バドミントン山口茜、挑戦の先に見えた新たな光 全英OPで示した“スピード制限”の戦い方

平野貴也

コンディションに不安がある中、山口茜は全英オープンでベスト4に進出 【Photo by Shi Tang/Getty Images】

 転んでもタダでは起きぬーー。フィジカルコンディションに不安がある中で、どんな戦いができるのか。その挑戦が、新たな収穫をもたらす。バドミントン女子シングルスの山口茜(再春館製薬所)は、3月の全英オープンで25年最初の国際大会に臨み、ベスト4となった。

 右足ふくらはぎの痛みにより、24年12月の全日本総合選手権1回戦を途中棄権して以来の復帰戦。どれくらい動けるのか確認しながらの戦いになったが、それでも、準々決勝では日本の次期エース候補として注目を集める宮崎友花(柳井商工高→ACT SAIKYO)に競り勝ち、準決勝ではパリ五輪女王のアン・セヨン(韓国)に善戦。力があることを示した。

相手の逆を突くフェイントを徹底した理由

 山口の戦い方は、興味深かった。右足をどこまで動かすことができるのか、その確認が終わらないまま大会を迎えたため、スピードやスタミナを要する戦いになれば不利だ。そのため、早い段階でラケットの面を静止させ、相手に打球をイメージさせて、別の軌道に放つ。あるいは、そのようなショットを警戒させて相手の足を止め、対応を遅らせるプレーを多用した。コンディションが良いときにも見せるプレーではあるが、今大会では徹底していた。

 山口は「どうしても(今の状態では)急には動けない。(打たれると)届かない部分がたくさんある。その中で(相手が打つ前に)自分の配球や予測によって、ラリーを作らなければいけない部分がすごく多かった。(逆を突いても)決めきるところまでは難しかったけど(相手の反応を遅らせることで)自分の時間を稼ぐことが大事だったので、そこをメインにやっていました」と戦い方の選択理由を明かした。

 例えば、サービスレシーブの場面は特長的だった。普段なら、ロングリターンで相手をコートの後方に下げて時間を作ることもできるが、負傷箇所の回復状況に自信が持てないため、高く上げて強打を打たれてしまうと、対応できない。だから、低い球で逆を取るための駆け引きを徹底していた。

スピード制限の戦いから得た収穫

 コンディションに不安があるため、代名詞的なプレーであるダイビングレシーブや、鋭いワンジャンプから早いタイミングで返球するダイナミックなプレーは鳴りを潜めたが、技術の高さ、相手との駆け引きがいつも以上に強調され、普段とは別の魅力を発揮した大会でもあった。スピードを落とした中でも、世界トップレベルの大会で強敵と戦うことができた。それならば、今後も使える戦い方になるのではないかと聞くと、山口は「どうですかね。相手も学習しますよ」と笑った。

 ただ、収穫と感じた点はあったという。スピードを落とした中で、相手に主導権を取らせない戦い方ができたことについては「普段は、自分から崩して点数につなげることをベースとして意識していますけど、今回は相手にミスをさせたり、とりあえず自分が返球できる球を打たせたりというイメージ。(普段のプレーで)点数を取りにいく、(今回のようなプレーで)点を取られないという部分は、普段から、もうちょっと使い分けてもいいのかなと思いました」と振り返った。一方で、ラリーの中で、ここでもう一歩動ければ、もう一つテンポを上げられれば点を取り切れると感じたことで、スピードの使い方を再確認できたことも良かった点だという。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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