侍ジャパン再始動! WBC連覇へ、その未来を占う

矢野燿大がアジアプロ野球チャンピオンシップを総括 3年後の人選が難しいのはショートとキャッチャー

楊枝秀基

矢野氏が投手陣の中で「面白い存在」として名前を挙げたのが、自身が阪神監督時代にドラフトで獲得した左腕の桐敷。何事にも動じない強心臓も大舞台向きだ 【写真は共同】

 韓国との決勝をタイブレークの末にサヨナラ勝ちで制し、「アジアプロ野球チャンピオンシップ2023」で見事優勝を飾った日本。年齢制限のあった今大会は若手主体のメンバーでの戦いとなったが、はたして3年後のWBCに向けてどんな収穫と課題を得たのだろうか。そして、この中の何人が近未来の侍ジャパンの主力となるのか──。元阪神監督の矢野燿大氏に徹底解剖してもらった。

縦の変化を武器にする投手が重宝される

──アジアプロ野球チャンピオンシップ2023で、初陣の井端ジャパンが優勝という結果を残しました。今回はU-24(+オーバーエイジ3人)と年齢制限のある代表チームでしたが、今後の侍ジャパン(トップチーム)に欠かせない存在となりうる選手もいたのではありませんか?

 今回代表に選出されたメンバーの中から、3年後の2026年WBCで活躍する選手がいるかと言われれば、もちろんいるだろうね。いずれにせよ、侍ジャパンに選出されたこと自体が、各選手にとって貴重な経験になったはずだ。

──投手では、11月17日の韓国戦で先発し、7回を77球、3安打無失点と好投した隅田知一郎(西武)の存在感が光りました。

 隅田は2021年のドラフトの時に見ていた投手。あの年で言うと一番良い投手だったのは間違いない。チェンジアップが一番の武器で、あのボールは国際大会でも通用すると思う。

 あとは(阪神監督時代の21年ドラフトで獲得した選手とあって)贔屓目になってしまうかもしれないが、桐敷拓馬も面白い存在。今年はフォークボールがだいぶ良くなって、本人も自信を持って投げていた。元々スライダーなど一通りの変化球を操ることができたが、さらにフォークに自信を持てたのは大きい。左投手という利点もあるし、それに感情を表に出さず淡々と投げられるタイプで、動じない心を持っているのも大舞台向きだと思う。
 
 3年後のWBCの投手編成がどうなるかは分からないが、国際大会では縦の変化を武器にする投手が重宝される。千賀滉大(メッツ)なんかもそうだし、過去にアメリカで活躍した選手で言うと黒田博樹(ドジャース、ヤンキース)、現楽天のマー君(田中将大/ヤンキース)も良い縦系の変化球を持っている。そういう投手が代表に選出されやすいし、実戦でも必要になってくる。

テルがフル代表に選ばれたいのなら……

3年後のWBCで打線の中軸を担っている可能性のある3人。牧(中央)、万波(左)を称賛する矢野氏だが、教え子の佐藤輝(右)にはあえて厳しい言葉も 【写真は共同】

──野手では?

 牧秀悟(DeNA)はいいね、勝負強いし。弱点がないわけではないんだけど、穴が小さくて状況に応じたバッティングができるところが頼もしい。つなげて、自分で決めることもできるというのは魅力。代表チームには右投げ左打ちの選手が多くなる傾向があるので、中軸を任せられる右打者の存在は必要不可欠になってくる。牧が打線の中心にいてくれるのは心強い。

 なにより、チームを盛り上げてくれるあのキャラクターは貴重だし、それに今年のWBCで世界一を経験しているのも非常に大きい。きっと3年後も欠かせない戦力になっているはず。今大会では一塁守備でのミスもあったけど、侍ジャパンの選手としてトータルで高い能力を持っているので問題はない。3年後のWBCの時には28歳。年齢的にも中心となるに相応しいと感じている。

──身長192センチ、体重97キロと、外国人選手にも見劣りしないスケールの万波中正(日本ハム)も楽しみです。

 遠くに打球を飛ばすということに関しては、すでに素晴らしいものを持っている。肩にしても身体能力にしても、侍ジャパンに選ばれて当然という能力の持ち主。今年は素晴らしい結果(パ・リーグ本塁打王に1本差の25本塁打)を残したけど、もっとできると思うし、3年後にはフル代表のメンバーに入ってきてほしいね。

 パワーや打球の質、身体能力は間違いなく球界トップクラス。課題は本人も話していたように、「直球に対するコンタクト」の部分。国際大会の各国代表ともなると球の遅い投手なんてめったにいないし、世界レベルのストレートに対応してコンタクトできないことには、高い身体能力も生かせない。

──パワー、ポテンシャルという部分では、教え子の佐藤輝明(阪神)も負けていないのでは?

 テルはねぇ、ポテンシャルはもちろん高いんだけど、まだまだ1つひとつの技術が侍ジャパンのレベルに達していない。今大会も最初は中軸を打たせてもらっていたけど、最後は8番でしょ。テルには日本代表に選出されることではなく、その中で打線の中心を打つことを目標にしてもらいたい。

 自分のバットで勝つこともあれば、守備のミスでチームが負けてしまうこともある。ただ打てるだけの選手では、侍ジャパンのフル代表に選ばれることはない。まして日本代表のサードともなれば、まず守備は問題ないというレベルの選手でないと候補にすら入れない。その能力があって初めて、打撃面のプラスアルファが生きてくる。

 パワーに関してはメジャーでプレーしている選手にも引けは取らないと思う。でも、まだシーズンを通して安定した結果を残せていないし、現状ではフル代表に入って来られないでしょう。テルがそこに選ばれたいなら、打撃での安定感も必要だと思うけど、守備面に関してもっと意識できるようになること。そうすれば自ずとレベルアップできると思う。打つことに関しては、誰にああしろ、こうしろと言われなくても高い関心を持っているはず。ただ、数字には表れにくい守備とか、足を使うプレーとかを意識していけば、打撃にもより良い影響が出ると思う。

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著者プロフィール

1973年生まれ、神戸市出身。関西学院大から98年に『デイリースポーツ』入社。巨人、西武、ヤクルトなどを担当した後、2004年は合併消滅した近鉄、05〜10年は阪神、11年はオリックス番記者を務めた。13年からフリー。東京スポーツコラム「ワッショイ!!スポーツ見聞録」を不定期連載中。

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