チームメイトからの刺激を力に変えた鍵山優真 「普通の試合みたいな気持ち」で挑んだ初の五輪

沢田聡子

18歳の鍵山は、この上ないオリンピックデビューを果たした 【Getty Images】

 『グラディエイター』の壮大な旋律に乗り、鍵山優真(オリエンタルバイオ)は持ち前の伸びやかなスケーティングで首都体育館のリンクを駆けた。曲がクライマックスに向かうにつれ、滑りもどんどん大きくなっていく。18歳の鍵山はこの上ない五輪デビューを果たした。
 フィギュアスケート団体戦・男子FSに、日本からは鍵山が出場した。現役時代に1992年アルベールビル五輪・94年リレハンメル五輪に出場している父、正和コーチに「とりあえず悔いのないように全力でやってこい」と送り出された。

 曲が流れ、引き締まった表情で滑り始めた鍵山は、まず4回転サルコウを3.46という高い加点のつく出来栄えで鮮やかに決めてみせる。演技直前に出た予定構成表では二つ目のジャンプは3回転ルッツになっていたが、鍵山はここでまだ試合で成功したことがない4回転ループに果敢に挑む。しっかり回り切り、オーバーターンになったものの着氷。出来栄え点も0.6とわずかながらプラスがついた。

 鍵山はさらに攻め続ける。予定では、3番目のジャンプとなる4回転トウループの後に3回転ループをつけてコンビネーションにすることになっていた。しかし、本番では最初の4回転トウループを単発にし、基礎点が1.1倍になる後半に4回転トウループ+シングルオイラー+3回転サルコウを跳んでいる。跳ぶ選手が少ない難しい連続ジャンプ、3回転フリップ+3回転ループもきっちりと決め、攻撃的な構成を堂々と滑り切った。演技を終えてほっとした表情になった鍵山は、声援を送っていた日本のチームメイトに手を振った。

 鍵山が優れているのは、初の五輪に物怖じせず難しい構成に挑んでいく向上心だけではない。ただ挑戦するだけにとどまらず、プログラムの完成度を損ねずに滑り切るところだ。採点表を見ると、すべての要素に加点がつき、演技構成点も5項目すべてが9点台。自己最高得点を11点以上更新する208.94というスコアをたたき出したのも当然と思える、圧巻の演技だった。

 最高の演技をみせた鍵山は、2位に27点以上の大差をつけ、男子フリー1位になった。その結果、日本チームは現時点で3位につけている。初めて団体戦が行われた14年ソチ五輪、18年平昌五輪と続けて5位だった日本にとって悲願であるメダルに、この日一気に近づいた。

自信満々で跳んだ、後半の連続ジャンプ

4回転ループ以外の要素を磨き抜いてきたからこそ、鍵山は4回転ループに挑むことができた 【Getty Images】

 ミックスゾーンに現れた鍵山は、いつも通り朗らかに報道陣に対応した。

「びっくりしました。あんなに点数が……『200点は超えたいな』という気持ちはとてもあったので、まずは良かったです」

 4回転ループについて、鍵山は「(練習の)演技の中でも完璧に降りることはあまりなかったですけど、ある程度(着氷して)立つことはできてはいたので、今日はそんなに不安はなかった」と話す。五輪で4回転ループを跳ぶ決断は、鍵山自身の強い意志によるものだった。

「とにかく、僕がやりたかった。練習での確率は(4回転)サルコウや(4回転)トウループみたいに良くないですけど、ある程度の形はできてはいたので。ループを入れると、その他の要素が大事になってくるじゃないですか。そこの自信があったので、不安なく入れられたかなと思います」

 4回転ループ以外の要素を磨き抜いてきたからこそ、鍵山は4回転ループに挑むことができたのだ。「(4回転)ループ以外の要素は練習通り完璧にやることができたので、そこは良かった」と鍵山が言う通りの演技だった。

 着氷がオーバーターンとなった4回転ループのGOEもプラスになっていることを報道陣から聞き、鍵山は「なんで?ちょっとそこはわかんないですけど」と率直に驚いている。「僕はちょっと(GOEは)マイナスの方で考えているので、個人戦ではもっといいループを跳びたい」という鍵山の言葉からは、常に完全なものを求めて練習している高い意識が感じられた。後半に組み込んだ4回転トウループからの連続ジャンプにも、不安はなかったという。

「もう、自信満々で跳ぶことができたので。こっち(北京)にきてから、練習でもだいぶ調子を上げてこれたので、そのまま演技に出すことができてよかったです」

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著者プロフィール

沢田聡子

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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