書籍『ジャイアンツ元スカウト部長の回顧録』

シーズン途中で突然の解任 元巨人敏腕スカウトが語った球団との“ズレ”

長谷川国利

“スカウト”最後の仕事は山﨑伊織の獲得

 2020年のドラフトでも1人だけ指名に関わった選手がいます。それが2位で指名した東海大の山崎伊織でした。山﨑は3年生の時から抜群で、そのままの調子でいけば1位でなければ獲れないようなピッチャーでした。大学に入った時はまだ線が細かったのですが、体ができてくるとスピードもついて、スライダーがきれいに横に滑るボールを投げる、素晴らしいピッチャーに成長していました。ただ3年生の秋にひじを怪我して4年生では投げられるか分からない状態。どの程度の症状なのかは分からないし、他のスカウトでは東海大と繋がりもないので詳しく調査もできません。そんな状況でしたから、ある時に原監督に呼ばれて「山﨑を何とかしてくれないか?」と頼まれたのです。

 山﨑には明石商から東海大に進学する時から関わっていたので両親にも会いに行きました。手術を行わずに保存療法を望んでいた山﨑にも「最終的にはトミー・ジョン手術をすることが多いから、その方が良いのではないか?」という話をしました。巨人としては手術をして1年目はリハビリで投げられなかったとしても、高い評価で必ず指名するということも伝えて、最終的には両親も山﨑本人も納得して手術を受けてくれました。もちろん原監督の了解あってのことです。

 トミー・ジョン手術を受けるということになり、ほとんどの球団が手を引くなかで広島だけは指名の動きを見せていました。担当の尾形佳紀スカウトが良い時のピッチングを高く評価しており「上位では獲れないけど4位で獲りたい」という話があったそうです。そんな話も聞いていましたから巨人は当初は3位でも獲れるだろうと思っていたところを、念のためにということも考えて2位という順位での指名になりました。

 こうして山﨑を獲ることができたのですが、入団後に球団内で揉めたことがありました。それは2年目の年俸についてです。入団前から1年目はリハビリで投げられないことは分かっていましたから、「普通に査定するのではなく2年目の年俸は据え置きでお願いしたい」ということを球団にも話していて原監督にも了承を得ていました。こちらが勧めて手術を受けているわけですから当然ですよね。ただそのことが上層部に上手く伝わっていなかったようで「長谷川が勝手に約束してきたこと」「誰がそんなことを決めたんだ」みたいな言われ方をされたことがありました。私は「ふざけんじゃねぇよ!」という怒りを押し殺しながら「原監督から頼まれて山﨑の両親にも会って、原監督も了承したうえで決めた話です」ということを伝えて、ようやく理解してもらうことができました。

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