書籍『ジャイアンツ元スカウト部長の回顧録』

「巨人に対する心象は良くない」 アマチュアからの声に学ぶ元スカウトの教訓

長谷川国利

【写真は共同】

 横浜の敏腕スカウトはなぜ巨人へ移籍したのか?今明かされる長野久義、菅野智之獲得の舞台裏。30年にわたるスカウト人生の一部を綴った『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』(長谷川国利著)から2010年のドラフトに関するエピソードを抜粋してお届けします。

プロで驚きの成長を見せた柳田、秋山、山田

 大学生の野手ではソフトバンクが2位で指名した広島経済大の柳田悠岐がプロ入り後に大活躍しています。広島から東海大相模に進学してきた選手がいて、柳田の家がその選手の近所だったことから、たまたま見たことがありました。まだ背も大きくなくて体も細かったことを覚えています。その時と比べて大学生の柳田はかなり体が大きくなっていて驚きました。広島経済大の龍憲一監督が以前に広島でスカウトをされていたこともあって面識がありましたから練習も見に行きました。バッティング練習では確かに柵越えを連発して飛ばす力はあるなということは思いましたね。ただ私たちが視察に来るから良いところを見せようと思ってなのか、打ちやすいマシンのカーブばかり打っていたので、「試合でこのバッティングができるのかな?」という疑問はありました。実際、大学選手権に出てきてもレベルの高いピッチャーと対戦した時はなかなか打てませんでした。ソフトバンクは王会長が「飛ばせる選手を獲りたい」と言っていたそうですが、それでも2位で指名するのは勇気がいったのではないでしょうか。

 同じ大学生の外野手では西武が3位で指名した八戸大(現・八戸学院大)の秋山翔吾(現・広島)もあそこまでの選手になるとは想像していませんでした。横浜創学館の出身ですから高校、大学ともちろん何度も見ていました。すごく一生懸命練習するという話は聞いていましたし、大学生レベルでは確かに良い選手。しかし、プロに入って何か突出した武器があるのかというと疑問が残りました。

 高校生の野手では履正社の山田哲人(ヤクルト1位)が関西では評判になっていましたから、大阪の豊中ローズ球場まで見に行きました。ショートとしての動きは悪くありませんでしたが、体も大きくなかったですし、私にはチャンスメーカータイプに見えました。ですから二度抽選を外していたとはいえ、ヤクルトも中日の大野の指名と同じ感想を持ちました。正直プロであそこまでホームラン、長打を打てる選手になれるとは思いませんでした。

 個人的に高校生の野手で山田よりも良いと思っていたのは日本ハムが2位で指名した智弁和歌山の西川遥輝(現・ヤクルト)の方でした。タイミングのとり方やバットを振り出す鋭さを見て、高校生のバッターでは別格。おまけに足も速いし走塁のセンスも良い。一緒に見ていた関西担当スカウトの渡辺政仁に「なべちゃん、このレベルの高校生はなかなかいないと思うから推した方がいいぞ」と言ったのを覚えています。そんな印象でしたから、日本ハムが2位で指名した時も驚きませんでしたし、上位指名で妥当だと思いました。

 オリックスが2位で指名した修徳の三ツ俣大樹も評価していた選手でした。ショートをやりながらピッチャーもやっていて、3年生の時は東東京大会の決勝戦まで勝ち上がっています。体つきもしっかりしていてピッチャーとしてもセンスがある選手でしたが、私はプロで勝負するなら広角に打つことができる野手の方だと思って見ていました。プロでは内野の色んなポジションを守れるユーティリティープレイヤーとして長くプレーしましたね。こういうセンスのあるタイプの選手は上手く生き残れることがありますね。

1/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント