書籍『ジャイアンツ元スカウト部長の回顧録』

シーズン途中で突然の解任 元巨人敏腕スカウトが語った球団との“ズレ”

長谷川国利

【写真は共同】

 横浜の敏腕スカウトはなぜ巨人へ移籍したのか?今明かされる長野久義、菅野智之獲得の舞台裏。30年にわたるスカウト人生の一部を、『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』から抜粋してお届けします。

シーズン途中にスカウト部長解任

 この年の4月、私は突如スカウト部から編成に異動になりました。この異動については色んな噂が立ちました。前年に1位で指名した堀田が入団早々にひじを痛めてトミージョン手術を受けることになり、それに対して原監督が激怒して私を解任したとか。決してそういうわけではありません。これについては明確に否定させてもらいます。原監督とは今でも何かあれば頻繁に連絡を取りますし、ゴルフや食事などにもよくご一緒させて頂いています。そもそも、この噂が真実であれば私が東海大の監督になることもありえませんよね(笑)。堀田についても、ひじを痛めていなかったとしても時間がかかる選手という評価でしたから、原監督も「手術は残念だけどリハビリの間にしっかり鍛えてくれれば良い」という話をしていました。

 では、なぜ私はシーズン途中にスカウト部から異動になったのでしょうか? 正直それは今でも分かりません。一つ言えることは、編成部門トップの方と私の考えが合わなかったことが大きかったのだと思います。

 まず育成選手についてです。私は支配下で獲る選手と育成で獲る選手を分けて考えることに反対でした。巨人が支配下指名の対象だと考えていた選手をどこの球団も指名しなくて「育成ドラフトまで残っているから獲ろう」というのが私の育成ドラフトに対する考えです。もしくは何か飛びぬけた一芸がある選手を少人数獲るのなら理解できます。

 支配下の枠がほとんどないのに、ましてやFAなどで他球団からも選手をいろいろ獲ってくるわけですから、そのような状況で元々ドラフトの対象として厳しい選手を多く抱えるというのは効率が悪いですし、選手にとっても不幸です。よく会議でも選手の評価をする時に「育成なら良いと思います」と話すスカウトもいましたが、最初から育成ドラフトありきで考えるというのはおかしいということは常々言っていました。

 前年(2019年)のドラフト前には編成部門トップの方ともこのことを話し合い、賛同してもらっていました。しかし、数日後にはこんなことを言われました。

「(山口寿一)オーナーが福島の独立リーグに選手を6名派遣したいと言っているから育成選手を最低でも6人指名してくれ」

 これを言われたのがドラフトの六日前でしたからそもそも無理な話ですし、私からすれば、先日確認したばかりの育成選手の獲得方針はなんだったのか? と思うほかありません。

 またこの年の4月に堀田がトミー・ジョン手術を受けたことに関連して「指名する前に全員にMRIを撮るようなことはできないのか?」と同じ方に言われたこともありました。これは現場のスカウトであれば全員不可能だと答えることだと思います。実際に指名する選手は数人かもしれませんが、対象となる選手はその何倍、何十倍もいるわけですから。またその選手や指導者に対しても「指名するか分かりませんけど事前に検査させてください」とはさすがに失礼です。現場を知らない人は簡単に思いつきで言いますが、スカウトは当然アマチュアのチームとの関係性もあります。ですから私は毅然と反対しました。

 こういった話をしていたら、その方にある時呼ばれて「編成に行ってほしい」と言われたのです。球団としては経験があって色々と物申す従順ならざるベテランスカウトよりも、上からの指示に文句も言わずに動くスカウトの方がやりやすかったのかもしれません。

 2020年のドラフトからは私のように言う人間がいなくなったので、育成でも12人(前年は2人)もの選手を指名しています。それでも結局一軍の戦力になっている選手は1人もいません。

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