元代表主将・荒木絵里香が見たバレー女子ブラジル戦「日本がやるべきことを相手にやられ続けた」

田中夕子

ブラジルから1セットも奪えずに敗れた日本。6月のネーションズリーグ準決勝で勝った相手とはいえ、オリンピックの舞台では圧倒的な強さを見せつけられた 【写真は共同】

 バレーボール女子のパリ五輪予選ラウンド第2戦。日本はブラジルに圧倒され、0-3で敗れた。これで2戦2敗となり、自力での準々決勝進出の可能性はなくなった。なぜ日本は、ほとんどいいところなく負けたのか。同じ対戦で勝利したネーションズリーグとは何が違ったのか。元日本代表主将で、2008年北京大会から4大会連続でオリンピックに出場した荒木絵里香さんに解説してもらった。

1つの場所からしか攻められず単調な攻撃に

日本の攻撃は変化に乏しく、ブラジルの守備を崩すシーンはあまり見られなかった 【写真は共同】

 ブラジルは強かった。これがオリンピックだ、という戦い方に圧倒されました。

 試合の立ち上がりは、スタートからブラジルの選手だけでなく日本の選手の表情を見ても、この一戦にものすごく気合が入っているのは伝わってきました。実際に1点を獲るたび、熱量も感じた。でも試合を通して振り返れば、ブラジルに終始展開を握られ、日本が握ったと思ってもまた押さえつけられる。リズムをつかみきれず、悶々としたまま終わってしまった印象です。

 なぜそうなったか。1つは攻撃の面です。

 本来はコートの9メートル幅をしっかり使って、日本は常に複数枚数の攻撃を確保したかった。レフト、ライト、真ん中もミドルとバックアタックがあるという状況を常につくって、組織的に攻撃しようと試みていたはずです。ところが実際はというと、ブラジルはまさにその展開、どこから攻めてくるかわからないという状況をつくれていたのに対して、日本は攻撃が単調で常に1つの場所からしか攻められなかった。日本がやらなければならないことを、ブラジルにやられ続けた印象でした。

 ネーションズリーグの準決勝でブラジルに勝利した時は、組織的な攻撃とディフェンス、どちらも機能していました。特に攻撃面に関しては、複数から攻めるだけでなく相手のブロッカー陣にストレスがたまるような攻撃。たとえばブロックアウトをうまく取ったり、ハードプッシュでプレッシャーをかけて苛立たせる場面が目立ちました。

 でもオリンピックではブラジルのブロックに対して、むしろ楽な展開をつくってしまった。攻撃枚数が少ないだけでなく、攻撃自体が単調で、ミドルのクイックもA、Bクイックはほとんどなく、山田二千華選手がライト側に回り込んだ速攻が決まっていたぐらい。ブラジルのミドルはほぼコート中央で準備できていたので、ブロックポイントを多く献上することにつながってしまいました。

 加えて、日本はサーブもあまり機能しなかった。中盤からはサーブミスも目立つようになったのですが、「こういう意図を持って打った」というミスではなく、やや単調な、ネットにかかるミスが多いことも気になりました。

 前回の対戦時に、日本はアウトサイドヒッターのアナ・クリスティーナ・デ・ソウザ選手をサーブターゲットにしていました。思惑通り、アナ・クリスティーナ選手を崩すことができたので、この試合も同様に狙っていました。ですが今回、数本乱れる場面もありましたが、狙っても、狙っても、大きく崩すことができなかった。それどころか攻撃でもアナ・クリスティーナ選手をまったくと言っていいほど止めることができず、むしろ完璧に近い形で機能させてしまいました。

 ブラジルの中心選手はガビ(ガブリエラ・ギマラエス)選手。彼女は本当に素晴らしい選手ですが、だからこそ、むしろ日本はブラジルの攻撃を彼女一択にしたかった。そうすれば対応策も打ちやすいからです。でも今回はガビ選手にそこまでボールを集めなくてもいいほど、アナ・クリスティーナ選手が終始素晴らしく、さらにオポジットのロザマリア・モンチベレル選手も好調だった。ガビ選手一択にするどころか、全員に仕事をさせてしまいました。

 そして何より、圧倒的だったのがこの試合にかける熱量です。

 ブロックした後にミドルブロッカーのキャロル(アナ・カロリナ・ダシウバ)選手の喜ぶ様子をみて、あの熱量にゾクゾクしました。これがオリンピックだ、これがブラジルだ、という姿を見せつけられました。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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