大谷翔平は唯一無二のスイーパーを捨てるのか? 投手復帰過程での注目は「リリースポイント」
腕を下げた大谷翔平
なぜ、そうなったのかだが、21年9月からリリースポイントが下がり始めており、これはスライダーの配球比率が4シームを上回るようになった時期と一致する。
図3 大谷翔平の配球比率(2018年~24年)
23年4月、大谷にどんなアプローチでスイーパーを投げているか聞くと、こんな話をした。
「何種類かパターンがあるんですけど、一番ベーシックなスイーパーに関しては、データでまだ出てない。おそらく僕がこうじゃないかな、こういうスイーパーが打てないんじゃないかなというものを一応、持ってはいる」
「そういう風にスイーパーを投げるピッチャーはあまり見たことがないので、まだ、(そういう球を投げる投手の打席に)立ったことはないですけど、いま言った通り、おそらくこうだろうなという仮定のもとで、僕は投げている感じですかね」
横の変化量だけなら、大谷より大きく曲がるスイーパーを投げる投手はいる。回転数で勝る投手もいる。ただ、先発ではほぼ唯一と言っていいのが、大谷が投げるスイーパーのVAA(バーティカルアプローチアングル)の低さだった。
VAAとは、投手の投げたボールがどんな角度でホームベースに達したかを示す数値のこと。高い位置から低めに投げれば数値は大きくなり、高めに投げれば小さくなる。身長の低い選手が出来るだけ打者寄りで投げ、低いリリースポイントから高めに投げれば、VAAは小さくなりやすい。
メジャーの場合、フォーシームの平均VAAはマイナス5度(22年)。マイナス4度を下回ると、打者はホップしているように感じるとされる。カブスの今永昇太などは、マイナス4度前後。彼が93マイルの真っ直ぐでも、高めで空振りを取れる理由は、高い回転効率に加え、そこにも一因がある。
スイーパーのVAAは、リリーフまで含めるとポール・セワルド(ガーディアンズ)らがマイナス6度前後で一番低いが、大谷はマイナス7度前後で、先発ではクラーク・シュミット(ヤンキース)と並んで低い。
シュミットのスイーパーはあまり横の変化量がないので、大谷のそれとはまた異なる。やはり、大谷のスイーパーの軌道は唯一無二。さらに、相手打者が浮いているように錯覚させるには、回転効率が50〜65%である必要があるが、大谷はその数値を意図的に出せるまでに精度を高めていた。ただ、そうした異次元の追求が、肘の故障の一因とも度々指摘されている。
大谷のスイーパーは諸刃の剣か
現時点ではまだリリースポイントのデータはないが、キャッチボール、ブルペンで4シームの軌道データを計測したところ、回転効率が増し、縦の変化量も大きくなっていた。つまり、そこからはリリースポイントが高くなっているのでは? という推測ができる。復帰したとき、あるいは復帰してから、メカニックが変わっていく可能性もあるが、そこにはリスク軽減の狙いも透ける。
では、大谷本人の意識は? 次に大きな故障をした場合、投手断念をすでに示唆している。となると、故障リスク軽減が優先されるのか。故障の一因とも度々指摘されるスイーパーを捨てるのか?
本人に向き合い方を聞くと、「もちろん長い目で見て、抜くところは抜いて、シーズンもそうですけどキャリアを通して、それももちろん大事」と言いつつ、こう続けている。
「目の前のシーズンであったりとか、1試合に対してしっかりと結果を求めに行く。そのバランスが大事じゃないかなとは思っています。その上でついてくるけがっていうのは、もちろんしょうがない部分はありますし、また事故的に起きてしまうけがっていうのもしょうがないので。もちろん、いろんな方法で防げる方法はあるかもしれないですけど、そこは割り切っていくところは割り切っていかないと、本来の自分の力は出しにくい」
リリースポイントが上がることで、例えば、4シームの軌道が変わってそれがプラスに働き、スイーパーを仮に失っても、相殺される可能性がある。いや、それともやはり彼にしか投げられないスイーパーの軌道は、譲れないのか。
大谷が口にしたバランスという言葉。そこを本人がどう突き詰めるのか。ライブBP登板は、開幕戦が行われる日本へ出発する前に行われると見られる。