現地記者の日本人選手ラ・リーガ奮戦記(月2回更新)

代表戦での久保の酷使にスペインメディアが恨み節を…… “FIFAウイルス”に侵される選手とクラブの苦悩

山本美智子

4月1日のR・マドリーとのスペイン国王杯準決勝第2レグでも先発でプレー。惜しくも決勝進出は逃したが、疲労が残るなか、久保はこの試合でも1アシストを記録した 【 Photo by Jose Breton/Pics Action/NurPhoto via Getty Images】

 スペイン在住がすでに25年以上に及ぶ日本人ライターによる、月2回の連載コラム。レアル・ソシエダで3年目のシーズンを迎えた久保建英と、今シーズンからマジョルカでプレーする浅野拓磨の動向を中心に、文化的・歴史的な背景も踏まえながら“ラ・リーガの今”をお届けする。第11回目のテーマはいわゆる「FIFAウイルス」。3月のインターナショナルマッチウィークでも、選手を酷使する過密日程が問題視されたが、それはソシエダと久保建英にとっても無縁の話ではない。

森保監督も救いの手を差し伸べては……

 代表ウィークがやって来るたびに話題となるのが、「FIFAウイルス」だ。3月もこのウイルスに悩まされた選手とクラブは少なくなかったが、これを防御できるか否かによって、今シーズンのタイトル争い、そして来シーズンの欧州カップ戦の出場権争いは大きく左右される。

 それは、久保建英とレアル・ソシエダにとっても、もちろん無縁の話ではない。

 3月20日、日本代表はワールドカップ(W杯)アジア最終予選のバーレーン戦に勝利し、早々と本大会出場を決めた。久保がその試合で1得点・1アシストの活躍を披露したことはスペインでも取り上げられ、「久保がゴールとアシストで日本のワールドカップ出場の立役者になる」(ノティシアス・デ・ギプスコア紙)、「タケ・クボに導かれた日本が最初の予選突破国に」(エル・デスマルケ紙)、「クボこそワールドカップだ」(アス紙)といった具合に、様々な現地メディアが久保を褒めちぎった。

 スペインの感覚では、こうした目覚ましい働きをした選手は労い、次の試合では休ませるのが通例だ。出場させるにしても、状況を見て後半からの投入が一般的だろう。

 ところが久保は、バーレーン戦から中4日のサウジアラビア戦でもスタメン起用された。ソシエダの本拠地サン・セバスティアンの地元紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』は、「久保に休戦なし:再びスタメン、日本(代表)と62分間」というタイトルを打ち、「レアル・ソシエダのアタッカーは、ワールドカップ行きのチケットが確定しているにもかかわらず、サウジアラビア戦でスタメン出場を強いられた」と報じた。

 さらに、「森保(一)監督がレアル・ソシエダに救いの手を差し伸べてくれなかったことは確か」「サイドの2人、センターフォワードなど多くのアタッカーを(バーレーン戦から)変えたのに、久保だけは例外だった」と恨み節を炸裂させ、こう結論付けている。

「長い遠征から帰ってきた久保は、4月1日にサンティアゴ・ベルナベウでのレアル・マドリー戦(スペイン国王杯準決勝第2レグ/第1レグは0-1で敗戦)が控えているだけに、帰国から2日後のバジャドリー戦(ラ・リーガ第29節)でプレーするのは難しいだろう」(結局その予想は当たらず、久保はバジャドリー戦で81分までプレー)

代表戦のジャッジはまさに「魔女狩り」

すでにW杯出場を決めていたにもかかわらず、サウジアラビア戦でも先発起用された久保。スペインメディアは森保監督の起用法に疑問を呈している 【Photo by Kaz Photography/Getty Images】

 一方で『ノティシアス・デ・ギプスコア』紙は、「久保の足首は大丈夫」というタイトルの記事も日を改めて掲載。久保が日本代表の試合で2度の“恐ろしいファウル”を受け、チームドクターにアイシングされていた点に触れている。

 ラ・リーガのジャッジは基本的に久保への敬意に欠け、彼に対する悪質なファウルを流すケースがしばしばだが、それよりも酷いのが代表戦を捌くレフェリーのジャッジであり、「まさに魔女狩り」とそのレベルの低さを皮肉った。

 さらに、現在の日本代表の布陣についても言及。ミケル・レカルデ記者は、「3-4-2-1システムで(トップ下の)久保は右に開き気味でプレーしているが、同時に中央に走り込む自由度がとても高いシステムでもあるため、結果として身体的な負担が大きくなっている」と指摘している。

 過密日程、長距離移動、クラブとは異なるシステムでのプレー、基準が曖昧なジャッジ……代表クラスのトッププレーヤーたちが、FIFAウイルスに苦しめられている。交代枠が3人から5人に増えたことで、多少は選手の負担も軽減されたのかもしれないが、誰をいつ休ませるかは代表監督次第。試合が始まってしまえば、当然ながらクラブ側のコントロールが及ぶところではない。

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著者プロフィール

スペイン在住は四半世紀超え。1998年から通信員として情報発信を始め、スペインサッカーに関する取材、執筆、翻訳の仕事に従事してきた。2002年と06年のW杯、04年と08年のEUROなど国際大会も現地で取材。12年からFCバルセロナの公式サイト、ソーシャルメディアを担当する

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