U-18W杯 経験者は語る&現地レポート

ヤクルト・武岡がU-18W杯で受けた洗礼 外国人投手の速球に「どうやって打つんや…」

沢井史

初めての国際大会を楽しんだ方がいい

武岡は個性豊かなチームメイトから多くを吸収した。当時のメンバーとは今でも交流があるという(写真左から飯塚、奥川、宮城、佐々木) 【写真:共同通信社】

 日本代表として戦った試合は、高校3年夏までの県大会、甲子園などで味わった緊張感とはまったくの別物だったという。勝つことへの執着心は同じだが、日の丸を背負うという責任感やプライドも背負わなければいけない。高校生にとって、それが時には重荷になった。

「(チームメイトの)熊田(任洋/東邦~早稲田大)とバスなどでよく一緒になって、顔を合わせるたびにそういう話はしましたね。環境になじむのも大変でしたし、あまり外出もできなかったので」

 当時の大会は韓国・釜山で行われたが、渡航した当時は韓国の反日感情が高まった時期。大会前の公式練習も地元警察による厳重な警備体制のもとで移動し、練習が行われた。もちろん、原則外出は禁止、コンビニに行くのにもチームスタッフ帯同で、回数も限られた。ホテルは2人部屋で、武岡は宮城大弥(興南~オリックス)と同部屋だったという。野球のことしか考えられない環境ではあったが、チームメイト同士でふざけあったり、一緒に過ごした時間は最大の思い出となった。

「自分は特に森と熊田と仲が良かったです。宿舎では、よく一緒にスイングしに行っていました。宮城と飯塚(脩人/習志野~早稲田大)とも仲良くて、部屋にもよく来ていました」

 最終的に20人のメンバーみんなと話すようになり、今でも連絡を取ることもある。今年プロ入りした林優樹(近江~西濃運輸~楽天)とは、今春の沖縄キャンプで食事に出かけ、森や熊田とは時間さえ合えば3人で食事に行くことも多いという。

「侍ジャパンに選ばれて交友関係が広がりました。今、集まった時に他球団の話を聞くこともあって貴重な情報交換の場にもなっています」

 自身は苦労も多かったU-18W杯だったが、今となれば貴重な経験ばかりだったと振り返る。

「日本代表は一生に一度経験できるかできないか。相手が強かったり、プレッシャーもあると思いますが、僕はプレッシャーで楽しむことができなかったので、絶対に楽しんだほうがいい」

良きライバルの長岡と「うまく連携したい」

バウアーから放ったプロ初本塁打のことや、同期で同じ遊撃手の長岡についても語ってくれた 【写真:共同通信社】

 ヤクルトに入団した1年目から二軍でも試合経験を重ね、4年目となった今季は一軍で猛アピールを続けている。今年はプロ初本塁打をマークした。相手投手はMLBでサイ・ヤング賞を受賞したDeNAのバウアー投手だったのだから、値千金の一発だった。

「(本塁打を放った)前の打席までは苦しんでいたんです。(バウアー投手は)チェンジアップみたいな球やスライダー、カーブが良くて、あの試合は変化球自体が多かったんですけど、低めの変化球を振らないようにケアしていると、真っすぐが前に飛ばなくなる。だからしっかり割り切って、真っすぐ一本に絞っていたら、ちょうど得意なコースに真っすぐが来たので逃さずに打てました。でも、大差で負けていた場面なので……(感慨に浸れなかった)。サイ・ヤング賞の投手から打てたのは自慢になりますね」

 同じポジションの同期・長岡秀樹選手の存在も大きな刺激となっている。昨季にブレイクし、今季から背番号がひとケタになったライバルに追いつき追い越せの日々だが「入団した時から練習も試合もずっと一緒。良いライバル関係ではありますが、僕は(長岡選手と)立場が違って、いろんなポジションを守らないといけない。その辺りをうまくやらなきゃなと思っています。長岡がショートを守れば自分はセカンドやサードを守ることになるので、うまく連携を取っていけたらいいなと思います」

 それはまさにU-18W杯当時の経験も生きている部分も多いかもしれない。

 今はさまざまな役目をこなしながら、一軍定着を目指す。そしていつか“ヤクルトの顔”になる日を夢見ている。

「プロ野球生活は一軍にいてナンボなので、ずっと一軍に帯同してアピールできたらいいですね。今年は開幕から一軍ではなかったので、来年は開幕からずっと一軍にいられるようにしたいです」

 プロ野球生活は「1年1年が濃い。今年も濃いですね」と笑顔を見せる。苦い経験もパワーに変えられているのが、武岡龍世という選手を成長させているのかもしれない。

(企画構成:スリーライト)

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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