藤沢のショットが冴えた逆境での米国戦 「カーリングの妙」を吉村紗也香が解説

竹田聡一郎

2連敗中の悪い流れを断ち切り、待望の勝利をつかんだ日本。最終戦も勝利して準決勝に進むことはできるのか 【写真は共同】

 16日、北京五輪のカーリング女子の1次リーグが行われ、2連敗と窮地に立たされていた日本代表「ロコ・ソラーレ」は米国を10−7で下し、通算成績を5勝3敗とした。日本は17日に行われる1次リーグ最終戦・スイス戦に勝利すると、自力での準決勝進出が決まる。また、カナダ、英国、韓国の試合結果によっては、スイスに敗れたとしてもトーナメントに進める可能性を残している。

 1次リーグの勝負どころとなった米国戦では、韓国戦、英国戦でなかなかたぐり寄せられなかった流れをがっちりつかんだロコ・ソラーレ。プレッシャーがかかる中で、悪い流れを断ち切れた要因はどこにあったのか。北京五輪代表決定戦で大熱戦を繰り広げたフォルティウスのスキップ・吉村紗也香さんに、米国戦の勝敗を分けたポイントを戦術的な観点で解説してもらった。

序盤の流れを引き寄せた3点をスチールした2エンド

リード・吉田夕梨花(左)とセカンド・鈴木夕湖(中央)のフロントエンドの二人が2エンドの流れを作った 【写真は共同】

――まず後攻スタートだった1エンド目、米国がハウス内外に次々とストーンを送り込んでくる厳しい展開になりました。

 最後に藤沢五月選手の最大3失点の恐れもあったプレッシャーショットが残るなど、簡単なエンドではありませんでした。ウェイト(ストーンのスピード)もラインコールも適切でチームみんなが落ち着いて決めた印象でした。不運な形で相手のストーンが残ったり、ショットがうまくつながらなかったりしたとしても、スキップのラストロックさえ決まれば点にはなりますし、前向きに次のエンドを迎えることができます。そういう意味ではよくしのいだ、悪くない結果だったと思います。

――直後の2エンド、大きく試合が動きました。

 セットアップのところで相手にミスが出て、日本としてはセンターガードがある状態で、鈴木夕湖選手の2投目をTライン(ハウスの中心をセンターラインと垂直に横切る直線)の前でうまく隠せました。ガードストーンがある状態でTラインの前に自分たちのストーンを置けると、フリーズ(ストーンにピッタリくっつけて置くショット)は難しいですし、テイク(ストーンに当ててたたき出す投球)するならまずはガードストーンを処理する必要があります。そういう意味で「強い石」と呼ぶのですが、まずはフロントエンド(リードとセカンド)でかなり有利な状況を作れました。

――続くサードの吉田知那美選手のところで、スキップの藤沢選手はロングガード(ハウスから距離のあるガード)を重ねるという選択をしました。

 ハウスの中には強いNo.1ストーンと、すぐ打てる位置ではありますがNo.2ストーンもある状況でした。ハウスの中に新たに石を運ぶ選択肢もあったのですが、ランバック(ガードストーンからハウス内のストーンを狙うこと)が選択されるのであれば、いい形なのでスチール(先攻チームがそのエンドに得点をすること)にいく。序盤だけどそんな「攻める意思」を持ったダブルガードでした。とても面白い一手ですし、ロコ・ソラーレとしてはすでにある程度はアイスが読めているという自信が伺えましたね。

――そのダブルガードを嫌がって米国はクリアリングを始めますが、うまくはがせずに吉田知那美選手と藤沢選手のところでしつこくガードを置いて、最後は米国にミスが出て3点スチール。計4点のリードを奪います。

 大きかったですね。やっぱりどの試合を見ていてもアイスが難しそうなので、3点差、4点差を追うのはかなりタフな展開だと言わざるを得ません。日本だと英国戦がいい例ですが、点差を埋めるためには正確なドロー(ストーンを置きたい位置に止めるショット)が必要になるのに対し、相手はテイクでシンプルにかわせる。ドローとテイクで投げ合うのはちょっと分が悪いだけに、そのシチュエーションで3点を奪えたのは日本にとって大きかったと思います。

ベストプレーは4エンドの「チームショット」

ウェイトも、ハードスイープも、ラインコールも完璧だった4エンドのチームショットがこの試合のベストプレーだった 【写真は共同】

――2エンドのスチールは非常に大きかったのですが、続く3エンドで米国はしっかり2点を取ってきます。

 吉田知那美選手が米国にN0.1〜3を取られている不利な状況下で、藤沢選手の最終投の前に「4点取られてもいい」と覚悟してガードストーンから飛ばすショットを選択しました。これを決めたので、「むしろ2点ですんだ」印象でした。点差ほどらくなエンドではなかったですね。

――そして、その後の4エンドには今度は日本が2点を返します。

 4エンドも、どちらかといえばストーンの配置は米国有利に見えました。スキップの投げ合いのところでも米国のタビサ・ピーターソン選手が藤沢選手の1投にくっつけるフリーズを決めています。米国にとっては、後攻の相手に1点取ってもらう「フォース」成功かと思ったところで、藤沢選手のレイズ(他のストーンに当てて相手のストーンをはじき出すこと)で2点目を奪いました。

――かなり難しいショットだったと思いますが、スキップとしてはこの精緻なショットをどういう狙いで投げるのでしょうか。

 No1、No.2を取るために考えるのと同時に、やってはいけないミスをチームで共有します。この場合、やってはいけないのは相手の黄色のストーンに当てて、自分のストーンも動いてしまいスチールされること。やるべきことは相手のストーンだけをほんのちょっと押すこと。だからウェイトはセンターラインまで届かないくらいのTラインの前くらいのイメージで、あとはスイープで曲げ方などを調節する。そんなチームショットでした。ウェイトも、ハードスイープも、ラインコールも完璧で、個人的に「このゲームで一番のショット」だったと思います。

――5エンドも1点ですんで、ハーフタイム明けの6エンドは、日本が1点を取らされるという展開でした。

 3〜6エンドの中盤は点差を保ちながら進行しているので、スコアボードを見ただけでは順調だと思いがちです。実際には藤沢選手のラストロックや相手にミスも出て、なんとかピンチをしのげているという印象でした。さきほど「追うのは難しい」という話をしたのですが、その一方で「五輪は追って相手にプレッシャーをかけることのできる好チームばかり」とも言えます。簡単には逃げさせてくれませんでしたね。

――特に6エンドの藤沢選手のラストロックは1エンド同様、ミスが出れば相手に大量失点、最大4点を与えてしまうプレッシャーショットでした。

 ラストロックを投げる時にセンターガードがあって、ボタン(ハウス中央)が見えないだけでもプレッシャーはあるのですが、この場合はハウス内に4つのストーン、しかも4フット(ハウス中央の赤い円)付近の両サイドに散らされていました。それが視界に入ると気になるケースもあります。

 それでも好調な藤沢選手の技術があれば4フットそのものは空いていたので、そこに運ぶのはそこまで難しくはありません。ただ、もうひとつ不安な要素がありました。前日の英国戦でピック(ごみや髪の毛など氷上にある異物がストーンにかんでしまうこと)に遭ったことです。

――そういう不運を引きずってしまうこともあるんですか?

 藤沢選手は切り替えのうまい選手ですし、スキップはそうあるべきなんですけれど、頭をよぎってしまうこともあると思います。同じ6エンドで同じターン、似ているパス(ストーンの通り道)ですしね。その一方でリスク管理という意味では、今から投げるパスをしっかりクリーン(履いてきれいにしておく)することは必要ですね。私があそこにいたら、ハウスからハック(投てき時の蹴り台)に向かう際にものすごく念入りにクリーンしていると思います。

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著者プロフィール

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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