について、木原の母が指摘した言葉だったという。「お葬式みたいね」と評され、楽しむ姿勢を忘れていたことに気づいた2人は、“滑る喜び”を取り戻した。その結果が、世界選手権の金メダルだった。

ショート・フリーで自己ベストを更新

 2026年ミラノ・コルティナ五輪の出場枠が懸かった世界選手権を終えて臨んだ今大会、“りくりゅう”は日本のファンの前で圧巻の演技を披露する。『黒くぬれ!』に乗って滑るショートプログラムはすべての要素に加点がつく完璧に近い出来栄えで、自己ベスト、また今季世界最高となる80.99をマーク。1位となり、日本チームに貢献した。

 演技を終えると同時にガッツポーズを繰り出した2人は、ミックスゾーンでも満足感をにじませた。木原は、世界選手権後はアイスショー出演もあり練習時間は多くなかったが、世界選手権前の「貯金」が効いたと説明している。ピークを合わせて迎えた世界選手権後に迎えた今大会でも、怪我がなかったためシーズンを通して豊富に積んできた練習が生きたのだ。

「団体では男女シングルに引っ張られるペア種目だったが、逆に日本チームをけん引する立場になった変化はどのように考えるか」と問われると、木原は「10年前には、そういったことは想像できなかった」とし、言葉を継いだ。

「そういったお言葉をいただけるようになったことがすごく嬉しいですし、ペアだけではなくて、皆で引っ張っていけたらいいなと思っています」

 また三浦は、今大会でも演技を楽しんでいると語った。

「前回大会の世界選手権では緊張感がすごくあったのですが、今回はチームジャパンのメンバーの顔が本当に近くにあったので、安心して最初から最後まで楽しく滑ることができたと思っています」

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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