書籍『ジャイアンツ元スカウト部長の回顧録』

鳥谷敬、青木宣親の巨人入りはあり得たのか? 元G敏腕スカウトが振り返る2003年ドラフト

長谷川国利

内海哲也、西村健太朗ら2003年秋のドラフト会議で巨人に指名された面々 【写真は共同】

 横浜の敏腕スカウトはなぜ巨人へ移籍したのか?今明かされる長野久義、菅野智之獲得の舞台裏。30年にわたるスカウト人生の一部を綴った『ジャイアンツ元スカウト部長のドラフト回想録』(長谷川国利著)から2003年のドラフトに関するエピソードを抜粋してお届けします。

二岡がいるのに鳥谷も?

 大学球界には投打に目玉がいました。ピッチャーは九州共立大の馬原孝浩(ダイエー自由枠)。しかし、これは山村路直のところでも書いた通り同大学とダイエーの関係が強固で、他球団は手を出せない状況でした。

 野手では早稲田大のショート、鳥谷敬。阪神に入団することになるこの逸材の獲得には巨人も動いていました。横浜のスカウト時代、聖望学園は私の担当エリアだったことから鳥谷は高校時代から何度も見ていました。その頃から金属バットの打ち方ではなく、レフト方向、左中間の打球がよく伸びる、木製バットにも対応できるであろう良いバッティングをしていました。ただ、高校時代はピッチャーも兼任していたので、守備や走塁はそこまで評価できず、その点は大学に行ってから大きく伸びた印象です。余談になりますが、昨シーズン、DeNAで活躍したアンダースロー、中川颯を桐光学園で見た時は高校時代の鳥谷とイメージが重なって「この子は野手で面白い」と思いました。今はピッチャーで頑張っていますが、野手で勝負していても良い選手になったかもしれませんね。

 この頃、巨人のショートには5年目、27歳になる二岡智宏が君臨していました。編成的に大学生ショートはそこまで必要ないのでは? と思いましたが、巨人ではスカウト部の意向に関係なく「目玉、スター選手がいたらとにかく獲りにいこう」という姿勢が徹底されていました。それはドラフトだけではなくFAも同じです。力のある選手がFAした場合、報道に出ていなくても、ほとんどの選手に接触していると思います。ただ問題だなと思ったのは、トレードやFAを担当する部署とスカウト部との横の繋がりがなかったこと。その結果、どうしてもポジションの重なりが出てくるのです。そうなると辛いのはスカウトです。高校や大学、社会人の関係者に「うちには〇〇選手が必要なんです」「選手を預からせてください」と頭を下げておきながら、いざ入団してみたらFAやトレードで実績のある、同じポジションの選手が入ってくるのですから。送り出す側からすれば「そんな話は聞いてないぞ!」ということになります。我々スカウトだって「聞いてないよ!」という思いは同じなのですが。そういうことが巨人に移ってから多くありました。

 私は巨人に移籍したばかりでしたが、もし責任ある立場にいたら「鳥谷を獲りにいこう」ということは絶対に言いません。鳥谷自身も巨人のチーム事情を分かっていて阪神を選んだということを後になって聞きました。そういう判断ができたところも、彼がプロで長く成功した要因の一つだったのではないでしょうか。

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