1000億円を蹴り飛ばしたモハメド・サラーの爽快な決断 サウジ行きを断り、リバプールに残留した理由とは?
サラーの契約延長は“青天の霹靂”
このコメントは、4月13日のウェストハム戦で後半44分に劇的な決勝弾を決めたリバプール主将フィルジル・ファン・ダイクが、試合直後の囲み取材で「モー(モハメド・サラー)が契約延長したこともチームのムードを盛り上げたのではないか?」と聞かれて返したものだ。
実はこの人も今季で契約が切れる。しかし契約延長が確定していないこともあり、最初に「イェ~!」と言った後、自分の境遇に苦笑いしてしばし間があって、記者団と一緒になって大笑いした一幕があったのだが、エース・サラーの2年間の契約延長が4月11日に公表されたことに対して素直に喜びを表していた。
誰もがサラーはサウジアラビアに行くものだと思っていた。昨年9月、スカイスポーツのインタビューに応じて「これがリバプールの最後のシーズン」とぽろっと言った。さらに32歳とは思えない動きでゴールを決めまくってシーズン序盤戦を終えた11月にも、「どちらかといえば出ることになるのではないか。契約交渉は進んでいない」と話して、さらにファンをヤキモキとさせた。
確かに先月あたりからリバプールに残留するかもしれないという報道が目立っていたが、それでも正式に発表されるまでは予断を許さなかった。だから契約が延長されたと公表されたときは、良い意味で“青天の霹靂”といったインパクトがあった。
天文学的なオファーを断ったのは「家族の幸福」も大きな理由
そもそもサウジ行きが確実視されたのは、天文学的な年俸オファーが報じられていたからだ。
BBCはサラーの契約延長が発表された日、「なぜサラーは5億ポンドを断り、リバプールに残留したのか」という記事を電子版に掲載した。この記事からは、サウジはサラーに日本円にして約957億5000万円という年俸オファーを用意していたことが分かる。
対してリバプールでの年俸は2080万ポンド。日本円で約39億8320万円と、サウジの提示額の24分の1でしかない。つまりサウジはリバプールの24年分の年俸を提示したのである。しかも彼の地は無税だ。とすると、実質約50年分以上の収入になる。
もちろんサラーはすでに裕福なフットボーラーで、一生食うに困らない資産を持っている。とはいっても、金銭も重要な評価基準の1つであるプロスポーツ選手として、これだけの年俸格差を承知のうえで契約を延長するのは――特に代理人は――難しかったに違いない。
このBBCの記事を読むと、アルネ・スロット体制となった今季のリバプールが将来につながる強さを見せたことで、さらなるプレミアリーグの制覇、欧州チャンピオンズリーグ優勝、そしてバロンドール受賞など、サラーにはヨーロッパでまだまだやり残したことがあるとして、まずはサウジアラビアに行ったら縁がなくなるスポーツ的な栄誉を今回の残留の要因としている。
もちろんそれも大きい。しかし筆者が注目したのは、この記事の最後のほうに短く記述されていた部分だった。そこには、「事実として彼の妻のマギー、そして2人の娘のマッカとカヤンがリバプールでの生活をエンジョイしていることもある」と記されていた。
家族の幸福というのは、本当に金に代えられない条件だろう。