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1000億円を蹴り飛ばしたモハメド・サラーの爽快な決断 サウジ行きを断り、リバプールに残留した理由とは?

森昌利

サラーの契約延長はリバプール・ファンにとって大きな朗報だ。今季は決定的な仕事を連発し、得点、アシストともリーグでダントツ1位の数字を残している 【Photo by Liverpool FC/Liverpool FC via Getty Images】

 4月11日(現地時間、以下同)、ビッグニュースが飛び込んできた。リバプールとの契約が満了する今季終了後、サウジアラビアに旅立つものと見られていたモハメド・サラーが契約を2年延長したのだ。今季絶好調のエースが超高額のオファーを断り、2017年から在籍するクラブに留まる決断をしたのは、スポーツ的野心だけが理由ではないだろう。

サラーの契約延長は“青天の霹靂”

「Yeah! 本当にクラブが持ち上がるような感じだったよ。そしてみんながまたしっかりとつながった。言葉にするのは難しいけど、彼がこれまでこのクラブのためにコンスタントに活躍を続けて、その数字、ワークレートは信じがたい高いレベルを示している。これからも活躍を続けるに違いないさ」

 このコメントは、4月13日のウェストハム戦で後半44分に劇的な決勝弾を決めたリバプール主将フィルジル・ファン・ダイクが、試合直後の囲み取材で「モー(モハメド・サラー)が契約延長したこともチームのムードを盛り上げたのではないか?」と聞かれて返したものだ。

 実はこの人も今季で契約が切れる。しかし契約延長が確定していないこともあり、最初に「イェ~!」と言った後、自分の境遇に苦笑いしてしばし間があって、記者団と一緒になって大笑いした一幕があったのだが、エース・サラーの2年間の契約延長が4月11日に公表されたことに対して素直に喜びを表していた。

 誰もがサラーはサウジアラビアに行くものだと思っていた。昨年9月、スカイスポーツのインタビューに応じて「これがリバプールの最後のシーズン」とぽろっと言った。さらに32歳とは思えない動きでゴールを決めまくってシーズン序盤戦を終えた11月にも、「どちらかといえば出ることになるのではないか。契約交渉は進んでいない」と話して、さらにファンをヤキモキとさせた。

 確かに先月あたりからリバプールに残留するかもしれないという報道が目立っていたが、それでも正式に発表されるまでは予断を許さなかった。だから契約が延長されたと公表されたときは、良い意味で“青天の霹靂”といったインパクトがあった。

天文学的なオファーを断ったのは「家族の幸福」も大きな理由

4月11日、今季限りで満了するサラーとの契約を2年延長したとクラブが発表。大きな決断をしたエースは相変わらず好調だ 【Photo by Andrew Powell/Liverpool FC via Getty Images】

 今季のサラーは、ここまでリーグ戦だけで27得点・18アシストと45ものゴールを生み出している。プレミアリーグでこれだけの数字を確実に叩き出せる選手がいたら、それこそ2億ポンド、日本円にして約383億円の値札がついても不思議ではない。しかも32歳になっても衰え知らず。基本的に30歳以上の選手とは積極的に契約を更新しないリバプールが、サラーを例外中の例外としたのもうなずける。

 そもそもサウジ行きが確実視されたのは、天文学的な年俸オファーが報じられていたからだ。

 BBCはサラーの契約延長が発表された日、「なぜサラーは5億ポンドを断り、リバプールに残留したのか」という記事を電子版に掲載した。この記事からは、サウジはサラーに日本円にして約957億5000万円という年俸オファーを用意していたことが分かる。

 対してリバプールでの年俸は2080万ポンド。日本円で約39億8320万円と、サウジの提示額の24分の1でしかない。つまりサウジはリバプールの24年分の年俸を提示したのである。しかも彼の地は無税だ。とすると、実質約50年分以上の収入になる。

 もちろんサラーはすでに裕福なフットボーラーで、一生食うに困らない資産を持っている。とはいっても、金銭も重要な評価基準の1つであるプロスポーツ選手として、これだけの年俸格差を承知のうえで契約を延長するのは――特に代理人は――難しかったに違いない。

 このBBCの記事を読むと、アルネ・スロット体制となった今季のリバプールが将来につながる強さを見せたことで、さらなるプレミアリーグの制覇、欧州チャンピオンズリーグ優勝、そしてバロンドール受賞など、サラーにはヨーロッパでまだまだやり残したことがあるとして、まずはサウジアラビアに行ったら縁がなくなるスポーツ的な栄誉を今回の残留の要因としている。

 もちろんそれも大きい。しかし筆者が注目したのは、この記事の最後のほうに短く記述されていた部分だった。そこには、「事実として彼の妻のマギー、そして2人の娘のマッカとカヤンがリバプールでの生活をエンジョイしていることもある」と記されていた。

 家族の幸福というのは、本当に金に代えられない条件だろう。

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著者プロフィール

1962年3月24日福岡県生まれ。1993年に英国人女性と結婚して英国に移住し、1998年からサッカーの取材を開始。2001年、日本代表FW西澤明訓がボルトンに移籍したことを契機にプレミアリーグの取材を始め、2024-25で24シーズン目。サッカーの母国イングランドの「フットボール」の興奮と情熱を在住歴トータル29年の現地感覚で伝える。大のビートルズ・ファンで、1960・70年代の英国ロックにも詳しい。

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