「拾えへんくて当たり前」からの変化 バレー日本代表・福留慧美がイタリアで過ごす挑戦の日々

田中夕子

パリ五輪後イタリアに渡り、レベルアップを続ける福留慧美 【平野敬久】

 2月12日、イタリアでの首位攻防戦で日本人ダービーが実現した。全勝で1位を走るイモコ・コネリアーノには関菜々巳、2位のミラノには福留慧美。どちらもパリ五輪に出場した女子バレー日本代表選手で、五輪を終えた直後からイタリアで移籍1年目のシーズンを過ごしている。

 どちらもスターティングメンバーではなく、途中出場となったがリベロの福留にとってはこの試合が本格復帰、復活に向けた試合でもあった。コートに立ってプレーすること自体が久しぶりだったからだ。

試合に出られない状況もプラスに捉え

福留が所属するミラノには世界の名だたる選手が揃う 【平野敬久】

 日本ではデンソーエアリービーズに所属し、2022年から日本代表に選出された。レシーブ力、特に秀でたディグ力を武器に昨年の五輪予選、ネーションズリーグにも出場しパリ五輪にも選出された。さらなる飛躍、成長を求め日本では経験できない高さや速さ、重さのある打球を日常から受けるべくイタリアへ。パリ五輪で金メダルを獲得したイタリア代表のパオラ・エゴヌなど、世界の名だたる選手が揃うミラノで開幕から試合出場を重ねてきたが、1月、石川真佑が所属するノヴァーラとの試合で途中交代を命じられ、その後、出場機会を逸してきた。

 常に絶好調ではなく、調子の良し悪しがあるのも当然で、自分のパフォーマンスがよくても相手がさらに上回ることもある。そうなれば交代を命じられたり、試合に出る機会が限られることもあるのだが、相談相手や気晴らしのツールが身近にある日本でのシーズンと異なり、異国での不慣れな環境では試合に出られず過ごす時間が途方もなく長く感じられることもある。福留もまさに、出られない現実を前に葛藤していた。

「せっかくイタリアまで来たのに、試合にも出られない。何しているんやろ、何でここまで来たんやろ、って。時間もあるので、余計に落ち込みました」

 うまく行かないことは続くもので、同時期に体調を崩した。高熱で練習に参加できない日が続き、数日を経て体力が回復してからようやく練習に加わった。ただでさえ「試合に出たい」と焦る気持ちもあったが、福留はその状況に置かれたことをあえてプラスに捉えた、と振り返る。

「身体を休める時間もリフレッシュだと思って、頭を切り替えるようにしました。練習に入ってからも、AチームじゃなくBチームに入ったので、むしろエゴヌの球を受けられるからそれだけでめっちゃプラスや、と思って、とにかく練習を頑張ろう、と思ってきました」

 その努力が報われたのがコネリアーノ戦だった。前週もコッパイタリアの決勝で対峙した相手との短いスパンでの対戦。「めちゃくちゃ強いから大変」と苦笑いを浮かべたが、交代直後から好守で何度も会場を沸かせた。不安や焦りなど微塵も感じさせない、守護神として堂々たる姿ではあったが、「本当に成長できているのか、不安に思うことがある」と吐露する。

「イタリアに来たばかりの頃は、チームメイトもすごい選手ばかりなので、拾えへんかったり、目が追いつかないのが普通やろな、と思っていたんです。案の定、エゴヌのスパイクとかサーブ、ほんとにすごくて、え、ここに来るん? って毎回びっくりしていて(笑)。でも最近は目も慣れてきたから、拾えへんくて当たり前、ではなくて、拾えへんくて悔しい。そういう気持ちに変わったんです。そもそもそういうことを経験する、そういう考え方になるためにイタリアへ来たので、そこは、自分の中でも変われたのかな、って思っています」

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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