100年前のクラブでプレーする“ヒッコリーゴルフ” ゴルフ本来の自由と開放感、魅力に迫る

北村収

ヒッコリークラブでプレーするニッカボッカスタイルのゴルファー 【写真:ロイター/アフロ】

 近年のゴルフはクラブやボールの性能が大きく進化し、飛距離も格段に伸びた。プレーヤーたちは、より遠くへ、より真っすぐ飛ばすことを追求する傾向が強まっている。そんな中、「昔ながらのゴルフの楽しさを味わいたい」と願うゴルファーたちの間で、100年前のクラブを使った“ヒッコリーゴルフ”が静かな人気を集めている。

ヒッコリーゴルフが教えてくれる、ゴルフの奥深さと味わい

 ヒッコリーゴルフとは、100年くらい前までのゴルフプレーで使用されていたヒッコリー(クルミ材)のシャフトを用いた木製クラブを使い、ニッカボッカなどのクラシカルな装いでプレーを楽しむスタイルのこと。使用するクラブは、当時のものを修復したオリジナルや、当時の製法を忠実に再現した復刻版のレプリカモデルだ。

ヒッコリークラブ 【写真:ロイター/アフロ】

 筆者も何度かプレーしたことがあるが、復刻版であっても長年使用されているクラブだとシャフトが微妙に曲がっていたり、ネックが緩んでいたりと、現代のクラブに比べれば扱いにくさは否めない。新品のレプリカでも精度や飛距離の点で最新クラブに劣る。

 しかし、ヒッコリーシャフト特有の“打感”には、なんとも言えない魅力がある。かつてスチールシャフトのパーシモンヘッドでプレーした経験がある人なら、芯を外したときの手に伝わる“ビリッ”とした感覚を覚えている人も多いだろう。高性能クラブでは失われつつある、そんな繊細なフィードバックがここにはある。そして、芯をとらえたときの気持ちよさは格別だ。「そうそう、これがゴルフの爽快感だった」と、忘れていた感覚がよみがえる。

プロゴルファーも魅了される、ヒッコリーの世界

 昨年12月、公益社団法人日本プロゴルフ協会(PGA)の後援競技として、「PGAヒッコリーゴルフトーナメント TAIHEIYO CLUB CUP」が開催された。賞金総額は860万円。2年連続の開催となったこの大会には、男子シニアプロとアマチュアのヒッコリー愛好家たちが出場し、プロアマ形式で行われた。

 大会を制したのは69歳の倉本昌弘プロ。2日目に「68」のエージシュートを達成し、見事な逆転優勝を果たした。倉本プロは「ヒッコリーの魅力は一言では語り尽くせないほど深い。出場されたアマチュアの皆さんも本当に楽しんでおられました。我々プロにとっても、1年のご褒美のような大会です」と語った。

2024年12月の「PGAヒッコリーゴルフトーナメント TAIHEIYO CLUB CUP」で優勝した倉本昌弘プロ 【写真提供:太平洋クラブ(Photo by TM Photolinks)】

スポーツから感性が消えていく? 過剰なデータ重視の弊害

 現代のスポーツは道具の進化や、テクノロジーの進化で取得できるようになった細かいデータの活用により、パワーやデータとして現れる数字ばかりが重要視されるようになってきた。過度なデータ偏重は、スポーツの楽しみである個性や感性を奪っているのではないかという懸念の声も少なくない。

 この状況に警鐘を鳴らすのが、元メジャーリーガーのイチロー氏だ。昨年の12月に放送された『情熱大陸 イチロー 2夜連続スペシャル』(MBS/TBS系)でのイチロー氏の発言が大きな反響を呼んだ。現代のメジャーリーグについて「退屈な野球」と語り、過度なデータ重視によって選手の個性や感性が失われていることに危機感を示した。「目で見えるデータばかりが重視され、感性が育たなくなっている。昔は個性が際立っていたのに、今は皆が同じようなプレーをしている」と指摘し、データだけに縛られず、自らの感覚を頼りにプレーすることの重要性を強調している。イチロー氏が語る懸念は、アマチュアスポーツにも通じるものがある。

今年1月、日本人初の米国野球殿堂入りが発表されたイチロー氏 【Photo by Steph Chambers/Getty Images】

 もちろんゴルフにおいて、クラブやボールの進化は間違いなく歓迎すべきことだ。かつては難解だったゴルフという競技を、より身近で親しみやすいものにしてくれたおかげで、多くのアマチュアゴルファーが飛距離の伸びを実感し、スコアアップの喜びやバーディを奪ったときの高揚感を味わいやすくなっている。

 その一方で、クラブを自在に扱う感覚や、自らの技術で戦略的にコースを攻略する醍醐味が、以前よりも希薄になってきているのではないだろうか。ヒッコリーゴルフは、あえて曲がりやすい100年以上も前のクラブや当時のレプリカクラブを使用し、ボールのコントロールに繊細なテクニックが求められる。飛距離を追求するのではなく、感覚を研ぎ澄ませ、スイングの精度を高めることで、プレーヤー本来の腕前が試される。数値やデータに左右されず、シンプルに「ゴルフそのもの」を楽しむ。この自由なスタイルこそが、ヒッコリーゴルフの最大の魅力だ。

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著者プロフィール

1968年東京都生まれ。法律関係の出版社を経て、1996年にゴルフ雑誌アルバ(ALBA)編集部に配属。2000年アルバ編集チーフに就任。2003年ゴルフダイジェスト・オンラインに入社し、同年メディア部門のゼネラルマネージャーに。在職中に日本ゴルフトーナメント振興協会のメディア委員を務める。2011年4月に独立し、同年6月に(株)ナインバリューズを起業。紙、Web、ソーシャルメディアなどのさまざまな媒体で、ゴルフ編集者兼ゴルフwebディレクターとしての仕事に従事している。

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