なぜ好調の角田裕毅は、またもノーポイントに終わったのか 要因はタイヤ分析力の差?

柴田久仁夫

2ストップへの強すぎた思い込み

去年から角田と組む担当エンジニア、エルネスト・デジデリオとは信頼関係も生まれつつあるようだが…… 【(c)Redbull】

 一方で上位チームはかなり早い段階から、1ストップ作戦の可能性に無線で言及していた。
<14周目>
メルセデスからジョージ・ラッセル:(オスカー)ピアストリは1ストップで行くかもしれない。
<34周目>
マクラーレンからランド・ノリス:ハードは頑丈だ。ジョージも最後まで行くぞ。
<39周目>
マクラーレンからピアストリ:タイヤはどうだ? プランAで行けるか?
ピアストリ:行けると思う。

 それでもレーシングブルズは、2ストップ作戦を変えなかった。ベアマンのハードタイヤでの周回ペースにまったく注意を払っていなかった? 他チームの1ストップ作戦に関する無線も無視していた? 常識的には、そのいずれも考えにくい。しかし結果的には、事前に決めた2ストップ作戦に固執しすぎたといわれても仕方がない。


 ちなみに多くのチームでは、ブリヂストンやミシュラン出身のタイヤの専門家を迎え入れている。ピレリワンメイクの今のF1では、タイヤ性能を100%搾り出せるかが勝負を決めることがよくわかっているからだ。

 ハースの小松代表もBARホンダでのレースエンジニア時代、タイヤスペシャリストとして活躍した。チーム代表になった今も、その蓄積が特にレース戦略を決める上で活きていることは間違いない。一方レーシングブルズには、タイヤ専門エンジニアの存在感は薄い。

 今季の中団グループは、去年にまして戦闘力が接近し、超接戦状態だ。些細な判断ミスが、大きく結果に影響する。そんな状況で、タイヤをしっかり分析できるエンジニアが不在だとしたら、そのハンデキャップは小さくない。

早くも日本GPでレッドブルに昇格か

去年チームメイト同士だった二人に、このあとどんな運命が待っているのだろう 【(c)Redbull】

 とはいえ角田が開幕2戦で、印象的なパフォーマンスを見せ続けていることは間違いない。一方でリアム・ローソンは2戦連続Q1落ち、レースでもノーポイントと不振に改善の兆しが見えないことから、レッドブルは早ければ次戦日本GPで角田を昇格させるという噂も出ている。

 今のF1では、新車によるプライベートテストが禁じられている。なのでもし昇格が決まった場合、角田はぶっつけ本番でRB21を走らせることになる。高い適応能力を持つはずのローソンでさえ下位に低迷する、かなり乗りにくいマシンのはずだ。すぐに結果を出せなければ、ローソンに続いて数戦で更迭される恐れもある。そのためレッドブル昇格への慎重論も少なくない。

 それでも角田自身は、「100%乗りたい」と断言している。「レーシングブルズより速い車なのは確かですから」。その言葉からは、「僕ならレッドブルを乗りこなせる」という強い自負も窺える。

 レッドブルへのシーズン途中の移籍は、確かに大きなリスクを伴うだろう。今後のレーシング人生を左右しかねない選択かもしれない。そんな不安は、傍観者の僕でさえ感じる。しかし王者フェルスタッペンを相手に角田裕毅ならやってくれるのではというワクワク感も、今は抑えきれずにいる。

(了)

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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