「不屈の開拓者」NTTリーグワン2022プレーオフ準決勝試合前コラム

チーム・協会

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

勝機は覚悟と不屈の中にある

覚悟とはなんだ。
不屈とはなんだ。
それはどこで示される。

試合前のあのロッカーか。
トライを取った後のインゴールか。
ノーサイド後の相手チームとの握手か。

いや、ちがう。そうじゃない。
覚悟とは、不屈とは、そんな居心地のいいものじゃない。

走って起きて立ち上がり、足が燃えたかのように動かなくなるあの感覚だ。
接点に接点を重ねて筋肉が熱をあげ、脈の鼓動が耳を打つあの音だ。
打った折れた捻った切れた、身骨壊れてなおプレーに戻るあの瞬間だ。

居心地が悪い。逃げ出したい。苦しい。痛い。
だが、そんな場所に自分たちの求めているものがある。

このチームの一員となる時に、覚悟を決めた。
ジャージーに袖を通すと同時に、腹を括った。
自分たちが得たいものを得るためなら、ソフトなオプションは捨ててきた。

打ちのめされても、倒されても、さも当たり前のように次の仕事に取り掛かる。
覚悟とは、何があってもそれをやり切るという強い意志だ。
真の強さとは、決して屈さない精神だ。
この舞台で勝利するということは、そういうことだ。

NTTリーグワン2022 プレーオフトーナメント準決勝
挑戦者として立ち向かうクボタスピアーズ船橋・東京ベイにとって、そうした覚悟と不屈が試される場面に勝機がある。

NTTリーグワン2022第16節のワイルドナイツ戦。ボールを奪いにいく杉本選手とデーヴィッド選手。杉本選手は次戦でクボタスピアーズの公式戦出場100試合目となる 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

タフなのが好き

クボタスピアーズ船橋・東京ベイのクラブハウスにある掲示物が掲げられている。
「クボタマンのDNAとは」と書かれたチームの一員としての、理想とも条件ともいえる内容が列挙された掲示物だ。選手・スタッフすべてに向けたこの掲示物は、決して男性だけに向けられたものではないが、特に伝えたい選手を狙ってのこの表現なのだろう。

その掲示物の一節にこうある。
「タフなのが好き」

ユニークな表現だ。
「タフでなければいけない。」でも「タフでいなさい。」でもなく、「タフなのが好き。」

まるで暗示を言い聞かせるようにも聞こえなくはないこの表現だが、彼らのプレーを見て納得する。クボタスピアーズを背負った者たちは、タフなのを好む。

例えば、前節のワイルドナイツ戦。
0ー8の点差で前半終了のホーンがなった。
昨年度王者とのアウェイゲーム、ロースコアの8点差で折り返し。
悪くない展開のはずだったが、スピアーズはそれを良しとしなかった。
タッチに蹴り出し、この日何度目かのモールを組むと、相手と真っ向から力比べで押し切った。その後のゴールキックも決めて1点差で折り返した。

この試合は、後半も拮抗した展開。ヒリヒリする緊張感の中、残り10分少々のところでスピアーズはトライとゴールを奪って同点まで追いついた。あとは、勝利の糸口を手繰り寄せるだけ。しかし逆にそれを引き寄せたのはワイルドナイツだった。
あと一歩のところでの惜しい敗戦。だがオレンジのジャージーを着た誰一人として下を向く者はいなかった。それは、この試合に確かな手ごたえを感じていたからだ。そして、その手ごたえは、前半終了間際のようなタフな選択があってこそ。
タフな場面でどう行動できるかが、自分たちが何者であるかを示すことを選手たちは知っている。

NTTリーグワン2022第16節のワイルドナイツ戦。後半35分で決定的なトライを奪われた後の選手たちの様子。感傷的になることはなく、すぐに次のプレーに切り替える姿が印象的だった。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

今季スピアーズの真価は、こうしたタフな選択が迫られる逆境の場面でこそ、見ることができる。

第9節のサンゴリアス戦。強敵とのビジターゲームというシチュエーションに加え、マルコム選手、ラピース選手、クロッティ選手といった各国キャップホルダーや、フォワードの要であるロック陣のボタ選手、デーヴィッド選手、ウヴェ選手らが負傷により欠場。
これ以上のない逆境に挑んだのは、平均年齢27歳の若い23人の登録選手たちだった。

彼らは失敗を恐れない勇ましいプレーで、挑戦者とはこうあるべきという姿を、秩父宮の観客に見せつけた。開始早々に相手の出鼻を挫くスクラムターンオーバーからの先制トライを奪うと、その後はリードされながらも必死に食らいついた。圧巻は後半30分すぎ、自陣ラインアウトから果敢に展開し、途中交代したメンバーを含めた全員でボールを繋いだ。グラウンドを横にも縦にも大きく使うダイナミックなラグビーで、あっという間にトライをもぎ取った。

この試合は敗戦となってしまったが、逆境に対峙した場面をタフな選択によって好機を引き寄せた好例だ。
こうしたチーム全員でタフな決断に覚悟を決め、屈さず挑んだ積み重ねがチームを次のレベルに引き上げる。
その次のレベルとは、リーグワン初代王者に他ならない。
準決勝でスピアーズは、チーム初の日本ラグビー界最高峰の舞台での決勝進出を拓こうとする。

NTTリーグワン2022第9節のサンゴリアス戦。後半34分に奪ったトライに結びつけたプレーで、突破した根塚選手からパスを受け取った藤原選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

壁を叩き続けて未来を拓く

他競技の話にはなってしまうが、陸上競技の1マイル走には、「4分の壁」というものが存在した。
1マイル(約1.6KM)を走るのに4分を切ることは、人間の能力では不可能と数十年間言われてきた説のことだ。しかしこの壁は、1954年に覆される。ロジャー・バニスターという25歳のランナーが、3分59秒という記録で、「4分の壁」は迷信であることを証明した。

そして、その「4分の壁」が破られてから2か月もたたないうちに、このバニスター氏の記録は、ジョン・ランディという選手によって塗り替えられる。話はそれだけでは終わらない。なんと約1年で37人、その翌年には300人以上のランナーが、長年不可能とされてきた「4分の壁」を破ったのだ。

この陸上競技の歴史は、「限界や壁と言われているものは、周りが決めていることにすぎない。」ということを教えてくれる。
そしてもう一つの学びは、「最初に壁を突破した者は、ただならぬ覚悟があった。」ということだ。
「4分の壁」が破られる前、4分を切ることは人間の身体能力では不可能で、挑戦すれば死に至ると、警告されていたという。だが、バニスター氏は「4分の壁は自分が真っ先に突破する。」という強い意志を持ってこの偉業を成し遂げた。
例えすぐに自分の記録を塗り替えられたとしても、その後多くのランナーが壁を感じることなく、好タイムを記録したことを考えると、バニスター氏の功績は大きい。バニスター氏の覚悟を決めた挑戦は、彼自身だけでなく未来のランナーたちを次のレベルに引き上げたのだ。

スピアーズにとって明日の試合は、このバニスター氏の1マイル走のような、未来を拓く一戦といえる。

2006年以来勝利していないワイルドナイツとの対戦。
過去最高順位3位のスピアーズに対して、トップリーグ時代では優勝5回、日本選手権では連覇含む6回の優勝経験を誇るワイルドナイツ。
前節での同カードでの敗戦。
おそらく前評判ではワイルドナイツ優勢だろう。

だが、それでいい。
壁を作ればキリがない。
限界はだれかに決められるものじゃない。

フランヘッドコーチが、良く言う言葉がある。

『Pounding the Rock』

この言葉の説明としては
「大きな岩を割ろうとする石切職人が、岩を割ろうと工具で打ち叩いて100打叩いても割れないかもしれない。だが、それでも101打目で割れる時もある。しかし、割れた理由は1打によって割れたわけでなく、その前の100打があったからだ。私たちは100打目で諦めてやめるか、それとも101打目を叩くのか。」

スピアーズは、一戦一戦自らのプロセスを信じて、壁を打ち叩き続けてここまできた。

タフを好む者たちは信じている。
覚悟を決めた者たちは見えている。
壁の向こう側に差す光を。
壁にできたわずかな亀裂を。

彼らは開拓者。
チームの未来を拓く不屈の開拓者。

明日こそ壁を壊して、チームを次のステージに引き上げる。
ノーサイド後に、壁の向こう側の光が彼らを照らす。


文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 広報担当 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治

キャプテン立川選手。キャプテン就任以来、ワイルドナイツとは3シーズン連続の開幕戦でも対戦してきた。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

何度でも屈せず壁に挑戦できたのは、どんな時もスタンドで応援してくれる眩しいオレンジアーミーの存在があったから 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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