24年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

「20分の3」という厳しい降格確率のなかで生き残るのは? 3人のエキスパートによるJ2展望座談会【後編】

飯尾篤史

5人交代制を一番上手く使っている秋田

昨季J3得点王の小松(右)を加え、前線の選手層にさらなる厚みを加えた秋田。5人交代制を巧みに使いながら、生命線であるハイプレスの強度を維持する 【(c)J.LEAGUE】

──次はブラウブリッツ秋田(昨季13位)に行きましょう。佐藤さんと土屋さんがBクラスで、池田さんがCクラスに入れています。佐藤さん、いかがですか?

●Cクラス予想(※並び順は北から)

佐藤:栃木、群馬、藤枝、山口、熊本、鹿児島

土屋:水戸、栃木、藤枝、山口、愛媛、鹿児島

池田:秋田、栃木、岡山、山口、愛媛、鹿児島


佐藤 秋田はもう変わらずに秋田ですよ(笑)。秋田のサッカーの生命線はハイプレスで、とにかく前線から追いまくるんですが、その意味でFWの層がめちゃめちゃ厚くなったのは大きなプラス材料でしょう。90分の中で確実に4人はFWを使うサッカーなので、J3得点王の小松蓮(←松本山雅FC)も加わって、計算できるFWが5~6人もいるのは心強い。今年も秋田は手ごわいぞという印象はあります。

──土屋さんは秋田に詳しいですよね。

土屋 一緒にお仕事をさせていただいて、今年で4シーズン目ですからね。このチームの強みは、ブレない安定した中位力。過去3シーズンは13位→12位→13位と、残留争いにはほとんど足を突っ込んでいない。今年も昨シーズンの4バックのうち3人が流出しましたが、そこにベガルタ仙台で十分な実績を築いてきた蜂須賀孝治や、高さと強さが魅力のセンターバックの岡崎亮平(←栃木SC)といった、“秋田っぽい選手”をしっかりと補填しています。

 その上で、小松という点取り屋まで加わった。実は臼井弘貴ヘッドコーチが松本U-18時代の恩師で、それも秋田を選んだ理由のひとつだと思うんですが、いずれにしても昨シーズンのリーグ最少得点チームに、小松がどれだけのゴールをもたらせるかが、最大の焦点でしょうね。

──池田さんはCクラス予想ですね。

池田 小松という、ちょっと秋田っぽくない選手がどこまでチームにフィットするか、ですね。J3で復活した小松でJ2でもやれるのか。ただ、このチームはFWがなかなか点を取れなくても、セットプレーという武器がありますからね。それが安定した成績を残せている理由のひとつでもあるので。今回の座談会の流行りに乗れば、限りなくBに近いCクラスですかね(笑)。

土屋 秋田は5人交代制をJ2で一番上手く使えているチームかもしれません。2トップとサイドハーフは、60分くらいでほぼ確実に代わるんですよ。強度を維持するために。だからスタメンの選手も最初から飛ばせる。そこが確立されているのも、秋田の強みだと思います。

──続いてザスパ群馬(昨季11位)。ここは土屋さんと池田さんがBクラスで、佐藤さんがCクラスですね。

池田 4バックが右肩上がりになる“群馬式ビルドアップ”が安定してきましたよね。右サイドバックの岡本一真(→モンテディオ山形)は移籍しましたが、それ以外の主力はほぼ残っていますし、継続性は維持されそうです。昨シーズンはビルドアップのその先が手詰まりになるケースが多かったんですが、前線に放り込みでも起点になれる大型FWの佐川洸介(←東京ヴェルディ)を加えるなど、補強も的確だったと思います。

──土屋さんの地元のチームですが、今年はどうですか?

土屋 昨シーズンは39節までプレーオフ進出の可能性がありましたし、閉塞感のあった近年ではかなり良い結果を残せました。いわゆる群馬式ビルドアップへの対策が進んで、9月以降はやや苦しみましたが、それでも守備のベースが確立されていたので、ロースコア勝負で着実に勝ち点を稼げた。その守備陣の主力がほぼ残留したのは心強い材料ですね。

 課題は攻撃面だったんですが、このオフは二桁得点、二桁アシストを狙えるような人材をしっかりと補強しています。19年にルーキーとしてJ3時代の群馬に加入し、17得点を挙げた髙澤優也(←FC町田ゼルビア)が戻ってきて、昨シーズンのJ3で11得点の和田昌士(←いわてグルージャ盛岡)も加入。さらに池田さんが挙げてくれた佐川や齊藤聖七(←清水)など期待の若手FWも少なくありません。昨シーズン、水戸で半年間プレーした左足のスペシャリスト、永長鷹虎も含めて、こうしたポテンシャルを秘めたタレントたちを、育成のスペシャリストである大槻毅監督が、どこまで戦力に仕立て上げられるかが鍵になると思います。

──佐藤さんがCクラスにした理由は?

佐藤 僕は一昨年から大槻さんのサッカー、すごくいいなと思っていて、これは絶対に強くなるなと。強化にしても、“大槻チルドレン”とも言える中塩大貴など、育成年代で見ていて、自分のやり方を理解している選手たちを集めてベースを築いていましたし、3年目の今シーズンは仕上げの1年になるんじゃないかと期待はしているんです。チームの肝である風間宏希と天笠泰輝のダブルボランチも残せましたしね。

池田 過去にないくらい補強が上手く行ったと思いますよ。

佐藤 それでも、引っ掛かるのがクラブ内のゴタゴタ。あまり良くない噂も聞こえてくるんですよね。そこがちょっと気になったので、Bに近いCクラスと予想しました。

平川を失った熊本だがワンチャンPOも?

大黒柱の平川が去り、戦力面で大きな上積みもなかった熊本だが、決して下馬評は低くない。開幕戦でデビューを飾った古長谷(写真)らルーキーが台頭すれば…… 【(c)J.LEAGUE】

──土屋さんと池田さんがBクラスに推す、ロアッソ熊本(昨季14位)はどうでしょう?

土屋 一番のトピックスは、なんと言っても平川怜(→磐田)が抜けたことでしょう。J2では無双でしたし、過去2シーズンの貢献度を考えても、この穴が相当に大きいのは間違いありません。同じく攻撃陣を支えていた島村拓弥(→柏レイソル)も抜けてしまった一方で、新戦力の大半は大卒ルーキー。戦力的な上積みはほぼないと言っていいでしょうね。

 ただ、昨シーズンもかなりの主力を引き抜かれながら、攻守にアグレッシブなスタイルを貫いて残留していますし、トップ下には藤井皓也(←中京大)、古長谷千博(←常葉大)という面白そうなルーキーも入ってきました。彼らが「ポスト平川」となれるかどうか、ここは大木武監督の腕の見せ所でしょう。若手では他にも、昨年のU-17ワールドカップに出場した道脇豊(17歳)、その1学年下の神代慶人(16歳)と、楽しみなユース育ちの逸材もいます。高校生にしてプロ契約を結んだ彼らも含め、下からの活性化が顕著なクラブだけに、期待値込みでBクラスに入ってほしいなと。

池田 例年に比べたら流出も抑えられていますよね。本当の主力は平川と島村くらいですから。ルーキー中心の補強もある意味、例年通り(笑)。大きいのは、今年も黒木晃平、三島頌平というふたつの頭脳が残ったこと。大木イズムの体現者である彼らがいるかぎり、熊本は安心して見ていられる。ルーキーが当たるかどうか次第ですが、僕はむしろA寄りのB(笑)。プレーオフもワンチャンあるかもしれない。

土屋 僕は、このチームのキーマンは竹本雄飛だと思っていて。基本は左ウイングバックですけど、1トップもトップ下もできる。ユーティリティな彼の存在は、実は熊本にとってめちゃくちゃ重要なんです。

佐藤 それでも、やっぱり平川がいなくなったのは厳しいですよ。大木さんのチームは、FC岐阜時代もそうだったんですが、その特殊性ゆえ、逆に対策もされやすい。だから最初はいいんだけど、徐々にパワーダウンしていく印象があるんです。熊本でJ2を戦う3年目は、大木さんにとって正念場のシーズンになるんじゃないかなと思っています。

 あとは、これだけ大卒の好素材を連れて来ているスカウトの筑城和人さんが清水エスパルスに引き抜かれてしまったのも、熊本にとっては痛い。それも含めて、今シーズンはクラブ力が問われるというか、属人的ではなく、熊本が組織として強くなれるかどうかが問われる1年になるような気もしています。

池田 大木さんはJ2での采配は3年目ですが、熊本ではトータル5年目ですよね。

土屋 ひとつのチームで5年というのは、キャリアの長い大木さんにとっても初めての経験。佐藤さんの言うように、確かに対策を練られて年々シュリンクしていく印象はありますけど、J2昇格1年目にプレーオフに進み、昨シーズンもきっちり残留していますからね。それを経ての3年目っていう期待感はありますよ。

池田 前にも言ったけど、“J2あるある”として、プレーオフに行きながら昇格できなかったチームは、そのオフにかなり(戦力を)むしり取られるじゃないですか。みんなそこで本当に苦労している。一方で、J2では1年目、もしくは前年が途中就任の1.5年目の監督が昇格するっていうジンクスが続いていますよね。昨シーズンも町田の黒田剛さん、磐田の横内昭展さんが1年目、東京Vの城福浩さんが1.5年目ですから。

──それで言うと、例えば清水の秋葉(忠宏)さんは1.5年目だから、今年なんとしても昇格しないと(笑)。まあ、清水くらいのクラブ規模ならそれほど影響はないんだろうけど、サプライズでプレーオフに進出したチームが、そこで上がり切れないと……。

池田 むしられちゃう(笑)。J1クラブはもちろん、J2の上のほうからも主力を取られちゃう。だから、一期一会じゃないけど、「そのシーズンを楽しまないと、あっという間にいなくなっちまうぜ」っていうのが、J2の儚さでもあるのかなと。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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