いま、カンボジアサッカーが熱い。プロリーグ発展に情熱を注ぐ日本人“ダブルサイトウ”

木村雄大(ライトハウス)

カンボジア・プロサッカーリーグCEOの斎藤聡氏(右)とイージープロダクション社の 斎藤陽介氏(左) 【(C)CPL】

 昨年10月、新たに創設されたカンボジア・プロサッカーリーグのCEOに斎藤聡氏が就任した。FCバルセロナや日本サッカー協会、アジアサッカー連盟などで要職を務めた、世界のサッカーをビジネス面から知り尽くす男だ。時を同じくしてカンボジアの地にやってきたのが、元Jリーガーで、現在は革新的な手法であらゆるスポーツの中継・映像制作するイージープロダクション社の一員である斎藤陽介氏。彼らがカンボジアサッカーの発展に情熱を注ぐ理由とは? そこに、どんなビジネスチャンスがあるのか、二人の“サイトウ”に話を聞いた。

カンボジアにはノビシロしかない

 2018年夏、本田圭佑氏がカンボジア代表のゼネラルマネージャーに就任。その2ヶ月前にはFIFAワールドカップロシア大会で世界と戦った現役選手が、他国の実質的な代表監督を務めるという超異例の決断は、大きな驚きとともに日本中を駆け巡った。

 もっとも、カンボジアサッカーと日本との関わりは、そのときにはじまったわけではない。日本サッカー協会(JFA)公認指導者の海外派遣事業においては、2007年頃から定期的に指導者がカンボジアに足を運んでおり、2022年は、カンボジアサッカー連盟(FFC)の技術委員長を務めて8年目を迎えた小原一典氏を含む4人が現地で活動している。むろん、JFAが関与しない日本人指導者・選手が他にも多数活躍しているのは言うまでもない。

 そんなカンボジアにおいて、さらなるビッグニュースとして世間を驚かせたのが、昨年10月、新たに誕生するプロサッカーリーグ・カンボジアプレミアリーグ(CPL)のCEOに斎藤聡氏が就任したことだ。海外プロリーグの代表に日本人が就任するのは初めてのことである。

「もともとFFCの中にあったアマチュアリーグを、投資家の後ろ盾を得て法人化することになりました。私自身はFIFA(国際サッカー連盟)コンサルタントとして2013年頃から東南アジアの各国を担当させていただいており、FFCのサオ・ソカ会長ともお付き合いがあったんです。当時携わっていた東京五輪も終わり、『次は何をしようか』と思っていたところでちょうどお声掛けいただいたので、よし、やってみようと決めました」

 カンボジアは2022年10月発表のFIFAランキングで177位と、世界の中では弱小国であるのは事実。しかしその一方で、2023年には「東南アジアの五輪」と呼ばれるスポーツイベント「SEA Games」の自国開催が決まっており、上述の日本からの指導者受け入れなどを含めて「10年計画」としてそこに向けた強化・改革を進めている。CPLの立ち上げは、そのプロジェクトの最終章となるものだ。

「ご存知の通りカンボジアは、長らく続いた内戦やポル・ポト政権下の大虐殺など、悲しい歴史を歩んできた国です。だからこそSEA Gamesを成功させて復興を示したい、さらには最も人気のあるサッカーで盛り上げて優勝したい、そんな強い気持ちを持って準備を進めています。人口の70%以上が30歳以下という、高齢化が進む日本とはある意味真逆の国であり、明るい未来とノビシロしかないんですよ。新しいチャレンジとして、これ以上ない良い機会だと感じました」

東京五輪後、聡氏(右端)は新たなチャレンジの場としてカンボジアを選んだ 【(C)CPL】

そうして今年3月に、8チームによる「プレミアリーグ」として開幕。改善の余地は多く残すものの拮抗した試合によって生まれる競争下で、毎週、活気あるゲームがあふれている。

 並行して、リーグのブランディングなどビジネス面での改革も進めてきた。そこで協力を仰いだのが、年間約3,200試合もの国内外のスポーツ中継・映像制作を担っているイージープロダクション社だ。同社は趙守顕(チョウ スヒョン)氏と日置貴之氏の2名が2017年に立ち上げ、コロナ禍の映像配信需要の高騰も相まって急成長を遂げてきた。

 趙氏は、ヨーロッパサッカーや国際大会の放送権や配信権のプロフェショナルとして、世界的に有名なスポーツエージェンシーの事業責任者として活躍し、世界中にネットワークを持つ。日置氏も、国内外の数多くのスポーツリーグや連盟の改革や事業支援を行ない、東京五輪の開会式・閉会式のエグゼクティブプロデューサーも務めた。スポーツビジネス界のリーダーが作った同社は単なる制作会社の枠を超え、競技団体のニーズを理解し、権利開発から制作、配信までを包括的に支援する革新的な企業である。

「『全てのスポーツを民主化して解放していく』というのは、ちょっと強めの言葉ではありますが、我々の会社の思いです。全ての映像権利を主体者であるリーグが保有・管理し、顧客のニーズに合わせ、時代に適した方法で機動的に事業を展開し、収益化をすることが大事だと考えます。そのためにはどんな規模のリーグであっても映像コンテンツの権利を一元化し、完全保有することが不可欠です。そこからスポーツビジネスは始まります。スポーツ組織自体が収益化し、自立できるためのツールを作ることが、イージープロダクション立ち上げ時に、趙と僕とで決めたことでした」(日置氏)

 そんなスポーツ界の革新的なリーダーたちの下でスポーツ中継・映像制作のノウハウを身につけ、同社の海外事業担当としてカンボジアに足を踏み入れたのが、斎藤陽介氏だ。横浜F・マリノスの下部組織で育ち、4シーズンにわたるトップチーム在籍を経て、アルビレックス新潟シンガポールへ移籍。ヨーロッパに渡り、ラトビア、ロシアなどのクラブでプレーした後に2018年に引退し、同社でセカンドキャリアをスタートさせた。

2018年にサッカー選手を引退し、セカンドキャリアとして映像制作に携わる陽介氏(右) 【(C)CPL】

「僕が海外でプレーしているときに、趙さんにセカンドキャリアをどうしようか相談したときが、ちょうどイージープロダクションを立ち上げるタイミングでした。そのときはまだ選手としての契約が残っていましたが、それを切ってでも『自分がやるべきことはこれだ』と決断しました」

 スポーツビジネスで多くの実績をつくってきた聡氏がリーグのトップに立ち、選手としてさまざまな国でのプレー経験と映像制作のノウハウを持つ陽介氏がサポートする。“ダブルサイトウ”によるカンボジアサッカーの改革はこうしてスタートしたのであった。  

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