ドジャースキャンプレポート2025(毎週木曜日更新)

大谷翔平は唯一無二のスイーパーを捨てるのか? 投手復帰過程での注目は「リリースポイント」

丹羽政善

キャッチボールをする大谷翔平(ドジャース) 【写真は共同】

「スライダーが思うように曲がらない……」

 2015年3月にトミー・ジョン手術を受けたダルビッシュ有(パドレス)。16年5月に復帰したが、当初、彼本来の曲がりの大きなスライダーが鳴りを潜め、しばらくは何度もそう首を捻った。

 要因の一つと考えられたのが、リリースポイント。復帰後、無意識に肘に負担のかからないフォームを求めた結果なのか、腕を通す位置が体に近くなり、結果、リリースポイントが高くなった。

図1 ダルビッシュ有のリリースポイント(2014年〜17年)

【参照:Brooks Baseball(※丸は筆者加筆)】

 こうなると、カーブの落差が大きくなり、4シームの回転効率が高くなるという様々なメリットがある一方、スライダーが横に曲がりにくくなる。ただ、17年の中盤以降――ドジャースにトレードされた辺りから、リリースポイントは下がっていった(図1)。肩肘への不安が払拭され、本来の投げ方に戻っていった、という言い方もできる。

「外旋位コックアップ」とは?

ブルペンで投球練習を行うダルビッシュ有(パドレス) 【Photo by Matt Thomas/San Diego Padres/Getty Images】

 さて、18年10月に1回目のトミー・ジョン手術を受けた大谷翔平(ドジャース)。20年に復帰したが、この年は2回先発しただけ。投球回数もわずか1回2/3なのであまり参考にならないが、本格復帰を果たした21年のデータを確認すると、彼のリリースポイントもまた、術前に比べて上がっていた(図2)。

図2 大谷翔平のリリースポイント(2018年〜24年)

【参照:Brooks baseball(※丸は筆者加筆)】

 これも無意識なのか、チームから指示されたの、あるいはその両方か。大谷は術後、メカニックを見直し。左足のかかとが地面につくタイミングで、右手がどこにあるかを何度も確認していた。

 術前は、左足のヒールコンタクトの際、右手が肘よりも下にあり、これは体幹の加速に対して、腕が遅れて加速されることになるので、肘に負荷がかかりやすい「内旋位コックアップ」というフォームだった。

 対して術後は、手が右肩、肘よりも上にある「外旋位コックアップ」へ。これは、体幹が大きく加速するときに手がすでに頭の後ろにあるため、体幹と腕を同時に加速でき、体幹の加速に対して腕の加速のタイミングの遅れがないため、肩肘の負担が小さく障害リスクが低い投げ方とされる。

 大谷に変化を指摘すると、「(外旋位コックアップの方が)リスクが低いと言われていますね」と認め、20年の復帰前、「いいタイミングで(腕を)上げられるんだったら良いと思いますけれど、それを今やって、できるかといったら、合った人にはできると思いますし、合わなかった人だったらすぐにはできないので。(どこかで)折り合いはつけないといけないですし、言われたら、やってみるのも一つの手ではないかなと思います」と迷いを口にした。ところが、21年にはきれいな外旋位コックアップになっていたのである。

1/2ページ

著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント