「やり遂げるためにすべてを尽くしてきた」 トレバー・バウアーが敬意を抱くイチローさんとの共通項は?【独占インタビュー】
彼は朝、起きるとまず血液検査をする。検査機器にかけ各数値をチェック。その後の朝食は卵、野菜など、その日の朝食に必要なカロリー、栄養が計算された食材をすべてジューサーにかけ、一気に飲み干す。トレーニング中の間食はブロッコリー、セロリなど野菜中心。それをタッパに入れて持ち運ぶ。
すべて栄養士と相談し、確か1週間ごとに1食ずつ小分けされた食材を配達してもらっているとのことだった。「チートデイ」は週に1日ほど。その日は好きなものを食べる。
朝食後は、肩甲骨、股関節の可動域を広げたり、柔軟性を高めるメニューをじっくり行い、その後、ミーティングなどを済ませると、シアトル郊外にあるドライブライン・ベースボール(以下ドライブライン)へ。途中、近くのポケボウル(ハワイのローカルフード。マグロの刺身などをご飯の上に野菜などと一緒に乗せて食べる)でランチを食べるのが日課で、ドライブラインに到着するとまず、外旋、内旋、握力といった数値をチェック。フォースプレートなども利用する。前日と数値が違えば、原因を辿る。
彼の場合、4〜5日単位でメニューが決まっていて、ブルペン、リカバリー、課題の確認、課題到達度、ライブBPといったメニューには、すべてその日のテーマが存在する。夕方からは近くの契約しているトレーニング施設へ移動し、ストレングストレーニング。
睡眠時間、血液検査のデータ、食事(メニュー、カロリー数)、トレーニングメニューなどはすべてエクセルファイルで一括管理されていた。そうすると、思うようなパフォーマンスが出せなかった場合、たどれるようになっている。リカバリーが遅れているのに、ストレングストレーニングで負荷をかけすぎたのか。睡眠時間はどうだったか?
また、自分で動画を編集し、オーバーレイを作ったりしながら、メカニックのチェック。シーズン中も同様。好結果が出たときのパターンをできるだけ繰り返す。もちろん、シーズンが始まると移動、時差、試合開始時間の違いなどで、ルーティン通りの生活ができないが、それも加味して生活パターンを作る。
密着取材のとき、合間、合間で話を聞いたが、そういう生活のきっかけになったエピソードを明かしてくれた。
「2011年のオフ、アメリカにあるいろんなトレーニング施設を訪ねて、そこで教えているトレーナーに彼らの理論を聞いた。バイオメカニクスを教えている大学教授のところにも行って体の使い方を学んだ。栄養士、データアナリストらとも話をした。その後、自分なりに5年後、10年後に目指す姿をまとめ、そのために必要なことを整理した」
トレーニング理論の中には自分には合わないものもあったが、最初から排除することはなかった。ドライブライン創設者のカイル・ボディと出会うのはもう少し後のことだが、常にアップデートを心がけたからこその出会いでもあった。
イチローさんとバウアーの共通項
トレーニングなどは言うまでもないが、食事もパフォーマンスのため。データ、バイオメカニクスを勉強するのも結果を導くため。すべてを指導してくれるコーチがいれば理想だが、それでも最終的には自分で考え、様々な知識をどう咀嚼(そしゃく)するかが問われる。
そうした妥協なき日常を送れば、1日24時間では足りないのに、多くはそういう生活を送っていないと彼の目には映る。思いつくのは、「イチロー(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)ぐらいだ」とバウアーは言う。
「だからあんな実績を積み上げられた。彼を見ていると、何かをやり遂げるためにすべてを尽くしてきた」
個人的な接点はないが、ずっと敬意を抱いてきた。
「それが30年なのか40年なのかわからないけど、子供時代までさかのぼれば45年かな。それを引退まで続けたのだからすごいよ。そんな選手なかなかいない」
そうした視点で見ると2人のプロ意識には共通項が多いが、さらに共通することがある。
イチローさんもそうだったが、他の選手で気になることがあっても、聞かれるまではそれを伝えることはない。
「その投手が聞きに来たら、1日中一緒に過ごしてすべての質問に答え、メカニックの分析にも付き合うつもりだ。自分の知っていることすべてを伝える。でもーー」とバウアー。
「自分から問題のある投手のところへいって、ここを直した方がいいとは言わない。なぜなら自分がそうされるのが嫌いだからだ。だから同じことを他の投手にはしたくない」
イチローさんもまったく同じスタンスだった。
一方で、メジャーリーガーにもプライドがあるので、それができない。しかしバウアーは変化も感じていた。
「徐々に自分より年下の選手が増えて、シェーン・ビーバー、マイク・クレビンジャー、ザック・プリサック、アーロン・シバーリら(ガーディアンズ在籍時のチームメイト)からはいろんなことを聞かれたよ。だから彼らとはいい関係を築けたと思う」
選手らの意識が、変わりつつあることを肌で感じ取った。