J1王者・神戸が3連覇へ急浮上中 主力不在で勝ち切った町田戦から見えた「強さ」

大島和人

神戸は3連勝で暫定8位まで浮上している 【(C)J.LEAGUE】

 ヴィッセル神戸が3連覇に向けて、かなり高い「ハードル」をクリアしたホームゲームだった。神戸は2023年、24年とJ1を連覇しているトップクラブだ。しかし今季は開幕から勝ち切れない試合が続き、第9節(4月6日/神戸0●1新潟)を終えた時点での戦績は2勝3分け3敗の16位と振るわなかった。

 そこから東京ヴェルディ(4月12日/神戸1○0東京V)、川崎フロンターレ(4月16日/神戸2○1川崎)に連勝していたが、20日のFC町田ゼルビア戦は「条件」に恵まれなかった。

 中6日の町田に対して、神戸は中3日。チーム最多の3得点を挙げているFWエリキは町田からの期限付き移籍で、この試合は契約により出場できない。更に守備の柱マテウス・トゥーレルも不在だった。実際に難しい試合にはなったのだが、神戸は1-0で町田に勝ち切った。

オ・セフン封じの立役者は?

 神戸が内容で圧倒した試合かと言われれば違う。決定的な場面は両チームに等しくあり、後半アディショナルタイムには1点モノの大ピンチもあった。ただ「どちらに転ぶか分からない試合」を勝ち切れるところこそ、過去2シーズンの彼らが持っていた強みだ。

 吉田孝行監督は試合後にこう述べている。

「非常にタフでお互いに球際、セカンドボールが強く、締まったゲームでした。相手にオ・セフン選手や相馬(勇紀)選手の個がある中で、全員で守備をしてゼロに抑えたのはチームにとって大きいです。何より3連勝できて本当に良かった」

 町田の強みは吉田監督も名前を挙げたオ・セフン、相馬勇紀の二人だ。オ・セフンは194センチと大柄で、攻撃時はロングボールのターゲットになる。トゥーレルの代役として左サイドバック(SB)からセンターバック(CB)に移った本多勇喜は173センチの34歳。この数字を見ればひどい「ミスマッチ」なのだが、本多は空中戦で互角以上に渡り合っていた。

 GK前川黛也は無失点の理由をこう説明する。

「本ちゃん(本多勇喜)とテツ(山川哲史)がオ・セフン選手を完璧に抑えて、そこで起点を作らせなかったのは本当に良かった」

 左SBに入っていた鍬先祐弥もこう口にする。

「本ちゃんがいなかったら、ダメだったと思うくらいに助けられました。一回オ・セフン選手の二つ上くらいからヘディングを叩いていて『この人、化け物だ』と見ていました」

「MVP級」の活躍を見せた本多

「21センチ差」のマッチアップだった 【写真は共同】

 本多が身長の割にヘディングが強い選手であることは、熱心なファンならば知っていただろう。とはいえオ・セフンはJ1でも屈指の「エアバトラー」で、彼はそんな相手に難なく渡り合っていた。オ・セフンがいい形で競れない、落とせないことが影響し、町田は「押し込む」展開に持ち込めなかった。

 吉田監督はその活躍をこう称える。

「めちゃくちゃ安定感もあるし、抜群のプレーでした。全員が今日のMVPだと思いますが、敢えてひとり挙げるなら本多です」

 試合後の本多は高ぶった様子もなく、試合について淡々と語っていた。

「相手にやらせたらそこから流れを持っていかれると思ったので、本当にできるだけ『やらせない』ようにやりました。タカ(扇原貴宏)といい関係性を作れて、タカにもしっかりブロックしてもらえたので、それで僕が先手を取れました」

 本多は地上戦でもビッグプレーを見せている。前半アディショナルタイム(45+1分)に藤尾翔太が打ち込もうとしたボレーを、身を挺してブロックした。

 彼は「たまたま(ボールが)目の前にありました」とクールに振り返る。

 しかし頭上を超えたクロスに対して瞬時に動き直し、シュートコースを消した判断は大正解だった。それが仮に「たまたま」だとしても、試合の結果をかなり左右した場面だったことは間違いない。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、バレーボール、五輪種目と幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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