投球アナリスト・ピッチングニンジャが見た山本由伸、今永昇太の印象 適応に苦しむ佐々木朗希への助言は?

丹羽政善

ピッチングニンジャは山本由伸を「クレバーな投手」と話した。 【Photo by Gene Wang/Getty Images】

 ドジャース対カブスの開幕シリーズに合わせてピッチングニンジャことロブ・フリードマン氏(以下、敬称略)が来日。ファナティクス・ジャパン主催のトークショーなどに登壇し、複数のメディアのインタビューも受けたが、フィールドではクレイトン・カーショー(ドジャース)、今永昇太(カブス)、タイラー・グラスノー(ドジャース)ら多くの選手にインタビューをしている。

 前編に続き、滞在期間中に交わした会話や分析の一部を紹介する。

山本由伸、今永昇太の印象は?

 山本由伸(ドジャース)の縦に割れる大きなカーブを「YO-YO(ヨーヨー)カーブ」と名付けたピッチングニンジャ。「彼のイニシャル(Y.Y)も意識したんだ」と得意げな表情で話したが、同時に少し、照れを浮かべた。多分、イニシャルの話は後付けなのだろう。「どうだ、すごい思いつきだろ?」とやや自慢げに口にしてしまってから、恥ずかしくなったようだ。

 その山本のピッチングを生で見られる――あわよくば、カーブの握り方、リリースのイメージを映像に記録できるのではないか。それが今回、彼の来日動機の一つだった。

「映像を見る限り、山本は最後に親指で押し出すようにして回転をかけているように見える。だとしたら、かなり珍しいケースだから」

 今回――残念ながら、そのチャンスは叶わなかった。多くの投手の取材機会を得たが、山本だけでなく、大谷翔平(ドジャース)、佐々木朗希(ドジャース)とも、取材エリアで待ち構えるピッチングニンジャに取材チャンスが訪れることはなかった。

「残念だ。佐々木のスプリットの握り、リリースも教えてもらいたかったのに」

 ただ、全体を振り返れば、山本だけでなく、佐々木のメジャーデビュー戦、今永の今季初登板も生で見られたのだから、十分な成果はあったよう。間近でキャッチボールも撮影し、映像コレクションも増えた。

 3月18日(日本時間、以下同)の第1戦終了後、「山本はやはり、一つ一つの球種が優れているけど、クレバーな投手だと思う」とピッチングニンジャは印象を口にした。

「4シームは球速がアップしていた。同じピッチトンネルを利用して、スプリットとカーブを投げている。カーブも打てないけど、あの高速スプリットも去年よりシャープだった。ケガで離脱することがなければ、サイ・ヤング賞を狙えるのではないか」

 今季2戦目となった29日の登板でも、5イニングを投げて10三振。スプリットでは、14スイングで空振りを10回も奪った。空振り率は実に71%。

 あの試合では、2本のソロ本塁打を許したが、ソロ本塁打なら、大きな失点にはつながらない。

「カット、スライダー、シンカーも投げているようだが、シンカーは今後、楽しみな球種。今回、日本で取材をして、日本のボールとメジャーのボールの違いを知り、縫い目によってかなり軌道に変化があることも知った。2シームは、縫い目の影響を利用して、ボールを動かす球。縫い目の幅の一番狭いところが、メジャーの方が狭い。その分、変化量が大きくなる。日本ではあまり変化しないので使わなかったかもしれないが、メジャーでは今後、使える球種になるのではないか。そうしたらまた、投球の幅が広がるだろう」

 その日本の開幕戦で投げ合った今永も、「四球が多かったが、無安打。何より彼は、自分の特徴をよく知っている」と絶賛した。

「身長の低さ、アームアングルの低さ、そこから高めに投げた場合に生まれるVAA(※)の低さと打者が感じる錯覚。高い回転数を最大限に生かすため、回転効率も意識した投げ方。彼には、ブレイク・スネル(ドジャース)やタリク・スクバル(タイガース)のような100マイル近い真っ直ぐを投げられるわけではない。ならば、どう補うのか。彼はそれをよく分かってる」

※VAA=ホームベースにどのくらいの角度で達したかを示す数値。地面と平行なら0度。投手の球は基本的に上から投げ下ろすので、数値はマイナスになる。投球コースが高めであれば角度は小さくなるが、今永の4シームの平均VAAは-4度前後。メジャー平均が-5度で、先発投手で-4度となると片手で数えるほどしかいない。

 オフを過ごし、速い球を投げるために体を大きくしたりしなかったことも、彼の好評価には含まれる。

「弱点を補うことも大事だが、長所をより研ぎ澄ました感じだ。今年は、相手も彼の真っ直ぐを狙ってくる。それは今永もわかっているはず。相手の適応に対してどう適応するかも、興味深い」

 今永は30日の米国初登板でも、7回を投げて、3安打、1失点という内容。球数はわずか91球。相変わらずの安定感だった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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