書籍『ジャイアンツ元スカウト部長の回顧録』

巨人とソフトバンク、松田宣浩の指名で見えた違い 元Gスカウト「将来を考えれば…」

長谷川国利

テスト入団から大ブレイクした山口鉄也

 結果的にこの年に巨人が指名した選手で最も活躍したのが育成ドラフト1位の山口鉄也でした。山口はテストを受けての入団でしたが、巨人の前に横浜のテストも受けています。その時、横浜で編成を担当していた亀井進さんは評価をしていたものの球団としては獲れないという判断になり、「巨人でも見てやってくれないか」という連絡が私にありました。このような経緯で山口は巨人のテストを受けに来ていました。

 ストレートは140キロ出るか出ないかくらいでしたからスピードはありませんでした。公募テストで多くの人にジロジロと見られて緊張していたこともあったと思います。抜けたボールも多くてコントロールもばらついていました。ただ時折指にかかった時のボールには角度がありましたし、踏み出した右足を踏ん張ってから腕を振るスタイルで、そのリズム感には光るものがありました。こういうタイプのピッチャーは独特の“間(ま)”を作れるので、バッターからすると打ちづらいことが多いのです。最終的には「左ピッチャーだし、体ができてスピードもついてくれば面白いかもしれない」という判断で、この年からスタートした育成ドラフトで獲ることになりました。そんな経緯で獲った選手が3年目に新人王を獲得し、その後も9年連続60試合以上登板、通算642試合も投げるまでのピッチャーになってくれるとは夢にも思いませんでした。

 巨人の体制としては2004年の途中から清武さんが編成、ドラフトにも関わる立場になっていますが、この当時はまだそこまで積極的に意見はされておらず、もう少し後になってから「育成選手を多く指名して三軍を作る」ということになりました。

 育成で指名される選手は山口のような通常ではスカウトがリストアップもしないような選手が大ブレイクする可能性を秘めている一方で、大部分の選手は支配下の選手よりも実力が劣ります。また三軍を作るにしても、試合をするためには社会人や大学にお願いしないといけません。ちなみに社会人トップレベルのチームであればプロの二軍でも負けることがありますから三軍では歯が立ちません。社会人である程度のレベルにある選手は三軍の選手よりも、はるかに力があります。それくらい社会人のトップレベルと三軍は力の差があるのです。

 ホンダと試合をしたときにはこんなことがありました。小手川喜常という選手が連続ホームランを打ったのですが、それを見ていた巨人の編成から「凄い選手がいるぞ!」という話になったのです。確かに三軍とはいえ巨人のユニフォームを着たプロのピッチャーから連続でホームランを打ったのは凄いことです。しかし、社会人としては良い選手でもプロで活躍できる選手かと言われれば話は変わってきます。当然スカウトはリストアップしていませんでした。しかし、現場から報告を受けた清武さんからは「何でリストアップしていないんだ?」ということを聞かれるわけです。「そういう評価の選手です。我々は目の前の結果だけではなく『プロで活躍できるかどうか』で判断していますから」と私は答えました。

書籍紹介

【画像提供:カンゼン】

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