『ステルス2』が体現する 第二世代の衝撃波を徹底検証

GEW(月刊ゴルフ用品界)

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ちょうど1年前、ゴルフ市場に大きな衝撃波を与えた『ステルス』ドライバーが登場した。その画期的と言われたカーボンウッドを、さらに「飛距離性能と寛容性を更なる次元へ」と進化させたのが『ステルス2』 だ。

飛距離を伸ばすために従来は「反発性能」を追求してきたが、今はインパクト・エネルギーの「伝達効率」を多方面から追求している。

カーボンウッドの可能性を見出し、そこに独り突き進むテーラーメイドゴルフの真意はどこにあるのだろうか? アジアプロダクトリーダーの高橋伸忠氏に聞いてみた。
去年デビューした『ステルス』は、「カーボン時代の幕開け」を宣言して注目を集めました。今回の『ステルス2』は前作と比べて、何が変わって何が変わらなかったのか? まずはこの点から教えてください。

「ありがとうございます。まず、変わらなかった点を申し上げると、前作の特徴だった60層のフェースの積層枚数は変わりません。あとはフェースにプリントされた赤色の模様、それから3タイプのヘッドの名前とヘッドサイズも変わっていません。変わった点はそれ以外、つまりほとんどの部分が大きく変わったと思ってください」

そのあたりを具体的に聞きたいですね。どこが変わり、変わったことでどんな機能が得られたのか?

「わかりました。最大の変化はヘッドに占めるカーボン素材の分布量です。前作は、ヘッドに占めるカーボン素材の割合はチタンより少なかったのですが、今回はテーラーメイド史上初めてカーボンがチタン素材より増えることになりました。チタンやアルミよりも軽いカーボン素材を多く使うことで、これまで以上に大胆な重量の再配分が可能になりました。

第一に、再配分できる重量が大幅に増えたことによって、3種類の異なるヘッドの機能をより明確にできたことです。昨年の『ステルス』は3モデルの機能の幅が少し狭かったと言えますが、『ステルス2』は違いが個々に明確になって、さらに理想に近くなりました。キャッチコピーは『FARGIVENESS どこまでも遠くへどこまでもやさしく』というもので、試打すれば数値に表れ、体感でもきちんとわかるはずです」

寛容性は慣性モーメントの値で表せますが、どれくらい向上したわけですか?

「ヘッドの慣性モーメント値は、3つのモデルとも前昨比8〜10%ほど大きくなっています。各モデルの進化という面では、『ステルス2HD』は高弾道のドローバイアスのボールがより打ちやすくなった。『ステルス2PLUS』は、安定性と操作性が高まっています」

STEALTH、STEALTH2 フェ―ス裏側新旧比較 【GEW - ゴルフ通に刺さる最新ギア情報メディア】

なるほど。で、前作の特徴を一言でいえば、「カーボンフェースドライバー」という印象が強かったわけですが、『ステルス2』はフェースで進化した部分はありますか?

「そこは大いにあるんですよッ! カーボンシートを60枚重ねて成形したこと自体は同じだけど、積層の方法やシートの種類、重さを変えることで衝突のエネルギー効率を高めている。フェースの裏側を前作と見比べてみてください。中央部分が楕円形に盛り上がっていますよね。

前作はこの部分が目に見えるかどうかの微妙な盛り上がりでしたけど、今回はフェース周辺を薄く、中央部分を厚くするシートの編み込みに工夫を凝らしているんです。この部分をホットゾーンと呼んでいますが、これによりインパクトのエネルギー伝達が向上した。具体的な数字は控えますが、かなり上がっているんです」

そのほかに隠し味は?

「あります(笑)。ゴルファーの打点を考え、楕円形の盛り上がりはフェースセンターを中心に同じ割合で分布するのではなく、少しトウ寄りを広げたところが隠し味です。前作よりフェースの広い範囲で速いボールスピードが期待できますし、寛容性が高まった理由が見えてきますよね?

あとは、重さも前作より2g軽くなりました。『たった2g?』って思うかもしれませんが、昨年はチタンフェースの43gをカーボンにすることで26gへも軽量化した。その上で、さらに24gへ。たとえるなら、ボクサーが計量のためにシェイプアップしてギリギリまで絞り込む。その上で、最後の最後にさらに5%落とした。貴重な汗の結晶だと思いませんか?」

そうですねぇ(笑)。

ヘッドの反発から推進力を高める時代に

別の観点で質問します。一般的には、チタン合金フェースの方が反発を表すCT値が高くなり、飛ぶとされますね。この点に限ればチタンはカーボンより優れているかもしれない。このメリットを捨てて御社がカーボンフェースに突き進んだ理由は?

「そこは2つあって、ひとつはフェースの軽量化です。先ほどチタン素材に比べて約20g以上軽量化したと言いましたが、軽くできるメリットは開発者にとって最高のプレゼントなんですよ。

だって、重心位置や慣性モーメントの設計自由度が高まるじゃないですか。たしかに反発性能の面では、今のチタン合金フェースの技術を使えば規制値をはるかに超えられます。だけどご存知のように上限がある。ゴルフ規則で反発性能は規制されているので、反発を求める開発はほとんど限界にきてるわけですよ。でしょ?」
そうですね。


「そのような条件下でボールが飛ぶ要素に注目すれば、答えは自ずと明らかになります。ヘッドが持つエネルギーを、どれだけ効率良くボールに伝えられるのか、その方法論が極めて重要になってきます」

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つまり「反発性能」から「伝達効率」へのシフトだと?

「おっしゃるとおりです。テーラーメイドは20年以上かけてカーボン素材の可能性を求めてきたし、カーボンフェースを使った最もエネルギー効率の良いヘッド開発に注力してきました。そういった歴史が『ステルス2』の背景にあるわけです」

インパクトの伝達効率を高めるには、そのメカニズムを知らなきゃならない。この点どうでしょう。

「はい。まずはチタン合金ヘッドの場合、エネルギー伝達はボールとの衝突でフェースがたわむだけではなく、ヘッドのたわみから生じる剛性を生かして、ボールの『変形と復元』に合わせて伝えるわけです」

ヘッドの反発性能が高くても、粘土状の物質を打つとベタッと貼り付いて前に飛ばない。つまりヘッドとボールには双方最適な相性があって、それが「変形と復元」の話ですね。

「ところが、カーボンはチタンフェースのように変形しないんですよ。だからカーボンフェースを使ってボディ全体で衝撃を受け止め、さらに軽量化で得た重量をヘッドの後方に設置して、ヘッド全体の慣性力を高める。その推進力によって、ヘッド全体でボールを弾き飛ばす。これが『ステルス』の開発手法になるわけです」

推進力を高めるために余剰重量が必要だった。軽量のカーボンを選んだ理由ですね。

「そうです。実は、カーボン素材はCT値を正確に測ることができないんです。コンピューターのシミュレーションではそれなりの数値を計算できますが、やはり金属フェースじゃないから難しい。ただ、ボールの初速を調べれば、エネルギー効率が狙った結果に近いことがわかります」

5つのパーツを接着してヘッドを作る

理屈はよくわかりましたが、インパクトの衝撃を受け止める効率の良いボディはどんな構造なんですか?

「構造面で大事なことは、フェース部分で受けた強い衝撃をしっかり受け止める堅牢なボディなんです。見てください。チタンフレームはフェースを取り囲むようになってますよね。『ステルス2』は、使っているチタンはフェース周辺のフレームだけです。

ヘッド全体の歪みを抑えるための梁(ヘッド後方のリングフレーム)もカーボン素材を使ってます」

ヘッドのパーツはいくつで構成されるんですか?

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「カーボンフェース、チタンフレーム、カーボンソール、カーボンクラウン、それにカーボンコンポジットリングの5つです。これらのパーツはすべて、接着剤のみでヘッドを成形していますが、これも隠れた高い技術だと思います」

接着というのが凄いですね。御社のクラブ開発は、旧来のゴルフクラブのそれではなく、カーボン素材を使いこなす技術者や接着技術、樹脂技術の専門家も不可欠でしょう。いわば総合力になりますが、御社の開発チームにはどのような人達がいるんですか?

「そうですねぇ。開発はワンチームで活動していますが、それぞれ専門家がいて、専門部分の研究開発を行なっているんですよ。開発チームの人数は非公表ですが、数人という感じではありませんし、必要と思われる人材はその都度招聘しています。航空機関係の経験者や化学者、物理学に長けたエンジニアも加わって、ゴルフクラブの進化を日々、研究しています。

これだけの人材が集まっているわけだから、当然、開発の方向性はひとつではなく、常に各分野の先端技術を取り入れています。じゃないと、毎年新しいクラブを発表できませんよ。今はカーボン素材を活かしたクラブ開発に大きな可能性がありますから、その方向に集中していますが、開発の方向は多面的なので、カーボン素材に特化したものではありません」

カーボンフェースにも欠点はあるでしょう。炭素繊維を樹脂で固めたものだけに、バックスピンのかかり具合が金属フェースより良くないとか?

「おっしゃるとおりです。そのために出来上がったフェースの表面に特殊な樹脂をコーティングして、ボールとの接触による摩擦を高めています。さらに、目では見えない微細な溝を施すことで、安定したスピン量が得られる仕組みなんですね。

スピン量の話でいえば、『ステルス2』のソールにもスピードポケットと名付けた溝を配しています。スイートエリアより下に当たったショットは通常、過剰なギア効果によってスピン量が増え過ぎるとともに打ち出し角とボールスピードの低下を招きます。しかしスピードポケットを搭載すると緩衝機能を発揮して無駄なスピン量を減らしつつ、打出角は高く、ボールスピードの補填もしてうまく空中に打ち出せる。これも大事なポイントです」

こうして話を聞いてみると、『ステルス2』は『ステルス』の改良版ではなく、カーボンウッドの次世代モデルという感じですね。

「そうなんですよ。『2』は2番目という意味ではなく、セカンドジェネレーションの『2』なんだと。そんなふうにご理解いただければ嬉しいです。『ステルス』という新しいDNAを受け継いだ、次の世代という意味です。とにかく打って、違いを実感してください。必ずご満足いただけます」

松尾俊介の目

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筆者がキャロウェイで働いていた頃、開発の責任者だったDickさんがこんな話をしてくれた。

「開発の進歩は右肩上がりに登っていくものではなく、S字のようなものなんだよ。曲がる時は垂直に近い角度で上がり、上がり切ると穏やかなカーブになる。その繰り返しで、進歩という歩みは進んでいくんだ」―。

正直、初代『ステルス』はカーボンウッドと呼んで良いものかどうか迷っていた。しかし、この1年間の開発の進歩は、まさにS字を曲がり切って次の段階に進んだところであり、『ステルス2』は今までの研究開発が一つの方向にまとまって、大きなベクトルになった結果だと感じた。

飛行機が初めて音速を超えた時のように、大きな空気抵抗を打ち破った時に衝撃波(ソニックブーム)を伴って、飛行機は次世代の領域に入った。カーボンフェースはCT値を正確に測ることはできない。ということは、エネルギー伝達の方法でドライバーの開発はまだまだ大きな可能性を持って進むことができると思う。
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著者プロフィール

1978年2月創刊のゴルフ産業専門誌「月刊ゴルフ用品界」(GEW)を発行。2000年5月から影響力のあるコアゴルファーを対象にネット情報を発信するウエブサイト「GEW」を立ち上げた。各種業界団体と連携、ゴルフ市場活性化への活動も推進中。

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