現地記者の日本人選手ラ・リーガ奮戦記(月2回更新)

モドリッチを激昂させた一言と急浮上したトレード話の現実味 多くの話題を提供する久保にまつわる噂の真相

山本美智子

激闘となったR・マドリーとのスペイン国王杯準決勝第2レグで“事件”は起きた。モドリッチを激昂させたのは、スペイン育ちの久保だからこその一言だった 【Photo by Angel Martinez/Getty Images】

 スペイン在住がすでに25年以上に及ぶ日本人ライターによる、月2回の連載コラム。レアル・ソシエダで3年目のシーズンを迎えた久保建英と、今シーズンからマジョルカでプレーする浅野拓磨の動向を中心に、文化的・歴史的な背景も踏まえながら“ラ・リーガの今”をお届けする。第12回目のテーマは、久保にまつわる噂の真相。モドリッチとのいざこざはなぜ起こったのか、そして突如浮上したE・ガルシアとのトレード話の現実味は?

スペイン国王杯準決勝で起こった“事件”

 4月に入ってから、レアル・ソシエダの久保建英がピッチ内外で話題を提供し続けている。

 まずは、スペイン国王杯で起こった“事件”だ。4月1日(現地時間、以下同)に敵地サンティアゴ・ベルナベウで行われたレアル・マドリーとの準決勝第2レグ。延長後半の立ち上がりに、R・マドリーの39歳の大ベテラン、ルカ・モドリッチが、延長の前半でベンチに退いていた久保の首根っこを押さえつけた衝撃的なシーンの映像は、一気に拡散され、世界中を驚かせた。

 第1レグを0-1で落としていたソシエダは、この試合で素晴らしいパフォーマンスを披露。トータルスコア4-4に持ち込んで延長戦に突入したが、迎えた115分に痛恨の失点を喫し、惜しくもファイナル進出を逃している。

 R・マドリーにしてみれば、よもやここまでソシエダに粘られるとは思っていなかったのだろう。ホームで4ゴールを叩き込まれる屈辱に、多くの選手が苛立っていた。そうしたなか、延長後半が始まってすぐにサイドからの突破を図ったヴィニシウス・ジュニオールが、ソシエダのMFホン・アンデル・オラサガスティに手酷いタックルを浴び、もんどりうってピッチに倒れる。

 いかにも露骨なファウルだった。しかし、レフェリーが提示したのはレッドカードではなくイエローカード。これにキャプテンとして激しく抗議したのがモドリッチだったのだが、そんな彼に向けて久保が放った一言がその怒りを増幅させ、首根っこをつかむという暴挙を招いたのだ。

 一番の疑問は、ここでモドリッチにイエローカードすら出されなかったことだ。それに対する非難の声も一部で巻き起こったが、一方で「普段は冷静なモドリッチをあんな行為に駆り立たせるなんて、よっぽどのことを言ったに違いない」という憶測も、ネットを中心に広がった。

39歳のモドリッチに「みっともないな」と

前半終了間際にカマビンガが久保に見舞ったタックルもイエローカード止まり。それを根拠に、39歳のモドリッチに対して堂々と文句を言った姿は実に頼もしかった 【Photo by Diego Souto/Getty Images】

 いったい、久保は何を言ったのか。その答えを『@factossport 』がTikTokのアカウントで示している。『@factossport』は、主にラ・リーガを中心に話題になったシーンを切り取って、スペイン語で解説するアカウントだ。それによれば、久保はこんな言葉をクロアチア人バロンドーラ―に対して放ったという。

「みっともない真似すんなよ。同じように(エドゥアルド・)カマビンガにだってレッドが出なかっただろう。これもそう(レッド)じゃないよ」

 前半終了間際の90+2分に、自らが受けた暴力的なタックルを挙げて、そう主張したのだ。ここで久保が使った「みっともない(patetico)」という言葉は、スペインでは非常にポピュラーな口語で、「恥ずかしいな」「ダサいな」「いい加減にしろ」といった意味合いを持つ。ちなみにこの映像は、すでに12万回以上再生されている。

 ピッチ上で年齢は関係ないし、現代のスペイン語ではビジネスシーンを除いてほとんど丁寧語は使われない。とはいえ、23歳の久保が39歳のモドリッチに向かってこれだけのことを言ってのけたのは(それもわざわざベンチから飛び出して)、やはり10歳という若さでバルセロナに渡り、幼い頃から現地の教育を受けてきたことと無関係ではないはずだ。

 よくスラングだけ早々に覚えて、これ見よがしに使ったりする外国人選手もいるが、逆にそれが痛々しく映ることもある。久保のように堂々とこなれたスペイン語で文句を言える外国人は限られ、同じ日本人として実に頼もしく感じる。

 それにしても、あらためて今回のモドリッチの首絞め行為に関して、スペインのメディアがほとんど触れなかったのは疑問だ。前述のTikTokは、「マドリー寄りのメディアが意図的に蓋をした」と結論付けているが、これだけ知名度のある選手の暴挙が大きく取り上げられないのだから、本当にR・マドリー側から圧力がかかったのかもしれない。

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著者プロフィール

スペイン在住は四半世紀超え。1998年から通信員として情報発信を始め、スペインサッカーに関する取材、執筆、翻訳の仕事に従事してきた。2002年と06年のW杯、04年と08年のEUROなど国際大会も現地で取材。12年からFCバルセロナの公式サイト、ソーシャルメディアを担当する

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