書籍『ジャイアンツ元スカウト部長の回顧録』

「こいつが一番!」元G敏腕スカウト絶賛の小さな大打者 2015年ドラフト

長谷川国利

【写真は共同】

 横浜の敏腕スカウトはなぜ巨人へ移籍したのか?今明かされる長野久義、菅野智之獲得の舞台裏。30年にわたるスカウト人生の一部を綴った『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』(長谷川国利著)から2015年のドラフトに関するエピソードを抜粋してお届けします。

怪我の状態が気になった今永昇太

「即戦力として期待できそうなピッチャー」という意味では駒澤大の今永昇太(DeNA1位/現・カブス)が早くから評判になっていました。ただ4年生の春に肩を痛めてリーグ戦で1試合も投げられておらず、復帰した秋のリーグ戦を見る限りでも良い時の状態にはまだ戻っていないように見えました。本当に良い時はストレートの回転が良くて、バッターがボールのかなり下を振って空振りするようなことも多かったですから。前年4位で國學院大の田中を故障があっても治るという見込みで指名していましたから、2年続けて、まして1位という順位で怪我をしているピッチャーを指名するのはかなり勇気がいることでした。DeNAは思い切って指名して大成功でしたね。もし肩を怪我していなければ左投手ということもあって、巨人も含めて確実に抽選になっていたでしょう。ちなみに、九州担当スカウトの武田は高校時代から今永を気にかけていて、ある大学に今永を紹介していました。ただその大学の動きが遅かったこともあり今永は結局そこには入学しませんでした。武田が紹介した方の大学に行っていたら、この年のドラフトもまた変わっていたかもしれません。

 この年の大学生のピッチャーでは帝京大の青柳晃洋(現・フィリーズ)が5位で阪神に指名されています。まさか後に最多勝を獲るまでのピッチャーになるとは想像できませんでしたね。帝京大は毎年静岡の韮山で春のキャンプを行っていて、青柳と西村天裕(現・ロッテ)がいたこともあってその練習も見に行きました。青柳は確かにちょっと変則で打ちづらそうだなというピッチャーではありましたが、そこまで何か凄いボールがあるというわけではなく、ボールの力は西村の方があるように見えました。あまりいないタイプでしたので、その特長を生かして成功しましたね。

 社会人では、日本ハムが2位で指名した新日鉄住金かずさマジックの加藤貴之も先発として活躍しています。当時はスピードもそこまでなくてコントロールも今ほど緻密ではありませんでしたから、上位指名の候補としては見ていなかったですね。ただ変化球はスライダーが良くて、打者の近くで曲がる良いボールでした。7位の中川も大学時代はスピードがなかったですから、左ピッチャーで変化球のいいピッチャーは使えることが多いということですね。

 高校生のピッチャーでは私の高校の後輩でもある東海大相模の甲子園優勝ピッチャー、小笠原慎之介(中日1位/現・ナショナルズ)ももちろん早くから目をつけていました。少しぽっちゃりした体型で足も速くないのでそのあたりを懸念する声がスカウト内ではありました。ですが、私は彼の見た目とは裏腹のハングリー精神を買っていました。中学時代にプレーしていた『湘南ボーイズ』の田代栄次監督は高校、大学の後輩で、小笠原は家庭環境があまり余裕がなくて「プロに行って頑張る」という意識が強いということを聞いていましたから。実際、中日入団後は弟の学費も工面してあげたという話も聞いていましたから、小笠原は立派だなと思いましたね。

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