イチローと大谷翔平をつなぐ東京ドームの1枚のドア ドジャースの選手たちも日本のボールに「?」

丹羽政善

東京ドームにイチローと大谷の姿が重なる

2019年、東京ドームの打席に立つイチロー 【写真は共同】

 話変わって――。

 試合前、ドジャースの練習が始まってしばらくすると、大谷が三塁側のダグアウトからグローブを手にフィールドに現れた。その瞬間、客席から大歓声が。その光景に既視感を覚えたが、もちろん、初めてではなかった。2019年の日本開幕戦。イチロー(現マリナーズ会長付特別補佐権インストラクター。以下敬称略)がフィールドに姿を見せるたび、地鳴りのような歓声を伴った。

 試合開始直前、選手紹介で大谷の名前が呼ばれると、やはり隣の声が聞こえないほどの拍手に包まれた。打席に入れば、誰もがスマートフォンを高く掲げる。それもまた、2019年で見た景色だ。もちろん、大谷が出場した2022年のWBC(ワールドベースボール・クラシック)でもそうだったが、東京ドームとドジャースのユニホーム姿という組み合わせは、新鮮だった。

 一方で、戸郷翔征が投球モーションを開始すると、スタンドが静まり返る。打球音、投球がミットに収まる音が、ドーム内に響く。イチローのときもやはりそうだったが、誰もが、固唾を飲んで試合を見守る光景に、コンフォートも驚いていた。

「何が起こったんだ? という感じだった。ファンも集中しているようだった」

 さて、そうしてさまざまな場面で大谷とイチローの姿がオーバーラップしたが、1枚のドアを通しても、過去と現在がつながった。

三塁側ベンチのドアを通るイチロー 【ディー・ゴードン提供(映像をキャプチャ)】

 この写真は、現役最後の試合を終えた後、まだ、客席にファンが残っていることを伝え聞いたイチローが、まさにフィールドに出ようとしているところ。マーリンズ時代からイチローを慕ったディー・ゴードンが撮影した映像をもらい、その1シーンを切り取った。

 場内を一周した後、イチローは二塁ベース付近で最後の挨拶をすると、またこのドアを通って、クラブハウスに引き上げている。
 あれから6年。大谷が同じドアを通って、フィールドに現れた。イチローの背中で閉じられたドアから大谷が出てくるというのは、あのドアが、バトンを引き継ぐ象徴のように映った。

 否が応でも、あるエピソードが蘇る。日本の野球殿堂博物館には、ケン・グリフィーJr.(マリナーズなど)のグラブが展示されているのだが、手首付近の紐とグラブの革の間にはコインが挟まっている。それはアスレチックスの本拠地だった「ザ・コロシアム」の名物を物語り、相手のスター選手にコインを投げる、いや当てるというのが、悪しき慣習だった。グリフィーJr.はそれを拾って、紐と革の間に挟んでいたのである。

 2001年、イチローがオークランド遠征で、「客席からコインが飛んできた」と話したときにそのことを思い出したのだが、数年前に実際、野球殿堂博物館でグローブに挟まったコインを見たとき、すべての点と点が線でつながった――それはまさに、東京ドームの三塁側のドアのように。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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