連載:#BAYSTARS - 横浜DeNAベイスターズ連載企画 -

地方番組「水どう」が世界で配信されるまで ベイスターズ映画から考える映像作品の未来

中島大輔

個人を磨けば、“最強チーム”ができる

球団公式ドキュメンタリーシリーズの最新作『BBB』では、どのようなテーマを立て、どの選手にフォーカスを当てたのか 【(C)YDB】

――映像の取捨選択について『BBB』でも悩ましい部分があったと思います。楠本泰史選手の代打に関するエピソードがありましたが、主力ではない選手に多くの時間を割いた理由は?

前原 例年はテーマに沿った人選をして、ストーリーがある人を中心につくっていきます。今回は監督の辻本和夫さんが3年目で、「2021年は6位だったなか、陽が当たらないけど来年につながる希望のような選手がいっぱいいる」ということで、そういう選手にも光を当てようとなりました。

――作り手として、登場人物を売り出したいという考えはありますか。例えば、大泉洋さんは『水曜どうでしょう』から『NHK紅白歌合戦』の司会を務めるところまで行きました。

藤村 後押しとかはないですね。『水曜どうでしょう』をやり始めた直後から、「こいつ、日本一面白いな」と思ったから。『水曜どうでしょう』って、じつはチームではないんですよ。個人の集まり。もちろんチームワークは大事だけど、ともすると助けてもらえるとか、チームワークに甘える人が出てくる。『水曜どうでしょう』は同じ車に4人が乗っているけど、個人の思いが非常にあります。俺はリーダーを取りたい人間だし、鈴井(貴之)さんもそう。大泉は「笑いに関して、悪いけど僕がトップですから」みたいな感じで、(もう1人のディレクターの)嬉野(雅道)さんは俺らの言うことを聞かずに好きなものを撮っている。でも、ぶつかってばかりではいられないから最終的にはがちっと固まります。

 そういうチームだから大泉が紅白に出て、どんどん有名になってくれるのは『水曜どうでしょう』にとって非常に利益です。昔は「『水曜どうでしょう』に出ている大泉洋さんですよね」という言われ方をしたけど、今は「大泉さん、こんな番組に昔から出ていたんだ」って逆流してくれることもある。親心でも何でもなく、利害関係として大泉が売れれば売れるほど利益がある。でも感情的なものは別にあって、『水曜どうでしょう』の大泉洋が一番輝いてほしい。

名物Dがベイスターズに感じた「強さ」

藤村ディレクターも賛辞を贈ったベイスターズの公式ドキュメンタリー映像シリーズ。今後はどんな展開が待っているのだろうか 【(C)YDB】

前原 選手のブランディングみたいなことも考えていたのですが、今の話は非常に考えさせられました。

藤村 出演者にずっと言っているのは、「面白くなかったら代える」。僕が「大泉がこんなに面白いことを言っているから、使ってあげないとダメ」と変な愛着を持った瞬間、自分の感性がブレるから。もちろん信頼関係はつくるけど、信頼関係があるからこそどこかで突き放して、素材として見ていく。選手にも「ここで泣いてくれればいいのに」という目で見るとか。

前原 それはすごくあります。

藤村 我々がそういうストーリーをずっと追っていると、意外と人間って言葉で言わなくても伝わるんだよね。今回2人と話して、映像を見て、このドキュメンタリーはベイスターズを盛り上げようと始まったところから、ものすごい手間をかけて細部まで入り、映像としてすごくレベルが高くなってきていると感じました。1年間も密着すると、こんなにちゃんとしたものができるじゃんって。今はYouTubeとか10数秒の動画がもてはやされているけど、まったく真逆で、ものすごい時間をかけてつくっている。その強さをすごく感じたから、ベイスターズやるじゃんって(笑)。ちょっと見直しました。

(企画構成:株式会社スリーライト)

【(C)YDB】

原惇子(はら・じゅんこ)
株式会社横浜DeNAベイスターズ ビジネス統括本部 MD部 部長。2005年早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業後、健康スポーツ事業会社、大手インターネット広告代理店を経て2014年横浜DeNAベイスターズへ入社。その後、チケット部部長を経て、2018年11月より現職。

【(C)YDB】

前原祥吾(まえはら・しょうご)
株式会社横浜DeNAベイスターズ ビジネス統括本部 エンタテインメント部イベント企画グループ。エディトリアル・グラフィックデザイン職を経て、2015年に横浜DeNAベイスターズに入社。入社後はデザイン業務、球場演出、SNS運用、動画ディレクションなどを担当。2018年より球団ドキュメンタリー映像の企画・プロデュース、ディレクション業務を担当。

【写真提供:どうで荘】

藤村忠寿(ふじむら・ただひさ)
1965年生まれ、愛知県出身。愛称は「藤やん」。90年に北海道テレビ放送に入社。東京支社の編成業務部を経て、95年に本社の制作部に異動。96年にチーフディレクターとして『水曜どうでしょう』を立ち上げる。番組にはナレーターとしても登場。大泉洋主演『歓喜の歌』、安田顕主演『ミエルヒ』(ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、文化庁芸術祭賞 テレビ・ドラマ部門優秀賞)など多数のドラマを演出。2019年日本民間放送連盟賞テレビ部門グランプリとなった『チャンネルはそのまま!』では、演出のほか、小倉虎也役で出演している。ほか、役者としての出演作に映画『猫は抱くもの』(犬童一心監督)、舞台『リ・リ・リストラ』(鈴井貴之演出)など多数。著作に『けもの道』(KADOKAWA)、『笑ってる場合かヒゲ 水曜どうでしょう的思考』(朝日新聞出版)、嬉野雅道との共著に『人生に悩む人よ 藤やん・うれしーの悩むだけ損!』(KADOKAWA)、『腹を割って話した』(イースト・プレス)、『仕事論』(総合法令出版)など。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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