【月1連載】ブンデス日本人選手の密着記

失意の開幕戦から半年でドイツ屈指のボランチに 佐野海舟の躍進の陰にある相棒の存在とトレーニングの成果

林遼平

ブンデスリーガでデュエルの強みをいかんなく発揮する佐野。ドイツメディアからも評価され、日本代表選出への期待も高まる 【Photo by Harry Langer/DeFodi Images via Getty Images】

 堂安律、板倉滉、伊藤洋輝ら日本代表の主力クラスを筆頭に、2024-25シーズンも多くの日本人プレーヤーが在籍するドイツ・ブンデスリーガ。彼らの奮闘ぶりを、現地在住のライター・林遼平氏が伝える月1回の連載が、この「ブンデス日本人選手の密着記」だ。第8回の主人公は、昨夏にドイツにやって来た佐野海舟。チームへのフィットに苦しんでいたのは過去の話。今やドイツメディアからブンデスリーガ屈指のボランチのひとりとして評価されるまでになった男の急成長の要因に迫る。

中盤のマシーンと称されるまでに

 年明け前くらいからだろうか。ドイツ現地メディアがひとりの日本人選手にフォーカスする頻度が増え始めた。中盤での豊富な運動量、絶え間なく動き続けるインテンシティーの高さ、そしてボール回収力。それらを総じて「中盤のマシーン」と表現するなど、マインツの6番に対する評価が日に日に向上している。

 開幕戦となった2024年8月24日(現地時間、以下同)のウニオン・ベルリン戦後、佐野海舟の表情は曇っていた。新天地となったマインツでのリーグデビュー戦がほろ苦い形に終わり、「今まで感じたことのないプレッシャーや相手の強度をすごく感じた。これにいち早く慣れないといけない」と唇をかむ姿が印象的だった。

 実際に試合内容を振り返っても、対戦相手の強度に苦しみ、自身の武器であるボール奪取力をなかなか発揮することができない。失点シーンでも巧みにかわされ、シュートブロックすらさせてもらえなかった。合流が遅れたこともあり、チームにフィットするまでには時間がかかるかもしれないと思ったことをよく覚えている。

 ただ、いい意味で佐野は予想を裏切るパフォーマンスを見せていく。第3節のブレーメン戦こそ途中交代となったが、それ以降は全ての試合にフル出場。指揮を執るボー・ヘンリクセン監督が根気強く起用し続けたことで、みるみるチームに溶け込んでいった。

パーフェクトなボランチコンビの誕生

守備に強みを持つ佐野と、攻撃面に秀でるドイツ代表MFアミリ(右)。互いに補完し合うこのふたりがマインツの中盤を支える 【Photo by Alex Grimm/Getty Images】

 早期フィットにつながったのは、マインツのスタイルにも要因がある。マインツは3バックで相手の攻撃に対抗しながら、前線からのプレッシングと中盤でのボール回収によって素早く前に出ていくスタイルを標ぼうしている。そのため中盤における佐野のボールを奪い切る力がチーム戦術にマッチ。コンビを組むナディエム・アミリが組み立てと攻撃に特化した選手であることも重なり、攻守にパーフェクトなダブルボランチが誕生した。

 このアミリの存在が佐野の成長を促進させた。シーズン序盤、ヘンリクセン監督が佐野とアミリを呼んでミーティングを行った。そこで指揮官は、「君たち2人が協力しあうことは我々にとってものすごく大事なことだ。もう少し話し合って、コミュニケーションをとってほしい」と伝えたという。これによって両者のコミュニケーションが増え、中盤のバランスが徐々に良化。攻撃面で秀でた力を持つアミリと組むことで佐野自身の基準も上がっていった。

 先日、アミリがドイツ代表に入ったことが刺激になるかと聞くと、佐野は「なります。なります」と食い気味に答え、パートナーに対する思いを明かしている。

「本当に素晴らしい選手ですし、彼のように難しいところで勝負強さを出せる選手が上に行けるんだと思う。いい見本が隣にいるのでしっかり見習いたい。もちろん、見習いながらもナディエムがいいプレーをできるようにということを考えて、自分がバランスがとっていけたらいいなと。信頼関係はめちゃくちゃ強いですし、常にお互いに見合って、お互いのために走るということがやれていると思います」

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著者プロフィール

1987年生まれ、埼玉県出身。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることに。帰国後、サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして各社スポーツ媒体などに寄稿している。2023年5月からドイツ生活を開始

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